60.第7話「美女誘拐事件」(8/9)
飛びかかろうとしたギルファーを、どうやらギルダーが攻撃したようだ。
剣で不意打ちをくらったギルファーは痛みでバランスを崩し、鉄仮面と鉤爪の重さで頭から地面に落下したようだ。
「ギルダー!」
「そういえば、さっきから姿が見えなかったな。」
ガイは思い出したかのように言う。
それに対しギルダーはなにも言わず、盾に付いている鞘に剣を収めた。
「どこに行っていたんだ?」
リクターはギルダーに聞く。
ギルダーは「少しな。」としか言わず、詳しい詳細を明かさなかった。
だがギルダーはリクターに近付くと、懐から紙束を取り出してリクターに無言で渡す。
そしてそのまま再び距離を空けた。
リクターは不思議そうにするが、とりあえず渡された紙束を見始めた。
すると、読み進めているリクターの表情がみるみる変わっていった。
そんなリクターの顔を見て、ガイたちも横から見ようと移動しようとする。
しかしその前に別の出来事が起こった。
洞窟の中から勢いよくドウジが飛び出してきたのだ。
地面に着地した際に大きな音が響き、砂煙が舞う。
「大丈夫か!」
ドウジはすぐに安否確認を行った。
周りを見ると怪我人はギルファー以外におらず、大丈夫なのを瞬時に確認した。
「ドウジ!」
イェルコインが叫ぶ。
やがて彼女は「ふぅ・・・。」と安心した息を吐いた。
「やはり抜け道からコイツが出てきていたのか・・・!」
ドウジはギルファーの片足を掴んで持ち上げた。
まるで死んだ生き物が逆さ吊りになっているような感じでギルファーはぶら下がっている。
ドウジは思わずギルファーを揺さぶる。
しかしギルファーは気絶しており、目を覚さない。
ドウジは仕方なく再び地面に下ろした。
「どうやら、そちらでも『ナニカ』あったようだね。」
リクターが察したような口調でドウジに聞く。
ドウジはリクターを見るが、特になにも言わなかった。
「無事でよかった。」
ガイから放されたイェルコインがドウジを見上げる。
彼女は安心した表情を見せている。
「なにがあった・・・?」
ドウジは不思議そうに周りを見渡す。
するとドウジの後ろの先、つまり洞窟がある岩山の裏の方から大勢の者たちが現れた。
洞窟内で戦ったアントレーガのファンたちだ。
「こんな抜け穴があったとは、知らなかった・・・。」
ぞろぞろと表へ出てくるファンたち。
彼らは不思議そうにしていたが、やがてドウジたちを見る。
そして地面に倒れているギルファーを発見した。
「ギルファーさん!」
「貴様ら、ギルファーさんから離れろ!!」
ファンたちは武器を構えてドウジたちを襲おうとする。
それを見てドウジも戦意を見せる。
「待ちたまえ!」
しかしその前にリクターが止めた。
ドウジとファンたちの間に移動し、ギルダーから渡された紙束を掲げた。
「キミたち、僕たちを襲うのはそれを読んでからにしてくれ。」
リクターはそう言うと、先頭にいた赤いターバンを巻いた男に紙束を手渡した。
渡された男はやや戸惑っていたが、やがて紙束に書いてある内容を声に出して読み始めた。
「えっと、なになにぃ〜・・・? 『奴隷売買契約書。 甲は乙に対し、奴隷を売り渡すことを約し、乙はこれを買い受けた・・・』」
赤いターバンの男はそのまま紙束を読み進めた。
だが、既に答えが出ていた。
最初に「奴隷売買契約書」と書いてあったので、それはそのまま「奴隷を売買するための契約書」なのだ。
そして赤いターバンの男が文章を読み進めていると、やがて更に気になる部分が現れた。
「『売主・・・、ギルファー・エインズワース・・・』。」
売主の名前が書いてあった。
ギルファーと・・・。
「え、ギルファーさん・・・!?」
ファンたちが驚き、ザワザワと騒ぎ始めた。
一体なにが起こっているのか分からず戸惑っていた。
