30.第4話「漆黒の巨人」(8/13)
ドウジたちが「巨人」と戦っている最中、キョウカたちの方にも動きはあった。
「私が代わります。」
キョウカは魔法で光の玉を作っていたボーグワンに話しかけた。
魔法に集中していたボーグワンもさすがに気付く。
するとボーグワンの返事を聞く前に、キョウカは呪文を唱え始めた。
呪文の詠唱を終えると、次の瞬間数多の光の玉が現れ、一気に洞窟内は明るくなった。
ボーグワンは驚きのあまり光の玉を維持することをやめてしまった。
すると、洞窟内がやや暗くなるハズだが、キョウカはすぐに光の玉を作り出す。
しかも特に辛くはなさそうだった。
これによって、魔法に関してはキョウカの方がボーグワンより格上だと言うことが判明してしまった。
一方で、イェルコインは念のため透明な壁を作って戦闘を行っていないメンバーを守っていた。
その中には未だに攻撃をしていないザイルダイトもいる。
「ねえ、あんたも戦えよ。」
イェルコインがザイルダイトに言う。
するとザイルダイトはズボンのポケットに手を突っ込む。
「うーむ・・・。 だが、もう俺が行く必要ないんじゃないかな?」
ザイルダイトは呑気にそう話す。
すると、当然ながらイェルコインは怒りを見せた。
「いい加減にして! 一体あんたは何のために『ここ』にいるのよ!?」
魔法を使っていなければ、今頃杖でザイルダイトを殴っていただろう。
そんな怒りを見せるイェルコイン。
だが、ザイルダイトは特に反応はしなかった。
キョウカに仕事をとられたボーグワンは、戦いに向かっていないグレゴリアスとシャルガナに近付く。
二人は複雑な表情で戦地を見つめていた。
「行かなくていいのか?」
ボーグワンは話しかける。
しかし二人はなにも答えなかった。
実はボーグワンも二人と同じ感情が芽生えていた。
「そうか・・・、あんたらも俺と同じか・・・。」
そう言いながらグレゴリアスの隣に並ぶ。
そして二人と同じように戦地を眺め出した。
三人は無言で立って、戦いを眺めているだけだった。
三人には戦意が完全に無かった。
なぜなら、三人は既に気付いていたからだ。
「あの戦場で立っている者たちは、自分たちとは格が違う」という真実に・・・。
ドウジ、ガイ、シグ、そしてゴブリン男による「巨人」への攻撃が続く。
そしてそこに雪女も加わっていた。
彼女は氷でできた翼で飛びながら、氷でできた剣を使って「巨人」を斬り裂く。
彼らの「巨人」への猛攻が続くが、当然黙ってやられる「巨人」ではなかった。
「巨人」は向かってくるドウジを思いっきり殴り飛ばした。
その殴り方にはまるで「怒り」の感情が込められているようだった。
先程とは違い、ドウジは透明な壁まで吹っ飛ばされ激突した。
そして地面に落下し、床に打ち付けられる。
すぐ近くにキョウカたちがおり、床に落ちたドウジに視線を向ける。
キョウカは今すぐにでも無事か確認したいところだったが、光の玉を維持させるためにその感情を押し殺していた。
しかしその代わり目から涙を流していた。
「巨人」の攻撃はまだ止まらない。
次に狙ったのはシグだった。
彼女は吹っ飛ばされたドウジの方を見てしまっていた。
よそ見ををしている彼女に、強烈な一撃を放った。
そして今度はシグが吹っ飛ばされ、ドウジと同じく透明な壁まで吹っ飛ばされた。
この状況を見て、ガイと雪女、そしてゴブリン男までもが撤退した。
さすがに「まずい」と感じたのだろう。
逃げる際にゴブリン男が舌打ちをする。
逃げようとする三人に殴って攻撃する「巨人」だったが、三人はそれぞれ全部の攻撃を回避した。
そしてキョウカたちの元まで辿り着く。
すぐにイェルコインは一度透明な壁を解除する。
そして逃げてきた三人と目の前で倒れている二人を守るため、少しだけ前に進んで再び透明な壁を作る。
これで「魔獣」以外の全員をイェルコインは守っていることになった。
「巨人」は激しく触手を透明な壁にぶつけてくる。
力は全く強くないが、無数の触手がぶつかってくる光景はとても恐ろしいモノである。
ドウジとシグも無事に起き上がっていた。
そして他の戦士たちと共に、怒り狂う「巨人」を眺めていた。
「こんなに攻撃しても倒せないなんて・・・。」
シグは困った表情を見せる。
あれから数十分もの間に数多くの攻撃を行った。
だが「巨人」はダメージこそ受けてはいるが、全く倒れる気配はしない。
「だけど奴は今『怒り』を見せているし、余裕がないことも確かだろう。」
ガイはそう推測する。
事実今まで「巨人」はどこか舐めた様子を見せていた。
しかし今の「巨人」は本気でこちらを潰しにかかろうとしているようだ。
ガイの予想が正しければ、あと少しかもしれない。
「もう一度、奴が怯めば・・・。」
ドウジは呟く。
「巨人」を眺めながら。
今、この場にいる戦士たちが全員「巨人」を眺めている。
「奴」との決着は、"次"で決まるかもしれない。
ほぼ全員がそう思っていた。
すると、ある男が喋り出した。
「もう一度、怯ませれば『奴』を倒せるのか?」
