2.第1話「敗北と始まり」(2/5)
"男"より何百倍も大きいハズの龍が衝撃で吹っ飛ばされ、近くの山に墜落した。
山は大きな煙を発生させ、龍の頭は煙に包まれ見えなくなった。
"男"はというと、着地をした直後にいつでも次の攻撃に移れるように構えていた。
魔女はというと、遠くの崖上から二体の怪物の戦いをただ見ているしかなかった。
暫しの静寂が訪れたが、その静寂を龍の方が破った。
龍は勢いよく上空へ飛び上がり、すぐに自身を痛めつけた者を探した。
その者はすぐに見つかった。
なぜなら、逃げも隠れもしていなかったからだ。
龍は瞬時に"男"のいる場所へ自身の巨大な体を移動させた。
突進をするつもりだ。
龍の巨体が迫っても動かない"男"。
龍と"男"がそのまま衝突しそうだったが、その直前に"男"が避けた。
それによって龍は地面に激突・・・するかと思ったが、なんとそのまま地中に潜ったのだった。
龍の姿が消え、代わりに大きな穴が現れた。
"男"は静かにその場で動かず、遠くで観戦している魔女は龍の姿を探していた。
次の瞬間、"男"が勢いよく遠くへ跳んだ。
すると先程まで"男"が立っていた地面から、黄色く輝く光線が発射された。
どうやら龍が地中から光線を撃ってきたようだ。
光線によってできた穴から龍が姿を現した。
そして再び"男"を探すも、やはりすぐに見つかる。
"男"は龍の攻撃に備えて、構えている。
龍は再び光線を吐こうと息を吸い込み始める。
再び"男"は龍の方向に跳んだ。
数秒で龍に近付くが、龍を殴ろうとした瞬間に龍が口を閉じて回避を行った。
そして明後日の方向に飛んでいく無防備な"男"に目掛けて光線を放った。
光線は的確に"男"の方向へ発射され、直撃した。
極太の光線に包まれ"男"の姿は見えなくなった。
光線が消えると再び"男"が現れた。
身体が焦げて黒っぽくなり、そのまま地上に落下する。
地面に勢いよく激突し、動かない。
龍の攻撃は終わらない。
再び息を吸い込み始め、なんと今度は体が光り始めた。
光線を放つと同時に体から多数の電撃が放たれた。
全ての攻撃が倒れている"男"に直撃し、その場所から大きな煙が発生した。
煙が晴れるとそこにあったのは大型の穴だけだった。
"男"の姿はない。
龍は完全に勝ち誇ったような雰囲気を出している。
そのまま今度は近くの町の方を向くと、また息を吸い込み始めた。
そして町に向かって光線を放とうとする。
しかし光線は放たれなかった。
どうやら力を使い果たしたようだ。
龍は仕方なく、そのまま雷雲の中へ戻って行った。
龍が雷雲の中へ戻ると、しばらくして雷雲が大きく鳴った後に、そのまま晴れていった。
空は再び普通の夜空へと変わった。
危険が無くなったことを確認して、魔女は崖を下りていった。
そして先程まで"男"がいた場所へ近付いた。
大きな穴が空いており、"男"の姿は見えない。
魔女は穴の中を覗き込んだ。
しかし穴の中は暗くてなにも見えない。
かなり深く空いているようだ。
魔女はしばらく考え込むと「ナニカ」を思いつき、そのままその場を離れた。
とある町のとある家の中。
その家のベットの上で、一人の男が目を覚ました。
「・・・ここは。」
あの"男"だ。
龍との死闘の末に敗れ、死亡したかに思えた。
しかし生きていたようだ。
「だ、大丈夫ですか・・・?」
"男"の側には、先程の魔女がいた。
椅子に座って、看病をしてくれていたようだ。
「お前は、さっきの・・・。」
"男"はそのままベットから立ち上がろうとした。
「ダメです! まだ傷が癒えておりません!」
すると魔女が"男"を止めようと体を押さえつけようとした。
しかし体格や力の差で簡単に押し戻された。
「あの龍はどうした?」
まず"男"はそれを聞いてきた。
すると魔女は悲しげな表情に変わり、静かに口を開いた。
「力を使い果たし、一度姿を消しました・・・。」
その言葉を聞いて、立ち上がっていた"男"はベッドに座り込んだ。
"男"の体には布で出来た服のようなモノを着させられていた。
また、片目に巻いていた布が外され、無くなった片目が露出されている。
「あ、あの・・・。」
魔女が"男"に話しかけようとした。
しかし"男"は顔を動かさずに魔女に言葉を放った。
「すまない、しばらく一人にしてくれ・・・。」
魔女は"男"の事情を全く知らない。
"男"に元気がないことは察していたが、どうして元気がないのかは分かっていない。
しかし、魔女は「はい・・・。」と一言発してそのまま部屋を出て行った。
部屋の中は"男"だけになった。
"男"はまるで石像のように止まったまま動かなくなった。
そしてしばらくして一言だけ喋った。
「俺は弱い・・・。」