するとリクターが代わりに説明し始めた。
「つまり、このギルファーという男性はキミたちを使って奴隷売買をしようとしたんだ。 キミたちの尊敬している人の名前を使ってね。」
リクターはハッキリとファンたちに向かって言い放った。
残酷な真実を。
ファンたちは困った様子で互いを見合っていた。
自分たちが騙されていた事実を認めたくないのだろう。
「俺たち、騙されていたのか・・・。」
全員が慌てている。
中には力が抜けてしゃがみ込むモノもいた。
頭を抱えているモノもいる。
「これだけいて、気付いた人が一人もいなかったんだ・・・。」
「誤情報に踊らされる奴らはそんな奴ばかりだ。」
ガイの言葉に対して、ギルダーは思うところがある物言いで答えた。
彼の過去にも「ナニカ」あったのだろう。
ファンたちはしばらくザワザワしていたが、やがてファンたちは少々静かになった。
「キミたちは、これからどうするつもりか?」
リクターがファンたちに聞く。
ファンたちは互いに顔を見合わすと、やがて一人が言葉を発した。
「・・・帰ります。」
元気のない声でそう答えた。
「そうかい。」
リクターは一言そう述べた。
そして女性たちの方へ振り向こうとする。
すると・・・。
「ふざけるなぁ!!」
一人の怒鳴り声が森の中に響いた。
声の主はイェルコインだった。
気絶しているギルファー以外の、その場にいた皆はイェルコインの方を向く。
「あんたら、このまま許されると思ってるの!?」
彼女の顔は怒りに満ちていた。
可愛い顔立ちのため表情に迫力はないが、彼女の怒号が十分補っていた。
「で、でも、俺らは騙されてて・・・。」
ファンの一人が言い訳を言おうとするが、それをイェルコインは許さない。
「知らなかったじゃ済まないわよ! たとえ騙されていなかったとしても、『人攫い』なんかに加担した時点であんたたちは裁かれるべきよ!!」
イェルコインは怒鳴って言い放った。
その声の迫力にファンは黙ってしまった。
「まあ、それは言えるね・・・。」
リクターも納得した。
するとイェルコインは今度はドウジを見上げた。
そしてファンたちを指す。
「ドウジ! あのバカたちを全員叩きのめしてやって!!」
イェルコインはドウジに命令した。
「・・・。」
ドウジはやや困惑している様子だった。
だがすぐにイェルコインはドウジを説得し出す。
「攫われた女性たちは凄く怖い思いをしたハズよ! なのにアイツらは騙されたことが分かった途端そのまま帰ろうとしたのよ! 絶対に許さない!!」
そう言うと腕を上下にブラつかせながらファンたちを指す。
「やっちまえドウジ!」
ドウジは少々乗り気ではなかった。
だが、イェルコインの言い分も一理あると考えてもいた。
結果、ドウジはイェルコインの命令に従い、ファンたちを全員叩きのめし始めた。
ファンはバラバラに分かれて逃げようとするが、イェルコインはガイやリクターたちにも命令し、彼らも仕方なくそれに従いファンたちを逃さなかった。
最終的に逃亡成功者は一人もおらず、全員叩きのめされた。
「ありがとうございます!」
同行者の一人タルティスの娘であるメイラがイェルコインの手を取って感謝の言葉を贈った。
彼女たちが彼らに嫌悪があったかは分からないが、イェルコインの起こした行動には救われたようだった。
叩きのめしたファンたちは洞窟の岩山の壁際に集めた。
「コイツらはどうするんだ?」
「うーむ・・・。」
ドウジは自警団員のスリズムにファンたち処置を聞く。
するとスリズムは考え込んだ。
そして答えを出した。
「実は、今回は自身の独断による勝手な行動でここに来たのです。 ですからここにいる全ての人を連行することは一人では不可能です・・・。」
スリズムはファンたちを一人一人見ながら話す。
そして最後にドウジを見た。
