55.第7話「美女誘拐事件」(3/9)
ドウジがゴーレムを全滅させ、それを操っていた魔術師は二人の男に倒された。
一人は黒いスーツを着て、黒い仮面を身につけている褐色肌の男性。
もう一人は白い布の服を着ている金髪の男性だった。
そして二人共、長い耳を持っていた。
どうやらダークエルフとエルフのようだ。
ドウジは周囲の安全を確認し、イェルコインを呼んだ。
それに従ってイェルコインは足早にドウジのもとに駆け寄る。
「ありがとう、助かったよ。」
ダークエルフの男性は手を差し伸ばしてきた。
どうやら握手を求めているようだ。
否定する理由がないため、ドウジは無言で握手をした。
手の大きさが違うため、若干変な感じになったが・・・。
「一体、なにが起こってるの・・・?」
イェルコインは状況が把握できていなかった。
するとドウジが真っ先に説明をし出した。
「攫われた仲間を探している。 黒い衣装の魔法使いなのだが見なかったか?」
ドウジの説明を聞いて、エルフの二人は互いに顔を見合わす。
やがてダークエルフが返答した。
「すまないが、見ていない。 実はボクたちも攫われた娘を探しにきたんだ。」
そう言うとダークエルフは牢屋の扉の前に移動する。
エルフの方は魔術師の服を調べて「ナニカ」を探していた。
やがてエルフがダークエルフに声をかける。
「鍵、見つけたぞ。」
エルフは魔術師の服から牢屋の鍵を見つけた。
そしてダークエルフに向かって鍵を投げ飛ばした。
ダークエルフは鍵をキャッチすると、そのまま牢屋の扉にある錠前を外し、扉を開ける。
扉が開いたことを確認した牢屋の中の人々は、次々に牢屋の外へ出てくるのだった。
出てきた人々はダークエルフの顔を見て感謝の言葉を送りながら部屋の中に散らばる。
最後にヨボヨボの老人が出てきたことで全員救出することができたのだった。
どうやら牢屋に捕まっていた人たちは皆、娘や恋人などを救出しに来た人々だったそうだ。
しかし力及ばず簡単に捕まってしまったようだ。
ダークエルフがしばらく考え込んでいたが、やがて指示を出す。
「力に自信がある奴だけ手伝ってくれ。 それ以外はこのエンリコが脱出の手助けをする。」
ダークエルフはエルフを指しながら言い放つ。
エルフの名前は "エンリコ" と言うようだ。
数名が自信があると名乗りを上げて、また数名がエンリコの元に集まる。
意外と早く事が進んでいた。
「キミたちもこっちだろ?」
ダークエルフがドウジとイェルコインを見て言う。
ドウジたちは「当然だ。」と言うかのように、ダークエルフのもとへ近付いた。
ダークエルフはその行動を見て、軽く笑うのだった。
救出班と脱出班に分かれ、行動を開始し始める。
「無事に送り届けたら、俺も後で加わるからな。」
エンリコはそう言うと、脱出班の人たちを連れて移動を開始する。
すると、その内の一人であるヨボヨボの老人がダークエルフに近付く。
「む、娘を・・・、娘を、お、お願いします・・・!」
見た目通り、喋り方もどこか辛そうな感じでダークエルフに頼む老人。
しかしその声色はとても強い意志を感じた。
ダークエルフは老人を見て、ただ一言だけを述べる。
「任せろ。」
そう答えた。
エンリコたち脱出班はやがて部屋から出て穴の道に入って行き、部屋から姿を消した。
残ったのはドウジとイェルコイン、そしてダークエルフとその他三名の男たちだった。
「じゃあ、ボクたちも始めるか。」
ダークエルフは鞘から剣を抜こうとする。
だが、その前にイェルコインが言葉を発した。
「ねえ、一応名前を教え合わない?」
イェルコインは提案した。
それを聞いた男たちは一斉にイェルコインを見る。
それに若干驚いて困惑するイェルコインだったが、話を続ける。
「万が一ってことがあるでしょ?」
イェルコインが引き気味に話す。
それを聞いて男たちは顔を見合わせる。
すると、ドウジが一歩前に出た。
「俺はドウジ・アマヅだ。」
そして名乗った。
彼なりにイェルコインをフォローしたつもりなのだろう。
実際イェルコインは最初こそ驚いていたが、すぐに穏やかな表情になった。
そして彼女も同様に「私はイェルコイン・アレクサンドラ」と名乗り上げたのだった。
ドウジとイェルコインが名乗ったことで、流れ的に名乗らなければならない空気と化した。
やがて男たちも名乗り始める。
「タルティス・カーメルです。」
「アーク・レーベルだ。」
「ジョン・ドワイフ。」
名乗りを終えると、残った一人の方を向く。
つまり、ダークエルフの方だ。
五人の視線がダークエルフに向く。
ダークエルフはやや困惑気味だったが、やがて口を開いた。
「リクター・マーチャント。 それがボクの名前。」
"リクター"と名乗ったダークエルフは言い終えると鞘に刺さっている剣の柄を握って、剣を引き抜いた。
「んじゃ名前紹介も終わったし、そろそろ行くぞ。」
そう言って、部屋を出て行った。
