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70.第9話「黄金龍の唸り声」(2)


 朝食を終えたザイルダイトとイェルコインは、町の少々高い場所へ移動していた。

 町中を上から見ることができて凄く良い景色だった。


 あの後ヴィレンビーは特に二人に関わろうとはせず、そのまま店を出て行った。


「・・・。」


 柵に寄りかかりながらイェルコインは同じく柵に寄りかかっているザイルダイトを黙って見る。

 ただイェルコインが町の方に体を向けているのに対し、ザイルダイトは町に背を向けて空を見上げている。


「なにか用かい?」


 自身に向けられている視線に気付いて話しかけるザイルダイト。

 ただし彼の目線は空を眺めたままだった。


 見ていることに気付かれたイェルコインは少々戸惑うが、やがて口を開いた。


「実は、さっきのアイツとあの時に戦ってた際にあんたの身体から黒い光のようなモノが(あふ)れ出てきていたことを思い出してさ・・・。」


 あの時とは「ケッボ村」での戦いのことで、アイツとはヴィレンビーのことだ。

 前にザイルダイトはヴィレンビーを倒した際に身体中から黒い光が溢れ出ていた状態だった。

 普段ザイルダイトは「気」という力を使う際に金色の光を出すが、それとは違う感じだった。


「あー、出てたんだぁ・・・。」


 ザイルダイトは「やっちまった」という感じのテンションでコメントしている。

 ふとイェルコインの方を向くと、返答を待っているかのように顔を見てきていた。


 なにかしら言い訳を考えようとしていたザイルダイトだったが、真っ直ぐな瞳を向けられてしまっているため、嘘をついたりできなくなってしまった。


「・・・あれは『殺気』だよ。」


 ザイルダイトは再び空を眺めながら言う。

 雰囲気的に嘘をついている様子はないことをイェルコインは感じていた。


「俺が戦闘で使う力は『気』というモノだが、そこに憎しみなどの"負の感情"が加わると、自分でも感情をコントロールできないくらい暴走してしまうことがあるんだ。」


 ザイルダイトは顔を上げた状態で目を閉じている。

 肌で風を感じながら喋っていた。


 しばらく間が()いた後、イェルコインの方に顔を向けて目を開けた。


「なるべく他言無用にしてくれ。 俺のイメージが壊れちまうからな。」


 ザイルダイトは若干ふざけた感じで言う。

 だがイェルコインは新たな情報に少々驚いているようで返事はしなかった。


 ザイルダイトは「ふぅー」と息を吐いた後、柵から離れて歩き出した。

 そして近くに生えている木の下に移動して、木を見上げ始めた。


「それとも、もっとクールな感じを目指すか?」


 ザイルダイトは木を見ながら、イェルコインに聞くように話す。

 そんなザイルダイトの背中をイェルコインは無言で眺めた。


「いいよ、あんたはそのままで。」


 イェルコインはハッキリとそう言った。

 クールな性格ではなく、いつも通り元気で騒がしい方がイェルコインは好きなようだ。


「あんたはいつも元気でいてくれ。」


 イェルコインは冗談半分に言う。

 若干面倒臭そうな顔も見せていた。



 ・・・だが、イェルコインのその言葉を聞いた瞬間、ザイルダイトは目を見開いた。

 イェルコインに背を向けてるので見られてはいない。


 現在ザイルダイトの脳裏には昔の記憶が流れてきた。

 昔なのでハッキリした光景が浮かばないが、それだけでザイルダイトには何の記憶か分かっていた。


 記憶の中では、黒髪ショートヘアのどこかイェルコインに似ている幼い少女がガラスの向こう側で涙を流しながら微笑んでいる。

 その微笑みは一人称視点のザイルダイトへ向けられたモノらしい。

 少女はガラスに両手を付けながらザイルダイトへある言葉を送った。


(「私が居なくても、いつも元気でいてね・・・。」)