「ですので、今回の事件の首謀者のみを連行していくことにします。 他の者たちは特別に改心のチャンスを与えておくことにします。」
スリズムはそう決断した。
それに対し、ドウジは「そうか。」と返事をする。
すると、すぐ近くから声が聞こえてきた。
「おい、その首謀者の姿が見当たらねえぞ。」
声の主はギルダー。
彼は素早く周りを見渡していた。
その言葉を聞いて周りにいる皆も辺りを探す。
すると、大変な事実に気付いた。
「あれ、シルディーナは!?」
スリズムがいち早く気付いた。
シルディーナがこの場にいない事実に。
ドウジたちがいる場所から少し離れた場所。
森の出口には既にあのギルファーがいた。
占い師のシルディーナを連れて。
「せめて俺の願いを叶えるため、あんただけでも来てもらうぜ。」
ギルファーはシルディーナの片腕の二の腕を強く握りながら逃走していた。
シルディーナは握る力が強いせいか痛そうだった。
だが、彼女にはもっと言いたいことがあった。
「占いで、こんな未来観てないのに・・・!」
シルディーナは泣きそうになりながら言い放つ。
それを聞いてギルファーは「ナニカ」に対して納得した。
「なるほどな。 当たることで有名な占い師がどうして全く攫われないのかと思ったが、事前に未来を観ていたのか。」
そうギルファーが言う。
シルディーナは占いが当たることで有名な占い師である。
なので、自分に訪れる不幸なども占うことが可能。
それを先に知ることで、今までは事前に対策などをして防いでいたのだろう。
しかし彼女の様子から、今回のことは占いには無かったようだ。
「貴方に攫われる未来なんか無かった。 一体どうして・・・!」
「さあな。 俺が特別なのかもなぁ。」
ギルファーは泣きそうになっているシルディーナを見ながらヘラヘラ笑っている。
強い力で引っ張られてシルディーナはどんどんスリズムたちがいた場所から遠ざかっていく。
「これからは俺の人生の羅針盤となって、ちゃんと働いてくれよな。 さもないと、今度は痛い目に遭ってもらうからなぁ!」
「そ、そんなのいやぁ!!」
嫌がるシルディーナを無理矢理引っ張っていくギルファーだったが、どうやらここで彼も我慢の限界のようだった。
掴んでいた手をシルディーナの腕から放した。
急に放されたので、思わず地面に倒れるシルディーナ。
そんな彼女をギルファーは足蹴りにした。
「命令は今から始まっているんだよ! 約束通り痛い目に遭ってもらう!」
そういうとギルファーはシルディーナを蹴り続ける。
か弱いシルディーナは蹲ることしかできなかった。
泣いてる彼女に遠慮なく蹴りを入れるギルファー。
邪悪な笑いを発しながら楽しそうに蹴り続けた。
すると突然ギルファーは蹴りをやめた。
そして急に地面に倒れた。
シルディーナは蹴りが止んだことを不思議に思い、蹲っていた体をゆっくりと動かす。
そしてギルファーの方を向く。
するとそこには、もがき苦しんでいるギルファーと、そんなギルファーに噛み付いている灰色の狼がいた。
「な、なんだこの狼・・・!?」
ギルファーは噛み付いている狼を引き離そうとする。
しかし狼の噛む力は強く、離れそうになかった。
狼は「グルルル・・・」という声を上げながら噛み付いており、とても不機嫌な様子だった。
目の前の状況が飲み込めず困惑するシルディーナだったが、今がチャンスだと思い、ゆっくりと立ち上がる。
そしてフラフラしながらも逃げようとするが、先ほどのギルファーの暴行で満足に動ける様子はなく、動こうとした瞬間に思わず後ろに倒れそうになった。
すると、倒れそうになった彼女は「ナニカ」に支えられて助かった。
シルディーナはその「ナニカ」を確認するために顔を向ける。
それは「人」だった。
まるで恐竜の頭蓋骨のような鉄のマスクを付けた男性だった。




