56.第7話「美女誘拐事件」(4/9)
少し時間を戻す。
ドウジとイェルコイン、ガイとギルダーの二手に別れた後の頃だ。
ガイとギルダーもキョウカを助けるために穴の道の中を進んでいた。
ドウジはイェルコインの歩行に合わせていたため移動は遅かったが、こちらはギルダーがガイの鎧の背中に乗って飛行移動をしていた。
これによって音を出さずに早く移動をすることが可能なのだ。
兜を先に移動させることによって曲がり角の確認も前もってできるため、緊急停止をしなくて済むことも心強い。
そんなことをしている内に、ついにガイが「ナニカ」を発見した。
そのことをギルダーに報告するために兜を戻してくる。
「なんか『叩かれてる音』が聞こえたんだけど。」
ガイはどこからか音が聞こえたらしい。
ギルダーは「案内しろ。」とだけ言うと、それ以上なにも言わなかった。
素直にガイはギルダーを音のした方へと運ぶのだった。
音のした場所へどんどん近付いていく。
ギルダーの耳にも聞こえており、音がだんだん大きくなっていく。
叩く音は少し間をおいてから次の音を響かせており、連打はしていないようだった。
やがて音がした場所を突き止めた。
部屋の扉の隙間から部屋の中を覗くガイとギルダー。
部屋の中には一人の獣人と一人の人間が、立てた丸太に縛られている男を拷問していた。
獣人はイタチの女性で、持っている棒で縛られている男を引っ叩いていた。
一方もう一人は小柄な人間の男性で、イタチ獣人が行なっている拷問を座って眺めていた。
縛られている男は体や顔に打撲の痕が付いている。
結構前から叩かれまくっていたようだ。
扉の隙間から黙って見続けているガイとギルダー。
するとガイは「よし。」と言葉を呟き、変な行動を起こそうとする。
浮かばせていた兜を鎧に乗せて甲冑を元に戻す。
すると、兜の中に光っていた目の光が消えた。
どうやら霊体化したようだ。
当然ながらギルダーにはなにが起ころうとしているか理解できていなかった。
だが、そんなことは関係ない。
なぜならすぐにことが起こったからだ。
ギルダーがよそ見をしていると、部屋の中から「キャア!」という声が聞こえてきた。
部屋を覗くと、イタチの獣人が自分が持っている棒とは別の棒で首の後ろを一発叩かれていた。
その一撃が大ダメージだったのか、イタチの獣人はそのまま地面い崩れ落ちて、気絶した。
眺めていた男が空中に浮かんでいる棒を警戒していた。
男はベルトにかけていた小さな鞘から短剣を抜き、逆手持ちに構える。
しかし男は宙に浮かぶ棒にだけ集中していたため、足元にあったもう一つの棒に気付かなかった。
その棒はイタチの獣人の手から落ちた物であり、それをガイが拾ったのだ。
勢いよく男の脛を棒で叩き、地面に膝をつかせる。
そして今度は宙に浮かばせていた棒で男の頭を勢いよく叩いた。
男はその一撃をくらい、気を失って地面に倒れた。
敵二人の気絶を確認し、ギルダーは普通に部屋の中へ入ってきた。
そして丸太の縛られている男を見る。
男は酷い怪我を負っていたが、死んではいないようだった。
「い・・・、一体、なにが・・・。」
縛られている男は口を動かす。
ダメージを負っており、早く口を動かすことはできないようだ。
しかしギルダーはそんな彼に質問をする。
「お前は誰だ。」
ギルダーは男の縄を解こうとはせず、彼すらも警戒しているようだ。
「ちょっと待ってよ、ギルダー。」
すると、甲冑に戻ったガイも部屋に入ってきた。
そしてギルダーの横に立つ。
「まずはこの人を解放して、落ち着かせよう。」
ガイはそう言いながら、持っている剣で男の縄を切り始めた。
「のんびりしている時間はないぞ。 あの魔女が助からなくてもいいのか?」
ギルダーがガイに問いかける。
「魔女」とはキョウカのことだろう。
しかしガイは無視して男を解放することに集中した。
無事に縄が切れて男は自由になる。
ボロボロになった体で立つことは難しく、男は地面に勢いよく座り込んだ。
「た、助かった、よ・・・。 ありが、とう・・・。」
まだ口を満足に動かせずにいた。
しかし表情は明るくなった。
「す、すまないけど・・・、あそこにある、アレを取ってきて、くれないかな・・・。」
続いて男は遠くにある物に指を向けた。
それは机の上に置かれている「鞄」だった。
おそらく男の私物だろう。
ガイはロケットパンチの如く甲冑の籠手を飛ばして、遠くにあった鞄を掴んだ。
そしてそのまま籠手を浮かばせながら甲冑腕部分に戻った。
ガイは男に鞄を渡す。
男は今起きたことにやや驚いていたが、すぐに頭を軽く下げて鞄を受け取った。
鞄の中に手を入れて、その中から透明な水筒のようなモノを取り出した。
中には水が入っている。
男は蓋を開けて、中に入っていた水を飲み始めた。
そして一息つくと、男はゆっくりと立ち上がった。
「ありがとう、助かったよ。」
男は急に元気になり、普通に話せるようになった。
「その水、なにか特殊な薬かナニか?」
突然元気になったので不思議に思ったガイが男に聞く。
すると、男は半笑いで答えた。
「いや、喉が渇いてただけだよ。 水分を補給して元気になっただけ。」
