28.第4話「漆黒の巨人」(6/13)
「巨人」の右目に「剣」が刺さった。
それは"ガイの剣"だった。
あまりのダメージだったのか、「巨人」の触手が次々に動きを止める。
そしてザイルダイトを縛っていた触手も弱まり、締め付けが緩くなる。
それをチャンスだと思い、ザイルダイトは触手を引き剥がし始める。
グレゴリアスとシャルガナもザイルダイトを助けようとする。
しかしザイルダイトは二人に向かって言い放つ。
「待て、『ヤツ』が隙を見せまくってる今がチャンスだ!」
ザイルダイトは顎で「巨人」を指すような仕草を見せる。
それに釣られるようにグレゴリアスとシャルガナは「巨人」に顔を向けた。
「巨人」は怪鳥のような鳴き声を上げながら苦しんでいた。
そしてその光景は間違いなく「攻撃のチャンス」であり、いち早く気付いたゴブリン男は炎を纏わせた自身の剣で「巨人」の体を斬り裂く。
「巨人」の身体は想像より柔らかく、ゴブリン男の攻撃で斬られたところから漆黒の液体を撒き散らす。
「巨人」はさらに大声で鳴く。
どうやら「巨人」の血は身体と同じく「黒い」ようだ。
グレゴリアスとシャルガナはザイルダイトを見る。
すると彼は右手でサムズアップを作り、二人に向ける。
それを見て二人は3秒くらい黙り、やがて頷く。
彼らはザイルダイトのもとから離れ、「巨人」への攻撃に切り替えた。
それに続くようにシグと雪女も「巨人」の方へ走り出した。
イェルコインは遠くから「巨人」に攻撃する戦士たちと、戦士に攻撃されていて鳴き声を発する「巨人」の姿を眺めていた。
「ほう、案外大したことないんだな。」
すると後ろから黒い骸骨が現れた。
今まで攻撃には参加せず、遠くから見ていたのだ。
口元には火をつけた葉巻を咥えている。
「あんたは戦わないのか?」
イェルコインは不機嫌そうな顔で黒い骸骨を見る。
しかし黒い骸骨はイェルコインの方を向かずに喋り出す。
「それより、アイツらが『ヤツ』を相手にどう戦うのか見たかったのさ。」
黒い骸骨は笑いながら喋る。
その姿をイェルコインはあまり快く思わなかった。
するとさらに後ろから「ナニカ」が飛んできた。
兜だけの"ガイ"だった。
その姿はまるで生首が浮かんでいるようだった。
「ナイス、ガイ。」
イェルコインはやってきたガイに向かってサムズアップをした。
ガイは兜だけの状態でイェルコインに近付く。
「あの包帯の人が察してくれたから、予想以上に上手くいった。」
ガイの兜はザイルダイトの方を向いた。
ザイルダイトは既に触手を全て引き剥がしていた。
そして呑気にストレッチをしていた。
「隙を見て剣だけを飛ばすのに苦労したよ。」
イェルコインの近くで浮かぶガイの兜。
その兜をイェルコインは掴み、抱き寄せた。
そしてイェルコインは黙ってザイルダイトを見ていた。
「巨人」は次々に攻撃をくらう。
炎を纏わせた剣で斬り裂くゴブリン男。
武器の剣を銃に変形させ銃撃するグレゴリアス。
素早い剣撃を放つシャルガナ。
氷の翼で飛びながら氷の剣で斬る雪女。
そして持っているオノを力強く振り回すシグ。
それぞれが互いを邪魔しないように「巨人」を攻撃していた。
しかしずっと攻撃をくらい続ける「巨人」でもなかった。
「巨人」は再び触手を動かし出す。
空間には既に無数の触手が伸びており、動いただけでその場が危険地帯となる。
少し遅れて「巨人」の近くにいるほぼ全員がそれに気付く。
実はゴブリン男は少し早く気付いていたが、それでも彼は攻撃を止めようとはしなかった。
