63.第8話「剛強な一撃」(2/7)
アントレーガは部屋の奥にいる者たちを眺める。
部屋の奥にはドウジ、イェルコイン、ギルダー、リクターの四人がいた。
イェルコインはガイの兜を持っている。
「解放してもらうぞ、俺たちの大切な仲間と女性たちを・・・!」
ドウジは瞳孔の無い目でアントレーガを睨みながら言い放つ。
イェルコインも同様にアントレーガを睨んでいて、一方でギルダーとリクターは表情を変えずにいる。
「解放だと?」
アントレーガは少々言っている意味を考え出した。
囚われている女性たちの方を見て、しばらくして表情を変える。
そしてその口角を上げた表情でドウジの方を再び見た。
「なるほど、誰かしらを取り戻しに来たと言うわけか。」
アントレーガは少しだけ背中を伸ばすと再び喋り始めた。
「だが、それは無理な話だ。 彼女たちは俺様のハーレムに加わるべき女性たちなのだ!」
アントレーガはキッパリとそう言い放った。
すると怒ったイェルコインが「なにぃ!?」と言いながら前に出ようとするが、ドウジが手で制止した。
「最後にもう一度だけ言う。 女性たちを解放してくれ。」
ドウジは落ち着いた声色でアントレーガに言う。
だがアントレーガは予想通りの返答をした。
「イ・ヤ・だ・ね。」
アントレーガはマイク越しに煽るように言い放つ。
そしてケラケラと笑い出した。
次の瞬間だった。
席に座る人々の真上を勢いよく「ナニカ」が飛んで行った。
そしてその「ナニカ」はアントレーガに急接近する。
少々遅れて部屋の中にいる皆が飛んで行った「ナニカ」を視線で追いかける。
そして皆の瞳には同じ光景が映し出されていた。
ドウジの右の拳がアントレーガの腹部にめり込んでいた。
今の一瞬でドウジはアントレーガの下まで急接近して右腕でアントレーガの腹部を殴ったのだ。
あまりにも一瞬だったため、部屋の中にいた者たちのほとんどは唖然としていた。
ただ唯一、ガルクのみは興味深そうな眼差しでドウジを眺めているのだった。
アントレーガは漫画やアニメなら目玉が飛び出してそうな表情をしている。
例えるなら突然の攻撃を受けた時の表情だろう。
ドウジはアントレーガの腹部に拳をめり込ませた状態で、右腕を振り抜けた。
すると、ドウジほどではないが大柄なアントレーガが宙に浮かび、そのまま後方にある外が見える壁の大穴へと吸い込まれていくかのように飛ばされていく。
アントレーガは「うわあぁぁぁー!!!」という情けない声を上げながら遠くの森の中へと飛ばされて消えて行った。
この間、約五秒の出来事である。
目の前で起きたことに対して絶句する部屋の中にいる者たち。
壁の穴から入り込んでくる涼しい風の音だけが聞こえてくる。
やがてドウジは体勢を整え、後ろにいる席に座る人々の方へ視線を向けた。
「痛い目に遭いたくなければ、さっさと逃げろ。」
ドウジは腕を鳴らしながら静かに忠告をする。
背中に日の光が当たりながらのその姿は思わずイェルコインたちですら恐怖を僅かながら感じさせる威圧感だった。
数秒後、自分たちが置かれている状況を理解した人々は悲鳴を上げながら我先にと逃げ始めた。
部屋の中から大勢の人間が消えて行き、残ったのはドウジたちと囚われている女性たちのみとなった。
ドウジはゆっくりと囚われている女性たちの下へ歩き出し、やがて目の前で立ち止まった。
目線の先には大切な仲間であるキョウカがいる。
「すまない、少し遅れてしまったが助けに来た。」
ドウジはそう言うとキョウカに巻き付いている鎖を両手で握り、力任せに勢いよく引き千切った。
そして自由になったキョウカは座った状態でドウジを見上げる。
「信じていました。」
そう一言を述べながら笑顔を見せる。
ドウジは引き続き、囚われている女性たちを次々に解放し始めた。
鎖には鍵がかかっていたため簡単には外すことは出来なさそうであり、現状で一番手っ取り早いのがドウジの力任せによる解放だった。
次々に女性たちに巻き付いている鎖を引き千切っていき、やがて全員の解放に成功したのだった。
女性たちは互いに喜び合い、嬉しさのあまり涙を流す者もいた。
そして、大切な人と再会する者も。
「お父さん!」
「ナズ!」
リクターは女性たちの中にいたダークエルフの少女と抱き合った。
どうやらリクターが探していた娘がいたようだ。
ナズと呼ばれた少女はドウジたちの仲間であるシグの妹で、確かに顔がソックリだった。
「キョウカ!」
一方でイェルコインもキョウカと再会をする。
持っていたガイの兜を丁寧に地面に置いた後、キョウカにハグをする。
