51.第6話「巨大兵器」(9/10)
マルクスの基地は、もはやただの廃墟と化していた。
近くにはガラクタと化した「物体」も残されている。
当のマルクス本人も空の彼方に吹っ飛んで行き、行方不明となった。
ドウジとガイは気絶しているシグ、ザイルダイト、エイジを抱えて移動しようとする。
「ドウジさん・・・!」
落ちている武器などの回収をしていたキョウカがドウジを呼ぶ。
ドウジがキョウカの方を向くと、キョウカの見ている方向で恐ろしいことが起こっていた。
それは、先程まで気絶していた一部の「敵」たちが起き上がっていたのだ。
目を覚ましたのはハムサンド、ヴィレンビー、キィナ、アルクレスの四名。
チャックとDr.メジャーリーグはまだ目を覚ましていない。
ドウジは一度抱えていたシグを地面に優しく置き、キョウカを守るために前に出た。
キョウカもドウジが前に出た途端、少し後ろに下がった。
ドウジは警戒をしている。
いつでも戦える体勢だった。
しかし「敵」の様子がおかしかった。
四人全員がマルクスの基地があった場所を見ていた。
知っての通り、そこは既に廃墟と化している。
マルクスもいない。
四人は廃墟を見た後、四人で話し合い始めた。
ドウジとキョウカ、それと遠くで見ているガイはただ見ているだけだった。
しばらくして「敵」たちは話を終えて、再びドウジたちの方を見る。
そして、言葉を言い放つ。
「マルクスはどこだ?」
代表してヴィレンビーがドウジに聞いた。
ドウジは警戒をしながらも、ゆっくりとマルクスが飛んで行った方へ指を向けた。
つまり遠くの空に。
四人が一斉にその方向を向く。
しばらくして三度ドウジたちの方を向く。
すると突然ハムサンドとキィナは地面に座り込み、ヴィレンビーもため息を吐いた。
その光景を不思議そうに見るドウジとキョウカ。
やがてヴィレンビーが代表して喋り出した。
「俺らは雇われた者だ。 雇用時間は既に過ぎているし、雇い主もいなくなった。」
そう言うとヴィレンビーとアルクレスは歩き出し、一度座ったハムサンドとキィナも再び立ち上がる。
ヴィレンビーは気絶しているチャックを、アルクレスは気絶しているDr.メジャーリーグを抱えた。
そして六人は一斉にどこかへ去ろうとする。
「待ってください!」
しかしそれをキョウカが止めた。
気を失っていない四人がキョウカを見る。
「皆さんに酷いことをして、普通に帰るのですか!?」
キョウカは傷ついた三人に手を向けながら、「敵」だった四人に言い放つ。
四人は表情を変えず、代表してヴィレンビーが言い放つ。
「俺らを嫌おうが好きにしろ。 だが、俺らはもうお前らと戦う必要は無くなったから帰るだけだ。」
そう言いながら四人は再び背を向ける。
そして最後に一言。
「村も襲わねえよ。」
言い終えると、六人の傭兵たちはドウジたちから離れていった。
キョウカが思わず追いかけようとするが、それをドウジが止める。
「皆を運ぼう。」
ドウジはキョウカの肩に手を置きながら一言そう述べた。
そしてドウジは再びシグたちを村に運ぼうと行動に移る。
キョウカも考えを改めて再び武器の回収をし始めた。
村へ戻ったドウジたちは、村民たちから大いに感謝の言葉を贈られた。
ドウジたちは言葉を受け取りながらもシグたちを村の病院へ急いで運び込んだ。
その途中、念のため村の中で待機していたイェルコインとフブキも加わる。
村の病院は小さいところだが、ベッドが六つあったため三人を寝かせることができた。
ちなみにその内の一つには、既に患者が寝ていた。
どこかで見たような姿の男だったが、気にせず三人をベッドで寝かせるのだった。
病院のドアの大きさの関係上、背が大きすぎるドウジは窓の外から顔を中に入れて見ていた。
まずはシグの診断を始めようとする。