その人物とはザイルダイトだった。
ザイルダイトはポケットに手を突っ込みながら皆の方を向く。
そんなザイルダイトをほぼ全員が顔を向けた。
魔法に集中しているキョウカとイェルコインは目だけを向けている。
「できるのか・・・?」
ガイが聞く。
するとザイルダイトはポケットに突っ込んでいた右手を出して、指をさす。
「それは、こっちの台詞だぜ。」
ザイルダイトは指を愉快に動かす。
他の戦士たちを次々に指していく。
しばらくの沈黙の後、ドウジが前に出た。
「やってみせる。 どんな手を使ってもだ。」
右手で握り拳を作りながら、ハッキリとした声でそう宣言する。
白目を向いた瞳が、どことなく真っ直ぐしているように見えた。
ザイルダイトは腰に手を当ててしばらく黙っていたが、やがて歩き出す。
「オーケー、分かった。 だけど、あの気絶する技は使わないでくれよ。」
ザイルダイトは背を見せながらドウジに言った。
それを聞いてドウジは「え・・・?」とか言いそうな表情をする。
「あんた・・・、なにする気なの?」
イェルコインが魔法に集中しながら横目でザイルダイトを見ながら聞く。
するとザイルダイトは足を止め、「巨人」の方を向いた。
「チャンスは一度だけよ。 必ず仕留めるんだぞ。」
相変わらず軽い口調で話すザイルダイト。
彼は軽く準備運動をしていた。
戦士たちは互いに顔を見合わす。
今から「なに」が起こるか分からないからだ。
しかしすぐ準備を始めた。
「巨人」へ突撃する準備だ。
ほぼ全員がザイルダイトの言葉を信じた。
あのゴブリン男もだ。
戦意喪失したグレゴリアスたちや、傍観している黒い骸骨、魔法に集中しているキョウカとイェルコイン。
彼らを除いた全員が「巨人」を倒す気満々だった。
ザイルダイトは準備運動を終えて再び喋る。
「嬢ちゃん。 その防御魔法を解くタイミングは全部あんたに任せるわ。」
ザイルダイトはイェルコインに一言そう述べた。
当然イェルコインは「え!?」と驚く。
しかしすぐにザイルダイトは続けて声をかけた。
「大丈夫、嬢ちゃんなら分かるさ。 嬢ちゃんも立派な『戦士』なんだからさ。」
ザイルダイトはイェルコインに微笑む。
それを見て、やや頬を赤くするイェルコイン。
すると続けてザイルダイトは発言する。
「まあ、俺の活躍に見惚れてタイミングを逃しちまうかもな。」
ザイルダイトは笑いながら軽く二回ほどその場でジャンプした。
「大丈夫。 そんなことは絶対にないから。」
イェルコインはバッサリと言った。
しかし、どこか微笑んでいるようにも見えた。
ザイルダイトはその返事に「ヘヘッ」と笑った。
やがてザイルダイトの動きが止まる。
「んじゃ、ちょっくら行ってくるわ。 ちゃんとやってくれよ。」
一言皆にそう言いながら「巨人」の方を向く。
彼の視線は「巨人」のみを捉えていた。
「巨人」は触手をイェルコインが作っている見えない壁にぶつけることに集中している。
今がチャンスだった。
「・・・よし、ゴー!!」
その言葉と共にザイルダイトはイェルコインの壁の範囲外まで走って移動した。
そしてそのまま「巨人」目掛けて勢いよく走り出した。
当然、それに気付かない「巨人」ではなかった。
「巨人」は半分ほどの量の触手をザイルダイトの方へ向かわせた。
無数の触手がザイルダイトを襲う。
しかしザイルダイトは軽やかに触手を回避し、時にはロンダートやバク転、バク宙を駆使して触手を避ける。
まるで「サル」のような身軽さだった。
その光景を見ていた一部の戦士たちは、目を丸くしていた。
とても凄いモノを見ているように。
黒い骸骨も葉巻をふかしながら「・・・ほう。」と感心しているようだった。
触手を避け続けたザイルダイトはついに「巨人」の腕の近くまで近付いた。
すると「巨人」はさっそく腕を使ってザイルダイトを叩きのめそうとする。
大きな腕がザイルダイトに向かって飛ぶ。
するとザイルダイトは一瞬だけだが「待ってました。」と言いそうな表情をする。
そして次の瞬間、殴ってきた「巨人」の腕の上に乗った。
瞬時に腕の上を駆けるザイルダイト。
当然振り下ろそうとする「巨人」。
「巨人」が激しく腕を揺らし始める。
まるで人間が腕についた虫を振り払うかのように。
だがザイルダイトは事前にそうなることを知っていたかのような動きを見せた。
腕を揺らす直前にザイルダイトは思いっきり上空へ跳んだ。
そしてすぐに腰に付けていた「ナニカ」を「巨人」に向かって投げつけた。
するとその「ナニカ」は、開いていた「巨人」の口の中に入っていった。
巨人の舌の上に、その「ナニカ」が落ちた。
次の瞬間、「巨人」の口の中で大爆発が起こった。
巨人の口内は燃え始め、煙が沸いて出てきた。
そして当然ながら「巨人」は強烈な攻撃をくらったことで暴れ出す。
その時だった。
イェルコインは透明な壁を解除する。
そして後ろにいる戦士たちに向かって「ゴー!」と叫んだ。
イェルコインの叫びと共に、ついに戦士たちの「最後」の攻撃が始まったのだった。




