3.第1話「敗北と始まり」(3/5)
家のリビングで食事をしながら再び話し合いをする人々。
しかし今度はドウジもいる。
先程の服装ではなく、元の姿に戻っている。
上半身裸で、下半身にはボロボロのズボンを穿き、片目を布で隠している。
「しっかし、あのナルキを殴り飛ばせる人間がいたとは・・・。」
家主らしき老人がドウジを見ながら喋った。
その言葉を聞いてドウジも口を開いた。
「今までいなかったのか・・・?」
ドウジは周りを見ながら喋る。
すると町民らしき男が食べる手を止めた。
「ヤツに挑んだ中では、あんたが初めてだ。」
そう言うと再び食べる手を動かし始めた。
ドウジは顎に手を当てて、「ナニカ」を考え出した。
するとそれを察したキョウカが話しかけた。
「あくまでナルキに挑んだ人の中ではということです。 遠くの国には強者たちがゴロゴロいるという噂ですし。」
キョウカの言葉を聞くと、ドウジは考えるのを辞めた。
それを見てキョウカもホッとする。
食事を終えたドウジは、家の外に出ていた。
今いる町は小さめの町で大きくはない。
あのナルキの攻撃を一回でも食らった場合、深刻な被害が出ることだろう。
風がドウジの体に当たる。
「こんにちは。」
ドウジのもとへやってきたのは、キョウカだった。
腕を後ろで組み、見上げてドウジの顔を見ている。
ドウジはキョウカを見つけると、見下ろして彼女の顔を見る。
「本当に、ありがとうございます。」
キョウカは頭を下げながら、再び感謝の言葉をドウジに送った。
そして頭を上げると優しく微笑んだ。
二人は隅の方で並んで、町の様子を眺めていた。
町には当然人々が歩いて、それぞれが行きたい場所へ歩いて行く。
「あの、天津道志さん・・・。」
「ドウジでいい。」
フルネームで呼ばれてすぐに名前で呼ぶことを許すドウジ。
その言葉に甘えて、再び話し直すキョウカ。
「ドウジさんはどうして強い相手と戦うのですか?」
"天津道志"という人間に興味を持つキョウカ。
ドウジはしばらく動かなかったが、やがて口を開く。
「俺は元いた世界では「最強」となった。 だからさらに高みを目指すためにこの世界へやってきた。」
そう言うとドウジは空を見上げた。
そんなドウジの顔をキョウカは見上げて眺めた。
「この世界には更なる強者がいると知り、実際にこの目で見られた。」
ナルキのことである。
実際ドウジはナルキと戦って負けた。
これはまだまだ上がいる証拠である。
「だが、俺は全然弱い。 またイチから修行し直すつもりだ。」
ドウジは静かにそう言った。
キョウカは感情をあまり読めないドウジの顔を横から見つめていた。
言動からして真剣な表情なのだろうとキョウカは察する。
キョウカはふと思ったことがあった。
「あの、ごめんなさい・・・。」
「・・・なにがだ?」
突然謝罪するキョウカ。
当然ドウジは不思議がる。
「お忙しいのにとても面倒なことに巻き込んでしまって・・・。」
とても申し訳なさそうにキョウカが話す。
しかしドウジは表情を一切変えずに静かに言葉を返す。
「いや、まずは世界を守ることが最優先だ。 修行ならいつでもできる。」
「ドウジさん・・・。」
二人がそんな話をしていると、急に町の様子が変わった。
叫び声が遠くの方で聞こえてきたのだ。
「なんでしょう・・・?」
ドウジとキョウカは声のする方へ向かった。
場所は町の入り口近く。
ドウジとキョウカは変なモノを見ていた。
二人の目の映ったのは、バイクのようなモノに乗ったチンピラ集団だった。
全員が黒い上着を羽織り、色の付いた派手なズボンを履き、サングラスをかけている。
バイクのようなモノはマフラー部分から黒い煙を吐き出している。
「町の奴らに告げる。 大人しく金目のモノを渡せ! さもないと暴力を振るわせてもらう!!」
真ん中辺りにいるチンピラがメガホンのようなモノで訴えかける。
今にも突っ込んできそうな雰囲気を醸し出していた。
「ハッハー!!」
町の野次馬の中から声が聞こえてきた。
すると、人混みの中から小柄な少女が出てきた。
青い髪で、猫の耳が付いたフード付きのローブを纏まとって、やや長めの杖を持っている。
イェルコインだ。
背が小さいため、前に出てくるまで全く姿が見えなかった。
「"弱い犬ほどよく吠える"とは本当だなぁ!!」
「なんだとぉ!!?」
イェルコインの言葉にキレた数名のチンピラがイェルコインに向かって突撃しようとしてきた。
数体のバイクがイェルコインに向かってきている。
しかしイェルコインは全く動こうとしていない。
そのままイェルコインにバイクが衝突・・・、しなかった。
突撃してきたチンピラたちは「ナニカ」にぶつかり、跳ね返って宙を舞った。
イェルコインの前には巨大な半透明の壁が出来ていた。
チンピラたちはこの壁にぶつかったのだ。
隅でドウジとキョウカは一部始終を見ていた。
「イェルの悪いクセが出ちゃってる・・・。」
キョウカが心配そうに言葉を漏らす。
しかし当然やや遠くにいるイェルコインには言葉が聞こえていない。