ちなみに医者は女医さんだった。
すると、イェルコインが「ナニカ」を察した。
「ドウジとガイ、悪いけど外で待っててくれない?」
イェルコインがドウジとガイを交互に見る。
二人は一瞬意味が分からなかったが、やがて理由に気付き病院から離れていった。
シグの腹に打撲の痕が出来ていた。
とても痛々しかったが、命に別状は無さそうだった。
女医さんの治療は結構早めに終わった。
シグはそれほど酷い怪我ではなかったようだ。
キョウカはホッとした。
続いてザイルダイトの治療をしようとするが、女医さんが「きゃ!?」という声を上げながら白衣の下のスカートを押さえた。
何事かと思いキョウカたちはザイルダイトの方を向くと、ザイルダイトはベッド使って逆さまになっていた。
いつの間にか目を覚ましていた。
「なにやってんの?」
イェルコインはゴミを見るような目でザイルダイトを見ながら聞く。
まあ、イェルコインは既に分かってはいたが。
「天国を見たくて。」
ザイルダイトは一言そう述べる。
その言葉を聞いた女医さんは顔を真っ赤にした。
イェルコインは遠慮なく持っていた杖でザイルダイトの体を叩いた。
「痛え、俺怪我人なんだけど!?」
「怪我してるのは頭の中でしょ!!」
ザイルダイトは体を戻し、ベッドの上でイェルコインの攻撃を防ぐ。
イェルコインはなぜかは知らないが、いつも以上に怒っているように見えた。
「先生、コイツは診なくていいから、そっちの彼を診てやって。」
イェルコインは杖でザイルダイトを叩きながら別のベッドで寝ているエイジに手を向けた。
女医さんは苦笑いをしながらエイジの方を診始める。
それを見てイェルコインも杖で叩くのをやめた。
「ちぇっ、俺も美人女医の診察受けたかったぜ。」
ベッドの上でザイルダイトは肘枕の体勢で寝ながらぼやく。
それに対してイェルコインがザイルダイトを睨む。
「どうせ、あんたを診たらセクハラされるでしょ。」
イェルコインはキッパリと言う。
するとザイルダイトは意味深に「ヘヘッ」と笑った。
「なら、イェルちゃんが診てくれてもいいんだぜ?」
ニヤニヤしながらイェルコインに言うザイルダイト。
そしてさらに不機嫌そうな顔をするイェルコイン。
そのままなにも言わずエイジの方を向く。
するとザイルダイトは、ベッドの上で胡座をかいた。
「イェルちゃんは治癒魔法とか覚えてないの?」
何気なく聞くザイルダイト。
数秒間だけ間を置いて、イェルコインは返答した。
「覚えられるわけがないでしょ・・・。」
イェルコインは若干元気なく答えた。
どうやら話の雰囲気的に、この世界の「治癒魔法」は特殊のようだ。
イェルコインの返答を聞いた後、ザイルダイトはなにも言わず素直にベッドで横になった。
ザイルダイトが黙ったと同時に、やがて静寂が訪れた。
しばらくの静寂の時間が訪れたが、それは意外な形で崩れ去った。
それは女医さんの「うっ!?」という声だった。
「ど、どうしたのですか・・・?」
キョウカが女医さんに聞く。
しかし女医さんは手で口を押さえたまま静止してしまった。
何事かと思いキョウカはエイジの顔を見た。
すると、視線の先には意外なモノが映った。
エイジの隠されていた口が露わになった。
その口はギザギザした歯が生えた口だった。
「こ、これは・・・。」
「こいつ、ダークエルフかと思ってたけど、"レッドキャップ"だったのか・・・。」
キョウカの質問に答えたのはザイルダイトだった。
ベッドから起き上がってエイジの素顔を見ていた。
「レ、レッドキャップって、あの・・・?」
キョウカもレッドキャップを知っていた。
しかし実物を見るのは初めてで、動揺を隠せないでいた。
「ああ、快楽殺人種族のレッドキャップだ。」
ザイルダイトは真面目な声色で言い放つ。
