59.第7話「美女誘拐事件」(7/9)
ドウジが敵の増援をダウンさせたことで道ができた。
そして仲間や同行者たちが囚われの女性たちを逃すために脱出経路を走る。
「ドウジは?」
ガイに抱えられているイェルコインが聞く。
ドウジは敵を押さえつけたまま動こうとはしていない。
「彼なら大丈夫だろう。 今は女性たちの安全が最優先だ。」
リクターは走りながらイェルコインに説明する。
しかしイェルコインは不安そうな顔をしていた。
一人逃げずに敵集団の中に残ったドウジ。
狭い通路で挟み撃ちをされそうになっていた。
「アントレーガ様の邪魔はさせないわよ!」
イタチの獣人女性がドウジを睨んでいた。
先程まで普通だった瞳が一面真っ赤に染まっていた。
その睨み顔はまるで悪魔のように恐ろしく、並の人間たちは恐怖を抱くことだろう。
だが、ドウジは並の人間ではない。
「そのアントレーガはどこにいるんだ?」
ドウジは前後にいる敵たちに聞く。
ドウジはキョウカの居場所を知りたいため、アントレーガと直接会おうとしていた。
しかし敵たちの様子がおかしかった。
敵たちは仲間内でヒソヒソ話したりして、その度に不思議そうな表情をする。
敵たちの表情を見たドウジは、一言だけ聞いた。
「ここにはいないのか?」
ドウジは再び聞くが、敵たちはそれどころじゃなさそうな焦りを見せている。
互いに顔を見合わせたり、ヒソヒソと小声で話したり、首を動かして周りを見回したりしている。
まるで、居場所を知らないような反応だった。
「い、いるさ。 ・・・たぶん。」
赤いターバンの男は自信なさげに答える。
彼らも若干怪しく思い始めたようだ。
ドウジは周りの敵たちを見回す。
彼自身もキョウカを助けるためにアントレーガの居場所を知る必要があるからだ。
「アントレーガの姿を少しでも見たやつはいないのか?」
ドウジは敵たちに聞く。
双方にとって、もはや戦っている場合ではなかった。
「指示を受けていたギルファーなら知っているのではないか?」
小柄な男が意見を出す。
ドウジを含め、この場にいる全員がギルファーのいる方向を向く。
つまり、近くにある部屋の方だ。
だが、ドウジは逸早く「異変」に気付いた。
ドウジは足早に部屋へと戻る。
それを見て、「敵」たちはドウジを追うように続いて部屋に入った。
「なにをしている?」
「敵」の一人である赤いターバンの男がドウジに聞いた。
するとドウジは部屋中を見回しながら喋り出す。
「『ヤツ』がいない・・・。」
「え?」
ドウジの言う「ヤツ」とは"ギルファー"のことである。
ギルファーはドウジとの勝負に負けて地べたに倒れているハズである。
しかしドウジの言う通り、先程までギルファーが倒れていた場所にギルファーの姿はなかった。
いるのは同じくドウジが倒した「敵」であるリーリンだけだった。
それ以外なら部屋の隅を向いたままでいるロドルドくらいだ。
ドウジは隅にいるロドルドに近づき、右手で彼の左肩を掴んだと思うとそのまま体を回して自分の方へ向かせる。
そしてドウジはロドルドに詰め寄った。
「あの仮面の男はどこへ行った!?」
ドウジは迫力ある声でロドルドに迫る。
その凄さに若干ロドルドも引いていた。
「えっと〜・・・、よく見てはなかったけど、なんかそこの壁の中に入って行ったよ〜?」
そう言うとロドルドは近くの壁を指した。
そこは当然ただの壁だった。
ドウジは壁に近づくと、壁の色々な場所を触りまくる。
洞窟の壁であるためゴツゴツしている岩の壁だった。
一見すると変わった場所はなかったが、一箇所だけ丸い切れ目がある部分を見つける。
ドウジは丸い切れ目の中央の壁を押してみた。
すると次の瞬間、目の前の壁の一部が地面に沈んでいき、ちょうど人一人が通れそうな道が現れた。
「こ、これは・・・!」
後ろで傍観していた"敵"の集団の一人が思わず声を出す。
どうやら連中も、この道の存在を知らなかったようだ。
「チッ・・・。」
するとドウジはなぜか舌打ちをする。
彼は目の前の道を見た瞬間、とある予感を感じたのだ。
ドウジは後ろへ方向転換し、一目散に部屋の入口から通路へ向かった。
もはや周りの"敵"たちには構っている暇はなく、彼は走り出した。
目指すは外を目指している同行者たちのもとへ。
一方その頃、ドウジが囮になったおかげで洞窟の外へと脱出できたイェルコインとガイや、リクターたち同行者、そして囚われていた女性たち。
彼らは洞窟から出られたことで開放感を感じていた。
「洞窟は出ることができたけど、まだ助かったわけじゃないよ。」
リクターは安心する女性たちに一言述べた。
