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61.第7話「美女誘拐事件」(9/9)


 倒れそうになったシルディーナを助けたのは、恐竜の頭蓋骨のような鉄でできたマスクを被った男性だった。


「怪我はない・・・、わけではないか。」


 鉄マスクの男は寄りかかっているシルディーナの安否確認を冷静にした。

 見た目は不気味な彼だが、シルディーナにとっては救世主以外の何者でもなかった。


「クオンタム、そのくらいにしておけ。」


 鉄マスクの男は灰色の狼に命令する。

 すると灰色の狼は不本意ながらギルファーを噛むのをやめた。

 そして狼はシルディーナに近付き、目の前で座った。


 それを確認すると鉄マスクの男はシルディーナをゆっくりと地面に座らせた。

 そんな彼女に狼は更に近付き、彼女のそばで座る。



 鉄マスクの男はギルファーに近付く。


「な、なんなんだ貴様は・・・!」


 噛まれた脇腹を押さえながら鉄マスクの男に指を向けるギルファー。

 度重なるダメージで、さすがの彼もフラフラだった。


 鉄マスクの男は無言でギルファーに近付く。

 ギルファーは後退りをしながら男から離れようとするが、明らかに追いつかれそうになっていた。


 このままではどうせ捕まると判断したギルファーは残った力を使って男に殴りかかろうとする。

 しかしそれはただの悪あがきだった。


 ギルファーのパンチを簡単に避けた男は、そのままギルファーの腹部に強い一撃を与えた。

 ギルファーの腹部に男の拳がめり込み、そのままギルファーはゆっくりと崩れ落ちる。

 まるで糸の切れた操り人形のように。



 ギルファーを倒した男は、まるで手を洗った後のように手首をスナップさせる。


「この程度か・・・。」


 鉄マスクの男はガッカリしたような様子でそう吐き捨てた。



 そんな男をまじまじと見ていたシルディーナ。


「あの、助けていただきありがとうございました・・・!」


 シルディーナは座りながら頭を下げてお礼を言った。

 そんな彼女を無言で見る鉄マスクの男。


 やがて男は視線をシルディーナからギルファーに移す。


「礼ならそこにいるクオンタムに言え。 俺はついてきただけだ。」


 鉄マスクの男は一言そう述べた。


 シルディーナは"クオンタム"と呼ばれた人物を探すが、いるのは灰色の狼のみだった。

 つまり、この狼がクオンタムなのだ。


 シルディーナはクオンタムに手を伸ばそうとする。

 ただし相手は狼なので結構怖がっていた。

 だがクオンタムは自分から頭を下げて撫でられようとしていた。

 それを見たシルディーナは安心したのか、そのままゆっくりとクオンタムを撫で始めた。


「あ、ありがとうございました。」


 シルディーナはクオンタムを撫でながらお礼を言う。

 クオンタムはとても気持ちよさそうに撫でられていた。




 すると突然、後方の森の中から数人の者たちが現れた。

 シルディーナを追ってきたドウジたちだ。


「シルディーナ!」


 先走ったのはスリズム。

 シルディーナに近寄ろうとする。


 すると彼女のそばにいたクオンタムが四足歩行で立ち上がり、スリズムに向かって威嚇する。

 それを見てスリズムも思わず立ち止まってしまった。


「だ、大丈夫、私の知り合いだから!」


 すぐにシルディーナはクオンタムを説得する。

 それを聞いてクオンタムはすぐに大人しくなった。



 スリズムはクオンタムを警戒しながらも、シルディーナに近付き膝をついて彼女の目線に合わせた。


「大丈夫、だった・・・?」


 スリズムはシルディーナの肩に手を置き、彼女を心配する。

 シルディーナは「ええ。」と答えて彼を安心させた。



 次に動き出したのはドウジだった。


「あんたはあの時の・・・。」


 鉄マスクの男を見て反応するドウジ。

 ドウジは一度会ったことがあった。

 それは「魔獣討伐」の時だった。


 キョウカと「デマスナ」の町で出歩いているときに、目の前の灰色の狼と共に姿を見せていた。


「ほう、お前もいたのか。」


 鉄マスクの男もドウジのことを覚えていたようだった。



 ドウジは男の足元で倒れているギルファーを見つける。


「あんたがやったのか?」


 ドウジがギルファーを指しながら男に問う。

 だが、男は答えようとはしなかった。


「私を助けてくれたのです!」


 するとシルディーナは彼を庇うように言い放った。

 ドウジは彼女の訴えに反応し、それ以上はなにも言わなかった。



「と、とにかく彼女たちを送り届けよう。」


 リクターは悪くなった空気を変えるために話題を変えた。

 彼の言ったタイミングでちょうどよく森の中から女性たちを連れてきたギルダーたちが現れた。


「だが、リクターさんの娘さんの行方は未だ分からないままですよね?」


 同行者の一人であるタルティスが聞く。


 たしかに現状、キョウカやリクターの娘は分からないでいた。