 少女がそう言い終わると、彼女の下から()き出てきた。

 そして徐々に水位が上がってきて・・・。


 そこでザイルダイトは思い出すことをやめた。



 現在に意識を戻したザイルダイトはイェルコインの方を向いた。


「ああ、俺はどんなことがあっても常に元気でいるさ。」


 ザイルダイトは微笑む。

 視線の先にいるイェルコインを見ながら。


 しかし木陰でやや暗い影響か、どこかザイルダイトの微笑みに少しだけだが不気味さを感じたイェルコインだった。

 もちろん顔には出さなかったが。






 イェルコインとザイルダイトが町中を歩き回っている一方、別の場所でも歩いていた人物がいた。

 新顔(しんがお)のエイジである。

 彼は町の入口に向かって歩みを進めており、外に行こうとしていた。


 そんなエイジが気になって後ろから付いて来ている者もいた。

 同じく仲間のシグだ。

 彼女は町の外に出て行ったエイジの後を隠れて追跡していた。



 エイジは近辺にある森の中に入って行き、姿が見えなくなる。

 シグはゆっくりと近付いて行き、同様に森の中へ入って行く。


 シグはなるべく物音を立てないように森の中を歩んで行きながらエイジを探す。

 木々が邪魔して中々エイジを見つけられなかったが、しばらくして"変な音"が聞こえてきた。

 シグは音がする方へ歩いて行く。

 するとそこにいたのは、勢いよくハルバードの斧刃(おのば)を木に向かって当てるエイジの姿だった。


 エイジは何度もハルバードを振り回して木に切れ目を入れている。

 ただしどうも木を()りたい様子ではなさそうだった。


 エイジは右手で持っているハルバードの穂先(ほさき)を地面に刺して、身体を支える。

 息が荒く、気分が悪そうな様子だった。


 そんなエイジを見て、近付こうとするシグ。

 既に足音を気にしようとはせず、普通にエイジのもとへ姿を現した。


 すると次の瞬間、エイジは勢いよくシグの方に顔を向けた。


「近付くな!!」


 エイジは必死な感じで大声でシグに言い放つ。

 驚いたシグは思わず少し後退(あとずさ)ってしまった。


 シグが距離を離したことを確認して、エイジは視線を地面に向ける。


「すまないが、一人にしてくれ・・・。」


 エイジは辛そうな声で話す。

 顔から凄い量の汗を出しており、顔に巻いている赤い布も汗で湿(しめ)っていた。


「い、一体どうしたの・・・?」


 シグは心配そうな声色でエイジに聞く。

 しかしエイジは答えようとしない。


 ・・・その時だった。


大方(おおかた)、レッドキャップの殺人欲を(おさ)えようとしているのだろう。」


 シグの後ろから二人の人物が現れた。

 ギルダーとフブキだった。


「なにか知ってるの・・・?」


 シグがギルダーに聞く。

 ギルダーはシグの横を通り過ぎてエイジに近付く。

 ただしエイジの攻撃範囲外になる場所で歩みを止める。


「レッドキャップは『生物を殺すこと』が習性となっている種族だ。 長い間、生物を傷つけたりしないと禁断症状が出てしまうと聞いたことがある。」


 ギルダーは淡々(たんたん)と説明をする。

 視線の先にいるエイジを無表情で眺めていた。


「なぜ俺がレッドキャップだと・・・?」


 エイジは辛そうな表情でギルダーを見る。

 エイジがレッドキャップであることを知っているのは一部の人物たちのみで、少なくともギルダーは知らされていなかった。

 だがギルダーはエイジがレッドキャップだということを見抜いていた。


「今のお前の姿を見れば分かる。 凄く醜い姿だ。」


 ギルダーはそう言うと盾に付けている鞘から剣を引き抜いた。

 そしてエイジに剣先を向ける。


「なにをする気!?」


 シグがギルダーの行動を見て声を荒げる。

 遠くで見ていたフブキも目を丸くする。


 だがギルダーは剣を下げない。


「これが一番手っ取り早い方法だ。」


 ギルダーは冷静に答える。

 そんなギルダーを見てエイジはハルバードを握っている手をさらに強めた。

 そして次の瞬間、エイジは地面に刺していたハルバードを引き抜いて叫びながらギルダーに襲いかかった。


 エイジのハルバードとギルダーの剣が交わり、金属の音が響き渡る。

 そして激しい戦いが始まった。


 シグは目の前の迫力に足がすくんでしまったが、後ろにいたフブキがシグの腕を掴んで引っ張る。

 そしてフブキはシグを連れて森を出て行くのだった。




 森の外に出てきたシグとフブキの二人は、思わず尻餅(しりもち)をついた。


「ねえ、大丈夫なの・・・?」


 息を切らしながらシグはフブキに聞く。


「分かんない。 でもギルダーなら大丈夫でしょ。」


 フブキも息を切らしながら答える。

 何の根拠もない発言だが、フブキは笑顔を見せていた。

 そんな彼女の顔を見たシグは何の反論もしなかった。






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