それを聞き、その場にいた全員が固まってしまった。
ザイルダイトはなにも言わず、再び自分のベッドに戻って寝っ転がった。
キョウカは女医さんに聞いた。
「知らなかったのですか・・・?」
女医さんはキョウカの言葉を聞いて首を横に振る。
どうやら今まで口元を見せなかったらしく、誰にも教えなかったようだ。
今まで村を守ってきたのが、快楽殺人種族のレッドキャップだったことを知った女医さんの心情がかなり複雑になっていることが十分に察せる。
だが、それでも女医さんはエイジの治療を始める。
「ふっ、優しい人だ。」
後頭部で手を組みながらその様子を眺めるザイルダイト。
呑気に鼻の先をかいたりしている。
「あ、あんたねぇ・・・。」
イェルコインがザイルダイトに注意しようとするが、そこで言葉を詰まらす。
するとザイルダイトはイェルコインやキョウカたちを見ながら喋り出す。
「ここは先生に任せて、イェルちゃんたちは外にいるドウジたちと後のことを相談でもしてきたらいい。」
ザイルダイトは寝たままの姿勢で窓の方を見る。
空が赤くなり始めている。
そろそろ夕方になろうとしている。
「まあ、今日はこの村で休ませてもらうことになりそうだがね。」
ザイルダイトは一人で話を進めていた。
やがてキョウカは静かに頷く。
「私たちは私たちのことをしましょう。」
キョウカはザイルダイトの意見に賛成し、そう二人に言った。
イェルコインはなにかを言いたそうにしていたが、その前にキョウカがイェルコインの手を掴んで外に連れて行った。
その後をフブキが無邪気について行った。
そして、病院に残ったのは女医さんと患者の四人だけとなった。
キョウカたちが居なくなった途端、ザイルダイトが女医さんに話しかけた。
「先生の名前って、なんですか?」
ザイルダイトが何気なく聞く。
しかし女医さんはザイルダイトを一瞬見ただけで、黙ったまま再びエイジの治療に集中する。
それを見てザイルダイトは「フッ」と笑う。
「んで、そいつのことは村民たちに話すのか?」
再び女医さんに話しかけるザイルダイト。
ザイルダイトは返事が返ってこないことを覚悟して言っていた。
だが、数秒間の沈黙が続いた後に、ついに女医さんが喋り出した。
「言いません。 エイジさんは良い人ですから。」
ただ、そう言った。
それを聞いて、ザイルダイトはまた「フッ」と笑った。
それ以降、ザイルダイトは話しかけるのをやめた。
それから数分後、女医さんはザイルダイトのベッドに近付いてきた。
ザイルダイトは不思議そうに女医さんを見る。
すると女医さんの方から喋りかけてきた。
「診ますので、体を起こしてくれませんか?」
ザイルダイトはその言葉を聞いて目を丸くする。
しかしすぐに指示に従い、体を起こした。
「包帯を取ります。」
そう言いながら女医さんはザイルダイトの包帯を取り始めた。
当然、頭の怪我を見るためにだ。
しかしザイルダイトの包帯を取れば取るほど、おかしなモノが見えてきた。
そして包帯を全部取った瞬間、女医さんは再び手で口を押さえて驚愕していた。
ザイルダイトの頭がスキンヘッドなのは包帯で覆われていたことで容易に想像はできるため、それに関しては驚かなかった。
女医さんが驚愕したのは、無数の切り傷だらけのザイルダイトの頭だ。
「こ、これは・・・?」
女医さんは驚きを隠せていなかった。
包帯が切られていなかったため、怪我は打撲だけだと思っていたからだ。
切り傷が既にカサブタとなっているため、昔できた傷であることも理解した。
それもかなりの数だった。
しかしザイルダイトはいつも通り笑いながら喋りかける。
「良い男には秘密があるモノさ。 アイツもそうだ。」
ザイルダイトはニヤけながら、エイジを見てそう述べた。




