4.第1話「敗北と始まり」(4/5)
光線が発射され、キョウカたちは直撃したと誰もが思った。
徐々に光線は弱まっていき、やがて消えて無くなる。
キョウカたちがいた場所には誰もおらず、光線の焼き焦げた跡のみがその場にある。
一瞬、観戦者たちは二人が消滅したように考えたが、その考えはすぐに無くなった。
なぜなら、やや遠くの方で発見されたからだ。
キョウカは何ともないことを不思議に思い、顔を上げる。
そこには大きな背中が見えた。
見覚えのある背中が。
「ド・・・、ドウジさん・・・?」
キョウカの目の前には背を向けている大男がいた。
どうやらドウジは俊敏な動きでキョウカたちを救ったようだ。
そして砲台を目指してドウジは動き出す。
「な、なんだアイツ・・・!?」
コチラへ向かってきているドウジを見て驚愕するチンピラリーダー。
すぐさま光線を放とうとする。
砲身の中が光り輝き始めた。
しかし次の瞬間、砲身が“くの字”に曲がった。
光線が放たれる前にドウジが砲台まで飛んできて砲身を殴って曲げたのだ。
「どわぁ!!?」
チンピラリーダーはなにが起こったのか理解できていなかった。
だが、彼が理解する前に次の攻撃が放たれた。
ドウジがバイクを殴り、拳が内部に入り込む。
そしてドウジが拳を引き抜くと、すぐにキョウカたちのもとへ飛んでいった。
数秒後、バイクが爆発した。
「ぬうおぁぁぁー!!!」
バイクに乗っていたチンピラリーダーは爆風で吹っ飛ばされて、空の彼方へ消え去った。
「頭ぁー!!」
子分のチンピラたちは飛んで行ったリーダーを追いかけるように退散していった。
そして町には一人もチンピラは残らず、全員出ていったのだった。
場所は先程の家。
その一室のベッドでイェルコインが眠っていた。
「・・・ん?」
イェルコインは目を覚ました。
ローブは脱がされており、彼女の頭には尖ったイヌの耳らしきものがある。
「気が付いたのね。」
ベッドの横には椅子の座ったキョウカがいて、少し離れた壁際の場所ではドウジが床に座っていた。
イェルコインは半目でそれぞれを見渡す。
そして段々頭が働き始めてきた。
「・・・アイツらは?」
イェルコインはチンピラたちがいなくなったことを知らない。
あの時には既に気絶していたからだ。
「ドウジさんが追い払ってくれました。」
キョウカはイェルコインの手を握って微笑みながら答えた。
それを聞いたイェルコインはドウジの方を見た。
なにか言いたそうな顔だったが、なにも言わなかった。
しばらくしてドウジは立ち上がり、部屋を出て行こうとした。
「外で待っている。」
そう一言だけ言って、ドウジは部屋を出て行った。
そしてドウジはしばらく家の外で待っていた。
「あの、ありがとうございました!!」
すると、ドウジのところに町の人々が集まっていた。
先程の戦いの感謝をしに来たようだった。
ドウジは基本は喋らず、たまに「ああ」や「いや」などで返事をし、ただ受け身の姿勢を貫いた。
しばらくして家の中からキョウカとイェルコインが出てきた。
二人とも鞄を身に着けており、今にも出かけるような格好をしている。
「お待たせしました。」
キョウカとイェルコインは背の高いドウジの顔を見るために見上げている。
逆にドウジは見下ろしている。
「あの、実はすぐにでも討伐の旅に出ようと思っているのですが・・・。」
二人の格好が出かける感じなのはそういうことだった。
そろそろあの黄金の龍を討伐するための旅に出ようとしていたのだ。
「分かった、行こう。」
ドウジはただ一言そう答えた。
あまりにも簡単に答えたので二人はやや驚き、互いに顔を見合わせる。
「ドウジさん、準備とかは良いのですか?」
キョウカは首を少し傾けながらドウジに聞く。
二人と違ってドウジは手荷物などは持ってない。
自分の身だけだった。
「ああ、俺は大丈夫だ。」
「そう、ですか・・・。」
ドウジの返事を聞いて数秒後、突然キョウカは「あ!」と言ってナニカを思い出す。
そしてウエストポーチから「ナニカ」を取り出した。
それは布でできた「マント」だった。
「あの、こちらをどうぞ。」
キョウカは布のマントをドウジに渡した。
ドウジは素直にマントを受け取るが、首を傾げた。
「これは?」
「あの、上半身が裸だと、色々と目立ってしまうと思いまして・・・。」
キョウカはやや顔を赤くして言う。
ドウジは自身の体とマントを交互に見た。
普段から服を着ていないため、ドウジ自身は全く違和感を感じていなかった。
だが、こうしてキョウカに言われて自身の格好を改めて理解した。
顔を赤くしているキョウカを見ながら、ドウジは素直にマントを羽織った。
「ありがとう。」
そしてドウジはそう一言お礼を言った。
その言葉を聞いて、キョウカは微笑む。
町の入り口の方へ行くと町民たちが三人を出迎えていた。
手を振ったり、声援を送ったりしてキョウカたちを見送っている。
その間を三人は歩く。
「ありがとうございます! 行ってきます!」
キョウカも町民たちに手を振って、旅立とうとする。
イェルコインも控えめに手を振っていた。
ドウジはただ町民たちを眺めていた。
やがて町を出て草原を歩き始める。
後ろではまだ町民たちが入り口付近で手を振っていた。