危険を察知して距離を空けようと撤退するほぼ全員。
しかし飛んでいる雪女はともかく、地に足をつけて走る連中にはかなり厳しい道であり、地上にいた三人はすぐに触手に捕まってしまった。
ゴブリン男は襲われる直前で攻撃をやめて回避に集中し出した。
「あっ、マズい!!」
遠くで見ていたイェルコインは捕まる三人の姿を見ることしかできなかった。
光の玉を浮かばせることに集中しているボーグワンも同様だ。
すると突然イェルコインの後ろから銃声が鳴り響く。
次の瞬間、「巨人」は再び怪鳥のような鳴き声を発した。
そして触手が動きを止め、捕まりそうになった三人が解放された。
なにが起こったのか分かっていない三人だったが、これをチャンスだと思いすぐにイェルコインたちがいる方向目掛けて走り出した。
雪女も氷の翼で飛びながら向かう。
気にせず再び攻撃を始めたゴブリン男を除いて。
イェルコインは銃声が聞こえた方を見た。
するとそこには、「巨人」に向かって銃口を向ける黒い骸骨の姿があった。
黒い骸骨の持つ銃の銃口から煙が上がっている。
発砲したのは黒い骸骨だったようだ。
つまり、数十メートルもある距離から「巨人」の目を狙撃したことになる。
「あ、あんた・・・。」
イェルコインはなにか言いたそうな顔をするが、結局言葉は出なかった。
黒い骸骨の攻撃で無事に戻ってくることができた四人。
「反撃が来ることは分かっていただろう。」
黒い骸骨は四人に向かって言う。
喋る際に咥えていた葉巻を一度手に持った。
「ごめんなさい。 せっかくのチャンスだと思ってつい・・・。」
シグは言い訳をしながらも素直に謝った。
他三人も反省しているようだ。
それを見て黒い骸骨は「フンッ」と鼻で笑い、再び葉巻を咥える。
すると今度は遠くにいるゴブリン男の方を向いた。
「おい、ゴブリン。 そこから離れたほうがいいぞ!」
洞穴の空間に黒い骸骨の言葉が響く。
ゴブリン男のところまで聞こえるほどに。
しかしゴブリン男は無視して攻撃を続ける。
ゴブリン男の炎を纏った剣が「巨人」を斬り裂き、「巨人」は怪鳥のような叫び声を上げる。
黒い骸骨は「やれやれ。」と葉巻を咥えながら呟く。
「『離れたほうがいい」って・・・?」
シグが後ろから黒い骸骨に聞く。
すると黒い骸骨は葉巻を手に持ち、喋り出す。
「まあ、見てれば分かるさ。」
黒い骸骨は笑いながら言う。
まるでゴブリン男を見捨てるような言い方で。
黒い骸骨の言う通り、どこか「巨人」の様子がおかしい。
ゴブリン男に攻撃を受け、怪鳥にような叫びを上げ続けている。
しかし、その声がだんだんと変わってきている。
甲高かった声が次第に低くなっていっている。
まるで"苦痛による叫び"から"「ナニカ」しようとしている唸り声"に変わったかのように。
すると「巨人」の腕を固めていた結晶のようなモノにヒビが入り始めた。
「巨人」は動かない腕を振るわせる。
まるで腕を"解放"しようとしているかのように。
「も、もしかして・・・。」
シャルガナは察した。
いや、この空間にいる全員が察した。
「巨人」がさらに強くなろうとしていることを・・・。
ゴブリン男もそのことは察していた。
しかしだからと言って攻撃を止める理由にはならなかった。
炎を纏わせた剣で斬りまくり、炎の剣撃を飛ばす。
「巨人」は攻撃に押されているようにも見える。
しかし同時に腕を固めている結晶のようなモノも、今にも壊れようとしていた。
そしてついに結晶のようなモノは砕け散り、「巨人」の大きな腕が解放された。
