68.第8話「剛強な一撃」(7/7)
真夜中。
宿屋でドウジとキョウカがそれぞれの部屋のベランダで話していた。
「誰も手伝ってくれなかったのか?」
ドウジは少々不機嫌な声色でキョウカに聞いた。
話はドウジがシュメルツファウストへ転移してきた時の頃で、キョウカが黄金龍ナルキの討伐を"一人で"やろうとしていた時のだった。
「キョウカ一人に任せて、誰も討伐を手伝おうとしなかったのか?」
ドウジの声色は少々怒っているようだった。
するとキョウカはすぐに返答した。
「イェルや町の人たちは近隣の町の避難などを手伝っていました。 それにイェルは、最悪の場合は捨て身で町全体に巨大なバリアを張ってくれるとも言ってくれました。」
キョウカは少々早口で話した。
戦っていたのはキョウカだけでないと言うことを説明した。
だがドウジは納得していなかった。
「だが、キョウカの隣には誰もいなかったのだろう?」
ドウジはまた別の質問をキョウカにする。
「世界の危険を感じる戦いに、魔法使い一人を向かわせたワケだろう? そんなのあんまりじゃないか。」
ドウジはキョウカの立場になって意見を言う。
するとしばらく静寂が訪れた。
やがて声が聞こえてくる。
「ドウジさん・・・。」
ドウジを呼ぶようにキョウカが言う。
ドウジは視線をキョウカの方に向けた。
するとキョウカは悲しそうな顔を見せた。
「ドウジさんの基準で考えないでください。 強くても、皆がドウジさんのように勇気があるワケではないのですよ・・・。」
キョウカの悲しそうな顔を見て思わず顔を逸らすドウジ。
俯いて胡座をかいている自身の素足を見つめる。
「おそらく皆さんだって私の手伝いをしたいと想ってはいましたよ。 ですが、恐怖が勝ってしまった。 仕方ないじゃないですか。」
キョウカは必死に庇っている。
だがドウジは質問をやめない。
「だがキョウカも、本当は怖かったんだろ?」
ドウジはキョウカに言い放つ。
その言葉はキョウカにとって、かなり心に来る言葉だった。
ベランダの手すりを掴みながら立っていたキョウカは、手すりから手を離して地面に座る。
体育座りで頭を両膝の間に押し付けながら。
「・・・怖かったですよ。」
泣きそうな声でキョウカが一言。
その一言をドウジはしっかりと耳に入れた。
「ですから、あの時にドウジさんが現れてくれたのはとっても嬉しかったです・・・。 たとえそれが偶然だったとしてもです。」
キョウカの言葉を黙って聞くドウジ。
キョウカは話を続ける。
「ですけど、私は誰も恨んではいません。 ですからドウジさんも、私のために怒ってくれなくていいです。 これは私からのお願いです。」
キョウカも自身の足を眺めながらドウジに言う。
お互いに相手を見ないで話していた。
ドウジはなにも言わずに立ち上がり、振り返る。
そのまま部屋の中に戻ろうとするが、その前に一言キョウカに言い放った。
「なにがあっても俺はキョウカと共に戦う。 黄金龍を討伐するまで絶対。」
ドウジは部屋へ戻って行った。
「・・・ありがとうございます、ドウジさん。」
ドウジの宣言を聞いたキョウカは少し笑みを浮かべてボソッと小声で言った。
部屋に戻ったドウジはガイの甲冑を見た。
甲冑の兜に黄色い二つの光が宿っている。
「盗み聞きをするつもりは無かったんだけどさ。」
ガイは少し笑いながら喋る。
ドウジはしばらくガイを見た後に、自分の布団の上に座った。
周りでは浴衣姿のギルダー、ザイルダイト、エイジが布団で眠っている。
「キョウカだけじゃない。 皆のことも信じている。」
ドウジはガイへそう話す。
ガイは意外な言葉を聞いて少々驚いた。
「なんというか、面と向かってそんなことを言われると照れるな。」
そう言いながら兜だけを浮かせるガイ。
そしてドウジの近くに飛んできた。
「だがよ、そういう台詞こそ彼女に言ってあげた方が良かったんじゃないか?」
ガイはなにかを察しているようで、ドウジにアドバイスをする。
だがドウジはなにも分かっていない様子だった。
「まあいい。 俺もドウジと同じ気持ちさ。 ナルキを絶対に倒そう。」
ガイはドウジの周りを飛びながら言い放つ。
ドウジもその言葉に賛同した。
それから数分後、ドウジは立ち上がって部屋を出て行こうとする。
「どこか行くのか?」
ガイが兜だけの状態でドウジを追う。
ドウジは扉の前で立ち止まった。
「少し外を歩いてくるだけだ。 遠くには行かないから安心してくれ。」
そう言うとドウジは部屋を出て行った。