その言葉を聞いた女性たちの顔から笑みが消え、再び困り顔になる。
「わざわざ言わなくてもよかったんじゃないの?」
「最後まで気を抜かないことは大事だよ。」
ガイがリクターに聞くが、リクターは真面目な顔で返答した。
それを聞いたガイはなにも言い返さなかった。
洞窟を出たのでガイは抱えていたイェルコインを地面に下ろした。
「とりあえず、まずはこの方たちを遠くへ避難させよう。」
口元を鉄のマスクで隠しているアークが提案する。
その提案に賛同してリクターやスリズムたちも女性たちを囲うように近寄る。
「ドウジを置いて行く気・・・?」
しかし一人だけ反論する者がいた。
イェルコインだ。
彼女は囮となったドウジの心配をずっとしていた。
「彼は女性たちを逃すために囮となった。 だから彼の意思を尊重するならばこの人たちの安全を最優先にしないといけない。」
リクターは冷静に返答する。
それを聞いてイェルコインはさらに顔をしかめた。
だがリクターたちは気にせず女性たちを誘導し始めた。
「気持ちは分かるけど、今は彼の言うことが正しいよ。」
ガイはイェルコインに優しく言い聞かせる。
するとイェルコインは今度はガイの方を向く。
明らかに不機嫌な顔でガイを見ている。
困ったガイはイェルコインを再び持ち上げた。
暴れるイェルコインを必死に捕まえ、運ぶために脇に挟む。
そしてそのまま女性たちのもとに近付こうとした。
「待て!」
急に背後から声が聞こえた。
ガイたちが振り向くとそこには鉄仮面をつけて鉤爪を装備している男が立っていた。
先程までドウジによって倒されたハズだったギルファーである。
「あ、あんた・・・、なんでここに!?」
イェルコインは驚愕の表情でギルファーを見る。
リクターたちは足を止めると女性たちを庇うように前へ出る。
「女たちを置いていけ。 特にそこの占い師をな!」
ギルファーはそう言うと、占い師のシルディーナに指を向ける。
彼の言葉遣いには洞窟内で見せた丁寧さが無く、荒々しかった。
どうやらコチラが素のようだ。
シルディーナは思わず唖然し、彼女を想っているスリズムはすぐに彼女を庇うように前へ出た。
するとリクターは顎に手を当てて少しだけ考え込み、そしてすぐに言葉を発した。
「なんか可笑しいと思っていたが・・・、どうやら予想が当たったようだな。」
リクターは意味深長な言葉を呟く。
しかしその言葉を察せることができた者は一人もいなかった。
やがてリクターが話し始めた。
「例のアントレーガという人物が一向に姿を現さないので不思議に思っていたんだ。 だが、その答えが貴様にあるようだな。」
リクターがギルファーを指しながら言う。
ガイとイェルコインは二人を交互に見比べていた。
するとギルファーは腕を組みながら鼻で笑った。
「ご名答だ。 全てはその女を攫うための虚言よ!」
ギルファーは笑いながら答える。
そして話を続ける。
「アントレーガという人物を慕う者は多い。 ヤツの名を利用するのは実に便利だ。」
ギルファーは腕を組みながら高らかに笑う。
リクターは話を聞いて納得した様子だった。
そして彼以外もようやく理解したようで、態度を変えた。
「じゃあ、あんたが全ての元凶・・・!?」
イェルコインは驚きながらギルファーに指を向ける。
するとギルファーは「フッフッフッ・・・。」と誇らしそうに笑う。
「なぜ彼女を狙う!」
今度は自警団員のスリズムがシルディーナを庇いながら聞いた。
するとギルファーは笑うのをやめて、静かに話し始めた。
「彼女は当たると有名な占い師であることは俺でも知っている。 その『力』が俺には必要なんだ!」
ギルファーは凄みを感じさせる声で叫ぶ。
鉄仮面の下の表情は分からないが、おそらく目は血走っていることであろう。
スリズムは鞘から剣を抜き、構えた。
「久しぶりだな、こういう輩も。 最近はなぜか見なかったもんなぁ。」
スリズムは剣先をギルファーに向ける。
完全に敵視しており、警戒している。
当然のことだが。
「彼女は俺のモノだ!」
ギルファーはそう高らかに言い放って鉤爪を見せびらかすと、そのまま飛びかかろうとした。
・・・しかし次の瞬間、ギルファーは地面に急落下した。
頭から地面に落ち、仰向けの状態で倒れた。
鉄仮面によって頭蓋骨を砕かれはしなかったが、どうやら首を怪我したようだ。
ピクピク痙攣した後、気絶したようだった。
ギルファーを警戒していた皆は全員地面に寝ているギルファーを見ていた。
だが、やがて別のモノに目を移らせる。
いつの間にかギルファーの後ろにいたギルダーに。