 攫われたことは確かなのだが。


「確かガイの話では、アントレーガが直接キョウカを攫って行ったのよね?」

「ああ、確かに自身のことをアントレーガだと名乗っていたよ。」


 イェルコインはガイに再び、キョウカが攫われたときのことを聞いた。

 今回は模倣犯による事件だったが、キョウカ誘拐にアントレーガが関わっていることは確かなのだ。


「またアントレーガの名前を(かた)っている偽物なんじゃね?」

「だとしても、姿は分かってるから奴さえ見つけられればキョウカを救出できるよ。」


 同行者の意見に答えるガイ。

 ガイは誘拐犯の顔をちゃんと覚えている。



「そうか。 やはりアレはお前らの仲間の魔女だったか。」


 すると、今まで黙っていた鉄マスクの男が喋り始めた。

 気になるワードを口に出しながら。


 それをドウジとイェルコインは聞き逃さなかった。


「キョウカの居場所を知っているのか!?」


 ドウジが早速男に問う。

 心なしかドウジの言葉に必死さを感じた。


 鉄マスクの男は腕を組んで冷静に話す。


「諸事情で仲間に後を追わせている。 しばらく待っていれば案内が来るだろう。」


 男は常に冷静だった。


 ドウジとイェルコインは互いに顔を見合わせる。

 そして互いに頷くと、イェルコインは地面に座った。


「本当なら信じないところだけど、今は少しでも手がかりが欲しい。 一応あんたの言葉、信じさせてもらうわ。」


 イェルコインはそう言い放った。

 彼女は彼のことを信用しているわけではない。

 しかし今はそうしなければならない状況だった。


「でも、諸事情ってなんなのよ・・・。」


 イェルコインはついでに質問もした。

 彼女の顔からは警戒心を感じさせる。


 鉄マスクの男は腕を組んだまましばらく黙っていたが、やがて喋り出した。


「そいつが『助けたい』と言ったのさ。」


 男は狼のクオンタムを指して言った。

 皆の視線がクオンタムにいく。


「この子が・・・?」


 シルディーナがクオンタムの顔を撫でながら不思議そうに聞く。

 クオンタムは気持ちよさそうな顔をしていた。


「お前らと会ったあの時に、あの魔女から食べ物を貰ったことで彼女を凄く気に入ったようだ。 そんな彼女が攫われているのを発見して、今こんなことをやっているわけだ。」


 鉄マスクの男は若干呆れた様子で説明した。


 あの時とは先ほども言ったように、ドウジとキョウカが町を歩いていたときのことだ。

 その時、キョウカはクオンタムにホットドッグをあげていた。

 それがキッカケで気に入られていたようだ。



 ドウジは納得するが、一方で新たな疑問も生まれた。


「狼の言葉が分かるのか?」


 ドウジが鉄マスクの男に質問する。

 先程の男の話は、まるで狼のクオンタムの気持ちが分かったかのような物言いだった。


 だが、実際はもっと簡単なことだった。


「というより、俺があんたらの言葉が分かるのさ。」


 突然のことで驚愕する一同。

 それもそのハズ。

 なぜなら狼のクオンタムが人間の言葉を話したのだ。


「しゃ、喋った・・・。」


 鉄マスクの男以外の全員がクオンタムに驚愕している。

 そして今の光景を見たドウジは、こっちの世界でも動物は喋らないことを理解するのだった。


「ああ、喋ることができるぜ。 『アメ菓子ウマいなアイウエオ』ってな。」


 聞いたことのない発声練習をしながら得意げになっている狼のクオンタム。

 その言葉の(なめ)らかさは人間と変わらない。


 ドウジたちは不思議なモノを見たため、互いに顔を見合わしていた。


「それよりガルク、トライアルの匂いが近くなってきたぜ。」

「・・・そろそろか。」


 狼のクオンタムと鉄マスクの男は互いにしか伝わらない話をしている。

 そして鉄マスクの男は "ガルク" と呼ばれていた。


 イェルコインは「なにを話してるの・・・?」と聞く。

 しかしどちらも答えようとはしなかった。

 いや、あえて答えなかったという方が正解だろう。

 なぜならそれは、すぐに分かることだったからだ。



 ドウジたちがいる場所は森の出口であり、目の前には平原が見える。

 その平原の遠くの方から、黒い「ナニカ」が勢いよく近づいていた。


 その生物は体が黒い毛で覆われていた狼だった。

 クオンタムと同じ狼である。


「よし、きたきた!」


 クオンタムが「待ってました!」という感じのテンションで言う。

 ガルクも向かってくる黒い狼を眺めていた。


 やがて黒い狼はガルクたちの元へやってきた。


「例の魔女を発見した。 すぐに案内する。」


 黒い狼は低音の声で話す。

 まるで軍隊の兵士のようだった。


「付いて来たい奴は勝手に来い。」


 ガルクは鉄マスクの目元から覗かせる赤い瞳でドウジたちを見ながら言い放った。






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