他の五人もリクターについて行く。
部屋に残ったのは気絶している魔術師だけとなった。
リクター、イェルコイン、ドウジ、他三名の順番で穴の道を一列に歩いていた。
「(ねえ、マーチャントって・・・。)」
「(ああ、俺も気付いた。)」
ドウジとイェルコインは小声で話していた。
"マーチャント"という苗字に聞き覚えがあったからだ。
ドウジは前を歩いているリクターに話しかけた。
「なぁ、少し聞いていいか。」
ドウジの言葉を聞いてリクターは「なに?」と言って耳を傾ける。
歩みは止めず、視線は前方を向いている。
「シグ・マーチャントという名前に聞き覚えはあるか?」
ドウジは仲間であるシグの名をフルネームで出した。
すると、それを聞いたリクターは歩みを止めてドウジの方を向いた。
前を歩いていたリクターが足を止めたことで、後ろからついてきていた五人も歩みを止める。
「シグはボクの娘だが、どうして名を・・・。」
シグはリクターの娘だった。
予想通り血縁者ではあったが、「父親」だったことに驚愕するドウジとイェルコイン。
明らかに"兄妹"の方が説得力がある見た目だったからだ。
それもそのハズ。
エルフやダークエルフは長寿であり、外見年齢の変化は遅い。
子供から大人の見た目になるのは意外と早いが、老けるのはとても遅いのである。
なのでリクターの見た目は若いが、シグみたいな大人な見た目の子供を持っていてもおかしくはないのである。
ドウジとイェルコインはシグが黄金龍討伐のための仲間になっていることをリクターに話した。
話を聞いているリクターはどこか嬉しそうな表情をしていた。
「ハハッ、あのシグが立派になりやがって。」
リクターは嬉しそうに言う。
「娘を探していると言っていたが・・・。」
ドウジが疑問をリクターに言う。
リクターは「攫われた娘を助けに来た」という目的で行動していた。
だが、リクターの娘はドウジたちと旅をしており、現在は怪我を負って「ケッボ村」で入院している。
その謎をドウジは気になっていた。
だが、すぐにその謎が解けた。
「あー、シグは長女で攫われたのは三女。 つまりシグの妹。」
簡単なことだった。
シグに妹がいたのだ。
しかも二人も。
「男勝りな長女のシグやクールな次女のリズと違って、心優しく大人しい三女のナズだよ。」
続いてリクターは名前も教えてくれた。
おまけに次女の名前も。
リクターは娘たちの話を続けようとするが、その前にドウジたちの後ろにいる三人が「まだかかりそうッスか?」と口を挟んできた。
それに気付いてドウジとリクターは「すまん」と謝り、再び歩み始めた。
「あとでシグのことを聞かせてくれ。」
リクターはボソッとドウジに言う。
それに対してドウジは無言で頷いた。
それから、ドウジたちは道を進み続けた。
途中でドウジたちも発見した曲がり角を再び発見するが、リクターたちが既に探索したらしく、中は入る必要はないようだ。
そうして進んでいくと、どこかで見たことがある場所へとやってきた。
「ここは・・・。」
イェルコインは場所に覚えがあった。
それもそのハズ。
ガイとギルダーの二人と別れた場所だからだ。
「こちらはまだ調べてないんだ。」
リクターはもう一つの穴を指しながら言う。
そちらはガイとギルダーが入って行った穴だった。
リクターは穴に入って行き、ドウジとイェルコインと他三名もついて行く。
するとイェルコインはドウジの前に移動し、リクターに話しかけてきた。
「そういえば、どうやって中に入ってきたの? 入口にいる見張りには見つからなかったの?」
イェルコインはリクターに聞く。
たしかに見張りの様子は「何者かが内部に侵入した」という感じの雰囲気は見せていなかった。
とても暇そうにしており、交代の見張りも特になにも言ってなかった。
イェルコインの疑問を聞いて、リクターは「あー」と声を発する。
「簡単なことさ。 物で釣って、夢中になっている隙に侵入したのさ。」
リクターは少し笑いながら話した。
だがイェルコインの質問は終わらない。
「『物』ってなに?」
イェルコインは「物」が気になっている様子。
するとリクターはすぐに答えた。
「男たちが大好きな、セクシーな雑誌さ。」
リクターの答えを聞いて、若干赤くなるイェルコイン。
「あ、グラビア雑誌のことね。」
だが、そんな彼女を横目で見てすぐに補足説明をするリクター。
彼はイェルコインに誤解を与えないために説明をした。
しかしイェルコインはさらに赤くなった。
なぜなら、補足説明をしたということはそれとは別の「ナニカ」をイェルコインが思い浮かべていたという事実が証明されてしまったからだ。
そして、その事実はリクターだけでなく、他の男たちにもバレてしまったのだった。
一応そのことを指摘しようとする者は誰もいなかった。
だが、思わぬところでイェルコインは恥をかく結果となってしまった。