その際にキョウカはイェルコインの背に合わせるように地面に座ってハグをした。
「良かった、本当に・・・。」
イェルコインは安心したのか、涙を流している。
しかしキョウカはなにも言わずに優しくイェルコインの背中を撫でていた。
しばらくしてギルダーが下の階から上がってきた。
手には荷物のようなモノを持っている。
その荷物を地面に置くと再び下の階に下りて行った。
ドウジはその荷物の中に紛れていた一本の杖を取る。
奪われていたキョウカの杖だ。
そしてキョウカの鞄も回収する。
ドウジはキョウカの下まで歩み、杖と鞄を手渡す。
手元に戻ってきた自分の杖と鞄を抱きしめながらキョウカは「ありがとうございます。」と言って微笑みながらドウジを見上げる。
ドウジは表情こそ変えなかったが、少しだけ顔を逸らしてこめかみ辺りを人差し指でかく仕草を見せた。
すると、ドウジの背後から灰色の狼が出てきた。
ガルクの連れの狼・クオンタムだ。
彼はゆっくりとキョウカに近づくと目の前で座り出し、キョウカの顔を見上げる。
「あら、この子・・・?」
キョウカは見覚えのある狼の姿をまじましと見る。
そんなキョウカの姿を見ながらドウジは説明をする。
魔獣討伐の時に「デマスナ」で出会った狼がクオンタムで、そのクオンタムがキョウカを見つけ出したことを。
「そう、貴方のおかげだったのね。」
キョウカはしゃがんでクオンタムを両手で撫でる。
クオンタムはとても気持ち良さそうな顔を見せた。
ギルダーが荷物を全て運び終わると、先程まで囚われていた女性たちは自分の荷物を回収し始める。
それぞれが鞄や武器などを持ち始め、沢山あった荷物はすぐに地面から無くなった。
自分の荷物が戻ってきたことに女性たちは凄く喜ぶのだった。
「これでいつでも脱出する準備は整ったようだな。」
すると、ずっと壁に寄りかかりながら黙っていたガルクが喋り出した。
彼は組んでいた腕を解放すると壁から離れて歩き出す。
そして急に立ち止まると首を少々左に動かす。
「おい、いつまで隠れているつもりだ。」
ガルクが声をかけた先はなにもない壁だった。
特に何の変化もない壁であり、その場にいたガルク以外の人物は不思議そうにしている。
だが、ドウジやギルダーのように同時に「意味のある行動」と考えている者もいた。
その予想は正しく、数秒後になにもない壁から一人の男が現れた。
その男はアントレーガの手伝いをしていたスーツ姿の男だった。
「よく分かりましたね。 私が居ることに。」
スーツの男は細い目でガルクを見つめた。
口角を上げており、少し笑っているようだ。
「大勢の人間が逃げている際、貴様が壁の中に吸い込まれるように消えていくのを見た。 まあ、居るかどうかは知らなかったがな。」
ガルクとスーツの男はお互いに視線を外さずに見合っている。
周りにいるドウジたちも警戒を解いていない。
スーツの男は軽く笑うと、襟を正した。
「自己紹介が遅れましたな。 私はアントレーガ様のマネージャーを務めておられます "イビル・シュナイダー" と申します。」
スーツの男・イビルは、丁寧にお辞儀をする。
その雰囲気はとても落ち着いており、威圧感も感じるほどに。
「マネージャーなら、さっさと『アイツ』を助けに行った方が良いんじゃねえのか?」
ガルクは挑発するようにイビルに聞く。
するとイビルは顔を少しだけ下げた。
「ええ、迎えに行きますよ。 ですが、あの御方のステージを滅茶苦茶にしてくださったお礼もしなくてはいけません。」
そう言うとイビルは口角を上げて、歯を見せながらニヤけた。
するとイビルの足元に存在する彼の影が大きくなっていき、禍々しいオーラを出し始めた。
そして影の中から白くてトゲトゲした骨のような腕が現れ、地面を掴む。
続いてもう一方の腕も影の中から出てきて同じように地面を掴む。
次の瞬間、影の中から全身骨の姿の怪物が現れた。
イビル以外の部屋の中のいる全員が怪物の存在に驚愕していた。
「おい、イビル。 コイツらゼンイン、クっていいのか?」
骨の怪物は後ろにいるイビルを見ずに、背を向けながら会話をしている。
「人間を食べてはダメと言ったでしょう。 まあでも、あの三匹の狼くらいはいいでしょう。」
イビルは喋りながら後ろ歩きで壁に空いてある穴に近づく。
穴はアントレーガが外に飛ばされて行った際の穴と同じモノだ。
「しばらくの間、頼みましたよ。」
そう言うとイビルは穴から外に跳んで、姿を消した。
そしてその場には骨の怪物が残された。
骨の怪物はその場にいる全員を順番に眺めている。