"男"がいる家のリビングらしき場所では、数人の人間が集まっていた。
その中には魔女もいる。
「しかし、このままナルキを倒せなかったら、この世界は破滅するかもしれないぞ。」
一人の男性が深刻な表情で話をしている。
他の人々はなにも言えず、ただ床を見ているだけだった。
すると、奥の部屋から一人の女性が出てきた。
「倒しますよ。 どんな手を使ったとしてもね。」
女性は青い髪で小柄な見た目をしている。
犬か猫の耳のようなモノが付いたフード付きのローブを纏って、やや長めの杖を持っている。
見た目からして「魔導師」であろう。
「ちょっとイェル・・・。」
「倒さなくちゃならないんだよ、キョウカ。」
魔女と魔導師は、どうやら仲間のようだ。
魔女は「キョウカ」と呼ばれ、魔導師は「イェル」と呼ばれていた。
「とりあえず、今はあの"男"に興味があるわ。」
そう言って魔導師は近くにある階段へ向かった。
"男"がいる部屋は二階なのだ。
魔導師が階段を上がり始めると、後ろから魔女が走ってきた。
「『一人にしてほしい』と言ってたから、今はダメだよ!」
「アタシには関係ない。」
魔女の制止を振り切って階段をどんどん上がる魔導師。
そして"男"がいる部屋に近付いた。
何度も魔女が止めようとするが、魔導師は一切歩みを止めなかった。
そしてそのまま"男"がいる部屋の扉を開き、中へ入った。
魔導師が部屋に入ってきたことに気付き、"男"は魔導師の方を見た。
二人の身長差は魔女のときよりある。
「なんだ?」
"男"は魔導師を見下ろしている。
魔導師も"男"を見上げている。
「オマエは誰なんだ?」
魔導師は率直に聞いた。
表情は冷静である。
「ちょ、ちょっとイェル!?」
魔女が慌てた様子で部屋に飛び込んできた。
しかし魔導師は無視して話を続けた。
「キョウカから話を聞いたところ、この世界の人間ではないようだが。」
そう言うと魔導師は二、三歩ほど近付いた。
そしてさらに見上げた。
「そもそも、人間なのか?」
魔導師と"男"は見つめ合っている。
良い意味でではないが。
すると魔女が、後ろから魔導師の口を塞ぎながら持ち上げて"男"から距離を開けた。
「ご、ごめんなさい! イェルは少々気が強くて・・・。」
魔女が慌てて"男"に謝罪をした。
すると"男"は片膝をついた。
そして二人を交互に見て、喋り出した。
「俺の名は "天津道志" 。 この世界の強者と戦うためにやってきた。」
そう"男"は静かに喋った。
天津道志・・・、それが"男"の名である。
「あと、人間だ。」
ドウジは付け足すように再び喋った。
魔導師は隙を見て魔女の手から抜け出し、再びドウジの近くへ移動した。
そして杖の先をドウジの顔に近付けた。
「単刀直入に言おう、アタシたちを手伝え!」
杖を向けられてもドウジは全く動じなかった。
魔導師の顔をゆっくりと見ているだけだった。
しばらくの沈黙が訪れ、次に聞こえたのは魔導師の声だった。
「痛っ!?」
魔女が魔導師の頭を自分の杖で叩いたのだった。
「イェル、失礼でしょ! それが人に物を言う態度?」
魔女は魔導師に対して説教をした。
そして魔導師を下がらせて今度は魔女の方がドウジに近付いた。
魔導師は頭を押さえて魔女の方を見る。
「申し訳ございません、イェルが失礼な態度を・・・。」
魔女は頭を下げて謝罪をする。
そして頭を上げると再び話し始めた。
「実はあの龍"ナルキ"は、放っておくと世界を滅ぼしてしまう可能性を秘めている怪物なのです。 一刻も早く討伐しなければならないのですが、戦力がとても足りずに困っておりまして・・・。」
魔女は俯いて、話を止めた。
そして顔を上げて再び口を開く。
「あの、ナルキを討伐するのを手伝ってくれませんか。」
魔女はドウジを見上げて真剣な表情でそう言い放った。
ドウジは黙ったまま彼女を片方しかない目で見ている。
「あのナルキを素手で殴り飛ばすほどの力を持ったあなたが加わってくだされば百人力だと思うのですよ。 どうか、お願いします!」
魔女は頭を下げた。
魔導師は魔女とドウジを交互に見ている。
ドウジは、やはり黙ったまま魔女を見ている。
しばらくしてドウジはベットから立ち上がった。
そして魔女の方を向き、口を開いた。
「わかった、手伝おう。」
ただ一言そう言った。
その言葉を聞いて二人はほぼ同時にドウジの方を見た。
「あ、ありがとうございます!!」
魔女は笑顔を見せた。
魔導師も前に出てきて、ドウジを見上げた。
「感謝する。」
魔導師も一言お礼を言った。
「私の名は "キョウカ・アキノ" 。 この子は "イェルコイン・アレクサンドラ" です。」
魔女が自己紹介をした。
ドウジ、キョウカ、イェルコイン。
黄金龍"ナルキ"の討伐メンバーが誕生した。