男はそう言うと水筒を鞄に戻して、鞄を片手で持つ。
そして先程置いてあった場所を目指して歩み出した。
「もう一度聞く、お前は誰だ。」
ギルダーは歩行中の男に聞く。
彼はまだ警戒をしているようだった。
すると男は歩みを止めてギルダーの方を向いて喋る。
「すみません、もう少しお待ちください。」
男はそう言って再び歩み始める。
そして目的の場所に近付いた。
男は机の上に置かれている服を取り、服を着る。
そしてズボンを履き、靴を履く。
最後に帽子を被り、武器である剣が収めてある鞘を腰に下げた。
男の見た目は赤と黒が目立つ服装で、まるでイギリスの兵隊のようだった。
身だしなみを整えた男は、ガイとギルダーに向かって敬礼をする。
そしてハッキリとした声で名乗り上げた。
「自分は上流階級であるディフォード家の当主であり、インペリアル自警団の団員でもあります "スリズム・ディフォード" と申す者でございます!」
スリズムと名乗った男は敬礼を続けている。
ガイとギルダーは目を丸くしていた。
やがてギルダーが口を開く。
「貴族のお偉いさんがなぜこんな場所にいる?」
ギルダーは上流階級であるディフォード家のことを知っていたようだ。
だからこそ、貴族がなぜこんな穴の中にいるのか不思議に思っていた。
「私の想い人を助けに参りました。 それだけです。」
スリズムは敬礼をやめて、一言そう言い放つ。
彼も大切な人を助けに来たようだ。
「しかし数の前に呆気なく敗北してしまい、このザマです。」
彼はガイとギルダーに近付きながら説明をした。
顔に怪我を負っていながらも、身振りは綺麗だった。
「ボクたちも仲間を助けにここに来ました。」
ガイが自分たちの目的をスリズムに話す。
すると、スリズムはまぶたを閉じたかと思うとすぐにまぶたを開かせた。
「お願いします。 どうか、共に戦っていただけませんか?」
スリズムは静かにお願いをした。
それを聞いたギルダーが「ナニカ」を言おうとするが、先にガイが答えた。
「当然です。 共に大切な人を取り戻しましょう。」
ガイが元気よく答えた。
それを聞いてスリズムは深く頭を下げた。
するとギルダーがガイの近くに来る。
「お人よしが。 いつか痛い目を見るぞ。」
ギルダーは小声でガイに言う。
しかしガイは気にしなかった。
「人を信用するには、信じることから始まるんだよ。 当たり前のことだけど。」
ガイはギルダーにそう言い返す。
ギルダーも否定はしないのか、なにも言わずに離れた。
ガイとギルダーは地面に倒れている悪人たちを壁際に運んだ。
そして、スリズムと共に部屋を出た。
穴の中を再び歩もうとする三人。
すると、突然ガイがスリズムに話しかけた。
「そういえば、さっき言ってた『インペリアル自警団』ってなに?」
ガイはずっと気になっていた。
スリズムはとりあえず辺りを見回して「敵」がいないことを確認すると、しっかり説明をし出した。
「この『シュメルツ・ファウスト』に警察も憲兵もいなくなった今、悪党たちを取り締まる存在が必要なのは子供でも分かることですよね。」
スリズムが聞くように言うと、ガイとギルダーは素直に頷く。
するとスリズムは ニヤッ と笑いながら話を続ける。
「そこで立ち上がったのが我々『インペリアル自警団』というわけです。」
スリズムは自身に親指を向けながら自信満々に言い放った。
ガイたちはしばらく静かにスリズムを見ていると、スリズムはまた表情を変えた。
ちなみに顔の怪我は当然治っていない。
「まあ、と言っても自分は後から団員に志願しただけで、ゼロから立ち上がったのは団長と古参の二人ですけどね。」
スリズムは謙虚に説明をした。
「今の『シュメルツ・ファウスト』の悪人たちを捕まえられることができるの?」
ガイはスリズムに聞く。
この世界「シュメルツ・ファウスト」に生きる人々の平均戦闘力は高く、盗人ですら戦闘力が高い場合もある。
そんな悪人たちばかりなので逮捕ができず、警察や憲兵が機能しなくなりやがて自然消滅した。
そして政治家などの人々もいなくなり、結果として世界は「法」を失ってしまった。
唯一人々が暮らすことができる「ピラード」ですら無法国家である。
強き者は身を守るために強くなり、弱き者は強き者に守られるしかない。
スリズムの言う「インペリアル自警団」は、そんな世界にいる悪人たちを取り締まろうとしているのだ。
「『インペリアル自警団』の本部は、ピラードの隣国である『ワグーグ』にある。 そこの牢獄に悪人たちを閉じ込めている。」
「えっ、『ワグーグ』に!?」
スリズムの話を聞いて驚くガイ。
「ワグーグ」は言ってしまえば、ほぼ海しかない国である。
そのため「大洋国『ワグーグ』」と呼ばれている。
住居があったとしても断崖の上に置かれており、周りには海しかないのだ。
当然ながら人が住めるワケもなく、あくまで漁などで利用されるくらいだ。
そんな「ワグーグ」に本部があるというので、ガイは驚いたわけだ。
「周りが海なら並の悪人なら脱獄できないでしょう?」
スリズムの言葉を聞いて納得するガイ。
今、自分の目の前にいる人は凄い人なのかもと思い始めるのだった。