その腕の大きさは大体トラック一台半くらいだろう。
さっそく「巨人」はその腕を地面に向かって振り下ろした。
狙ったのは当然近くにいたゴブリン男。
ゴブリン男は素早く回避するが、振り下ろされた腕の衝撃により発生した風圧で吹き飛ばされた。
一度地面に強く身体を打つが、弾む身体を利用して二度目は地面に着地した。
するとゴブリン男を「巨人」の触手がすぐに捕らえようとする。
「ヤァー!」
だが、その触手を雪女が斬った。
雪でできた氷の翼をはばたかせ、次々に触手を斬り落とす。
そしてそれに続くかのように、シグ、グレゴリアス、シャルガナも触手を斬り落とし始めた。
腕が解放された「巨人」相手に近接戦闘は、もはや危険すぎる行為だ。
「巨人」は自身の周りに浮かんでいるボーグワンの光の玉を握り潰した。
当然その辺りは若干暗くなる。
「巨人」の手が届く範囲の光の玉が全部消滅するのは時間の問題だった。
空間の半分が暗くなり、「巨人」の姿が少しだけ見えなくなる。
その光景をボーグワンは見て、髪の無い額から汗を流す。
だがそれでも諦めず、再び光の玉を作り始めた。
イェルコイン、ガイ、そして黒い骸骨は「巨人」を眺める。
「巨人」は腕を組んでいる。
表情に変わりはないが、おそらく笑いながら見下していることだろう。
「こうなることを知っていたのか?」
イェルコインが黒い骸骨に問う。
すると黒い骸骨は笑いながら葉巻をふかす。
「むしろ、予想してなかったのか?」
葉巻を咥えながら喋る黒い骸骨。
彼の言葉を聞いて「ナニカ」を言いたそうにするイェルコイン。
すると、別のところから喋る声が聞こえてきた。
「予想はしてたさ。 願ってはいなかっただけ。」
喋っていたのは、少しの間だけ目立っていなかったザイルダイトだった。
彼は片手でナイフをお手玉のようにしながらイェルコインたちの方へ歩いてきた。
そして歩みを止めると、持っていたナイフを懐にしまった。
どうやら先程地面に刺していたのはナイフだったようだ。
だが、今彼らが立っている地面は結構固く、瞬時に刃物などを突き刺せるようなところではない。
「さてと、これからどうするかな。」
ザイルダイトは腰に手を当てながら「巨人」の方を見る。
言葉と違ってその声色はとても困っているような感じではなかった。
「なんで、そんなに楽観的なの・・・。」
イェルコインはザイルダイトを睨む。
その言葉を聞いてザイルダイトは「ん?」と言って彼女の方を一瞬だけ見る。
そして再び「巨人」の方を向く。
「ん~、まあ、このメンバーならなんとかなるだろう。」
ザイルダイトは「巨人」を見ながらそう答えた。
するとイェルコインはさらに不機嫌になる。
「なら、あんた何とかしなさいよ!」
見ているだけのザイルダイトにイェルコインは怒鳴る。
今にも杖で殴りそうな勢いで。
しかしザイルダイトは全く反応しない。
「・・・。」
めずらしく彼は無言だった。
表情もどことなく真剣な感じだった。
「なぁ、なんか聞こえねえか・・・?」
ふとザイルダイトはイェルコインに聞いた。
先程までのことで不機嫌なイェルコインだったが、素直に彼女も耳を澄ます。
「・・・なにか、近付いてくる。」
聴力が優れている獣耳族のイェルコインは、すぐに何の音か判別した。
そして彼女は音の方向である、洞穴の入口に行くことができる穴の方向を見た。
ザイルダイト、ガイ、黒い骸骨もそちらを向く。
穴から出てきたのは、なんとあのイノシシ姿の「魔獣」だった・・・。