キョウカはしばらく手を振り返していたが、やがて前を向いた。
草原はどこまでも続いており、遠くには生い茂る木々も見える。
町から町までを繋いでいるであろう砂利道の上をドウジたちは歩いている。
ふと、ドウジは目の前のイェルコインのイヌのような耳が気になり始めた。
そしてうっかりイェルコインのイヌのような耳を摘んでしまった。
「きゃわん!!?」
イェルコインは思わず変な声を出した。
そしてすぐさま後ろにいるドウジの方に顔を向ける。
頬を赤くしながら半目で睨んでいる。
「す、すまん。 つい気になってしまって・・・。」
イェルコインはずっと睨んでいる。
まるでイヌが威嚇しているかのように。
するとキョウカが二人の間に入るように説明をし出した。
「イェルは『獣耳族』と呼ばれる種族なのです。 獣人のハーフである半獣人のハーフで、一部分だけ獣の要素を受け継ぐハーフなのです。」
キョウカは慌てて説明をした。
この世界には人間以外の種族も存在する。
イェルコインもその一人だ。
ドウジはキョウカの説明を聞いて、一応納得する。
「ほ、本当にすまなかった・・・。」
改めてイェルコインに謝るドウジ。
しかしイェルコインは頬を膨らませて分かりやすく不機嫌になっていた。
ドウジは顔に手を当てて、今更後悔をするのだった。
キョウカは話を続けた。
「他にもエルフやドワーフなどの人間以外の種族も共存されておりますよ。」
キョウカの話が耳に入り、興味が出るドウジ。
顔から手を放し、キョウカの方を見る。
「この世界には人間以外にもいるのか。」
「はい!」
キョウカは元気に返事をした。
するとドウジは少しの間、考え事をし出した。
そして数秒後、再び喋り出す。
「竜人などもいるのか?」
ドウジは強そうな種族である「竜人」のことをとりあえず聞いた。
その質問を聞いたキョウカはすぐに答える。
「はい、いますよ。」
ニコニコしながら答えるキョウカ。
しかしドウジは特に反応はしなかった。
ただ納得するだけだった。
ふとキョウカは閃く。
「せっかくですから、この世界の基礎的な情報なども話しましょう。」
キョウカはそう言うと、髪を耳にかけるしぐさをする。
そして「コホン。」と軽く咳払いをした。
「まず、この世界は『シュメルツファウスト』と言います。」
「シュメルツファウスト」。
それがこの世界の名前。
「そして現在、私たちがいるこの国は『ピラード』と呼ばれる"居住国"です。」
「ピラード」。
キョウカたちが住んでいる国の名前。
「"居住国"?」
ドウジは気になったワードを拾う。
するとキョウカは親切に説明をする。
「実は『シュメルツファウスト』は無法な世界なのです。 当然『ピラード』もそうなのですが、比較的に弱い人々が住むことができる国なので "居住国" と呼ばれているのです。」
「シュメルツファウスト」は無法世界。
その中でも「ピラード」は比較的に平和。
「国のトップはいないのか?」
「一応いる。」
ドウジの質問に答えたのは、先程まで不機嫌だったイェルコインだった。
彼女は気にせず話を続ける。
「と言っても、本当に『いる』だけの王様だけどな。」
イェルコインは若干呆れているような感情で話した。
ドウジはイェルコインに説明を求めようとするが、その続きはキョウカが答えた。
「『ピラード』の責任者という役職で就いているのです。 ただ、特に業務内容はありませんが・・・。」
「つまり、国で『ナニカ』が起こったときの "都合のいいサンドバッグ" さ。」
イェルコインの発言に、キョウカは目を逸らす。
キョウカも王様のことは内心ではそう思っているのだろう。
「予想以上の国だな・・・。」
さすがにドウジは困惑する。
国として機能しているか怪しい場所に来てしまったからだ。
キョウカは空気を読んで別の話をし出した。
「ですが、危険から自分の種族のために人々は協力するようになったのです。」
キョウカはイェルコインを見る。
するとイェルコインがそれに気付き、彼女もキョウカを見る。
「違う種族同士で共存し、お互いを守るようになったのです。」
「まあ、それは本当に良いことだと思うよ。」
イェルコインはかすかな笑みを浮かべる。
それに対してキョウカも満面の笑みを見せた。
ドウジは顎に手を当てる。
脳内で今まで聞いたことを整理していた。
「今後、なにか分からないことがあれば遠慮なく聞いてくださいね。」
キョウカはドウジに向かって笑みを見せた。
【登場キャラクター】
●「黄金龍討伐メンバー」
・天津道志
主人公(異世界転移者)。
身長約3メートルで筋骨隆々の男。
あらかじめ覚悟していれば、強力な攻撃を受け止められることがある。
・キョウカ・アキノ
メインヒロイン。
人間の魔法使い。
裁縫も得意で、ドウジにあげたマントは手作り。
・イェルコイン・アレクサンドラ
獣耳族と呼ばれる種族の聖魔導師。
犬の耳が生えている。
キョウカの親友で、愛称は「イェル」。
耳の感度が良いため、耳を触られることを嫌う。
●「チンピラ集団」
・チンピラたちのリーダー
チンピラたちの親分。
大砲に変形するバイクに乗る。
・チンピラたち
バイクに乗り暴れまわる迷惑な連中。
リーダーがいなくなった場合、途端に弱気になる。