チンピラたちはバイクから降りて徒歩でイェルコインに近付いた。
そして半透明の壁の前で立ち止まった。
「このぉー!!」
一人のチンピラがイェルコインを殴ろうと拳を振るったが、当然壁にぶつかる。
そのチンピラは殴った手を押さえて、痛がっていた。
頑丈な壁をぶん殴ることと同じなので、当然の結果だろう。
チンピラたちはお互いに話し合い始めた。
このままでは埒が明かないと考えたのだろう。
イェルコインは勝ち誇ったような表情をしていた。
そんなイェルコインを見て、キョウカは頭を押さえながらため息をついていた。
その時だった。
後ろの方から一体の影が近付いてきていた。
その人物はチンピラたちと似た服装だったが、明らかにもっと派手な服装だった。
乗っているバイクもかなり派手。
一番の違いは変な装飾品がついているヘルメットだろう。
「頭!!」
チンピラたちがそう言って、やってきた男のもとへ集まった。
どうやらチンピラたちのリーダーのようだ。
「オレ様の子分たちが世話になったようだな。」
腕を組みながらバイクのハンドルに足を乗せているチンピラリーダーが、顎を前に出しながらイェルコインを見ている。
完全に敵意を向けているようだ。
チンピラリーダーが「ヘッ!」と笑うと、急にバイクが変形し始めた。
変形している途中でチンピラリーダーは足の力のみで立ち上がり、バク宙をしながらバイクから降りた。
そして、まるで地面に突き刺さるかのように組んだままの脚で着地した。
「イッツ、ショーターイムッ!!」
チンピラリーダーは両腕を横に伸ばし、大声でそう叫んだ。
そしてバイクの変形が終わり、バイクは巨大な大砲に姿を変えた。
大きな砲身がイェルコインを狙っている。
大砲は謎の音を上げながら、砲身の中が光り輝く。
そして次の瞬間、チンピラリーダーはイェルコインを指でさした。
「吼えろぉぉぉー!!!」
チンピラリーダーの叫び声とともに大砲から光り輝く光線が放たれた。
その光線はイェルコインの方向へ光速で飛んでいき、イェルコインが作った半透明の壁に衝突した。
イェルコインは壁の強度を上げるために魔力を集中させている。
杖を持つ彼女の細い腕がプルプルと震えていることが分かる。
これはイェルコインの力不足ではなく、予想外の攻撃に対処が遅れたことで苦戦しているだけだ。
事前に準備さえしていれば、このくらいイェルコインには余裕だった。
しかし油断が彼女を危険にさらしているのだ。
チンピラリーダーは相変わらず足を組んだまま立っていて、腕を組んで見ている。
その周りには子分たちもいて、いつの間にか壁にぶつかって倒れていたチンピラたちも仲間のもとへ戻っていた。
この光景に恐れた町民たちは、すぐに避難を開始した。
皆、町の奥へと走って行った。
残ったのは隅で見ていたドウジとキョウカのみだった。
数秒後、とうとうイェルコインは壁を解除してしまい、衝撃で吹っ飛ばされた。
幸いなことに、光線は壁が消えるちょうどに切れ、イェルコインも町も光線を食らわなかった。
吹っ飛ばされたイェルコインは、その衝撃で被っていたフードが脱げる。
そして地面に背中から落ちた。
キョウカが急いでイェルコインのもとへ駆け寄った。
「イェル、しっかり!!」
吹っ飛んだだけとはいえ、イェルコインは怪我をしている。
しかしドウジはそれより気になったことがあった。
「・・・獣の耳?」
フードを取ったイェルコインの頭には、イヌの尖った耳のようなモノが付いていた。
フードにも獣の耳の形をしたモノが付いていたが、その下にも獣の耳があったのだ。
「イェルは "獣耳族" なのです。」
「獣耳族・・・?」
"獣耳族" 。
聞いたことのない言葉がドウジの耳に入る。
「説明は後でします。 まずは彼らを・・・。」
イェルコインを抱えようとしたキョウカがチンピラたちの方を向いたその時、今にも大砲から先程の光線が放たれようとしていた。
イェルコインは気絶していて半透明の壁は使えない。
避けるにしても逃げ場がなく、どうすることもできない。
そんな状況だった。
「吼えろぉぉぉー!!!」
先程と同じくチンピラリーダーが叫び声をあげた。
そして光線が発射される。
キョウカは抱えようとしていたイェルコインを庇うように抱きしめた。
やがて光線はキョウカたちのいる場所を通過するように発射されてしまった。
【登場キャラクター】
●「黄金龍討伐メンバー」
・天津道志
主人公(異世界転移者)。
身長約3メートルで筋骨隆々の男。
「強さ」にこだわっているが、優先すべきことはちゃんと理解している。
・キョウカ・アキノ
メインヒロイン。
人間の魔法使い。
イェルコインとは親友。
・イェルコイン・アレクサンドラ
獣耳族と呼ばれる種族の聖魔導師。
犬の耳が生えている。
キョウカの親友で、愛称は「イェル」。
キョウカがいないと調子に乗ることがあり、大抵酷い目に遭う。
●「チンピラ集団」
・チンピラたちのリーダー
チンピラたちの親分。
大砲に変形するバイクに乗る。
・チンピラたち
バイクに乗り暴れまわる迷惑な連中。