ガイは特になにも言わず、ドウジを見送った。
浴衣姿で外に出たドウジは、夜空の月を眺めていた。
何のためかは彼自身も分かっていなかったが。
「旅人よ、其方も眠れないのですかな。」
ドウジは声のした方を向く。
そこには塀の上で胡座をかいて座っている老人がいた。
彼も旅館の浴衣を着ており、おそらく同じ宿で泊まっている者のようだ。
「そんなとこ、かな。」
ドウジは腕を組みながら答え、視線を月に戻す。
お互い視線は月を見ており、相手を見ようとしていない。
しばらく沈黙が続いたが、最初にそれを破ったのはドウジだった。
「あんたは、黄金龍ナルキを知っているか?」
ふとドウジは老人に聞いた。
老人は自身の髭を触りながら、返答をする。
「もちろん知っておる。 むしろ知らない者の方が少ないであろう。」
老人はハッキリと答えた。
それを聞いたドウジはすぐに次の質問をする。
「あんたは前に黄金龍は出現した際に、どうして戦おうとしなかったんだ?」
ドウジは老人に聞いた。
すると老人はゆっくりとドウジの方に視線を向ける。
「其方、ワシが戦えるように見えるのか?」
老人は少々声色を変えて聞く。
まるでドウジを警戒しているように見えた。
するとドウジはすぐに返答する。
「その塀の高さは常人なら若者も登るのには苦労するだろうよ。」
ドウジは既に老人の力を見抜いていた。
老人は白髪で、明らかに高齢である。
しかし2メートルほどある塀の上で難なく座っていたので、かなりの筋力を持っているようだ。
「ほっほっほっ、やるな若人。 気に入ったわい。」
老人はそう言うと胡座のまま上空へ跳び、落下中に足を解いて着地した。
「すまないが、あの黄金龍が再び出て来たとしてもワシは戦わんよ。」
老人は手を後ろで組みながらゆっくりと前に歩いていく。
その姿をドウジは黙って見ていた。
「ワシには他にやらなければならないことがあるのでな。」
ふと立ち止まり月を眺める老人。
その後ろ姿を見てドウジは「ナニカ」を感じていた。
次の瞬間、老人はドウジの方を振り向く。
「ワシは先に宿へ戻っとるよ。 旅人も身体を冷やさぬように気を付けたまえ。」
老人はそう言うと、そのまま宿がある方向へ歩き出した。
ドウジは老人を目で追うのをやめて、再び月を眺める。
老人と話してドウジがなにを考えていたかは分からない。
しかしドウジの顔はさらに真剣さを感じるような面構えになった。
やがてドウジも宿へ戻るために歩き出した。
宿ではキョウカはまだベランダにいた。
ベランダに置いてある木でできた椅子に座り、木でできた机に飲み物が入ったグラスを置いていた。
グラスの中の飲み物を飲んだ後、大きなため息を吐くキョウカ。
思わず机に側頭部をくっつけるように頭を置いた。
すると部屋の中から誰かが現れた。
「眠れないのなら付き合うわよ?」
その人物はシグだった。
綺麗な褐色の肌と豊満な胸部が浴衣によってさらに強調されており、キョウカも思わず注目しまっていた。
「ちょっと目覚めちゃってさ。 そしたらあなたの姿が見えてね。」
シグは酒瓶とグラスを机に置くと、キョウカの向かいにあるもう一つの椅子に座った。
そして酒瓶の中の酒をグラスに注いだ。
「あなたも飲む?」
シグは酒瓶を差し出しながら聞く。
するとキョウカは半笑いをした。
「私は未成年ですよ。」
キョウカのその言葉を聞いてシグは「そっか。」と返事をする。
酒瓶を机に置き直して、グラスを持って中に入ってある酒を飲んだ。
「あまり飲み過ぎないでください。 また二日酔いになってしまいますよ?」
キョウカは注意する。
シグも「分かってる。」と返事をした。
酒を少し飲んでグラスを机に置くと、シグは再びキョウカを見る。
「それで、なにか悩み事でもあるのかしら?」
シグはキョウカに聞いた。
キョウカは思わず驚いた表情を見せる。
「なんとなく分かるわよ。 で、一体どうしたの?」
シグは優しくキョウカに聞く。
それに対してキョウカは目を逸らして口をもごもごさせていた。
やがてキョウカは再び目線をシグに合わせた。
「あの、迷惑だと思いますが、聞いてもらえますか、愚痴・・・。」
キョウカは申し訳なさそうにシグに言った。
今まで大人しかった彼女にも溜め込んでいたモノがあった。
そして彼女は今、シグの好意に甘えてしまったのだった。
しかしシグは嫌な顔を全くせずに「いいわよ。」と笑顔で答えた。
そんな彼女を見て、キョウカは「へへへ・・・。」と照れくさそうに笑うのだった。




