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1.第1話「敗北と始まり」(1/5)


 世界は広い。

 宇宙はさらに広い。

 だが、異世界はさらに果てしなく広い。


 そんな中、誰が一番強いかなんて分かるハズがない。

 いや、もしかしたら分かってしまってはいけないのかもしれない。


 少なくとも、「我々」には一生分からないことであろう。


 この物語は、そんな異世界の中では「弱者」と呼ばれるに相応しい "男" の物語。






 "男"はある丘の上に立っていた。

 天気は雨。

 雷雨で溢れかえった空を、"男"は眺めていた。


 上半身が裸の"男"は雨を身体で受け止める。

 髪の無い頭、片目を布で隠している顔、筋肉質の体、ボロボロのズボン、大きな足に雨が当たる。

 しかし"男"はただ黒い雲で隠されている「天」を(あお)いでいた。



 その時だった。

 黒雲(くろくも)から現れた雷が、"男"に降り(そそ)ぐ。

 "男"は雄叫(おたけ)びを上げながら雷の光の中に消えていった・・・。






 舞台は別の世界へと変わる。

 いわゆる「異世界」だ。


 山奥の森の中で一人の女性が野宿をしていた。

 その女性は、黒い服と黒い魔女帽子を被っている「魔女」のような格好をした女性だった。

 木片を燃やして、その上には鍋を丸太や棒で吊るしてスープを作っていた。

 そのスープを魔女は食べている最中であった。


 そんな中、この異世界にも落雷が起きた。

 雷は魔女がいる場所の近くに落ちたため、魔女は当然驚いて座っていた切り株から転げ落ちた。


 不思議なことに、落雷はその一度のみであった。

 立ち上がった魔女はそのことが気になり、足元に置いてあった杖を拾い、雷が落ちた場所を目指して木々の間を通って行く。


 森の中へ入ると周りはとても暗くて先が見えず、魔女が先程いた場所にある()き火の明るさで周りの木々が見えるくらいだった。

 魔女は持っていた杖を(かか)げると、呪文を唱え始めた。

 すると光の玉のようなモノが現れ、魔女の近くで浮かび始めた。

 それによって森の中がよく見えるようになった。



 落雷が起きた場所を目指し、森の中を進む魔女。

 しばらくして、ついに目的地へと着いた。


 落雷の影響で草木がやや燃えていた。

 しかし、それより先に目に入ったモノに魔女は気を取られていた。

 雷が落ちたと思われる地面の中央に、大きな人のような姿の「ナニカ」がいた。

 魔女は光の玉を消して、木の後ろに隠れながら「ナニカ」を見つめた。


 「ナニカ」は全く動かなかった。

 魔女は草木を利用しながらさらに近付いて、「ナニカ」の正体を知ろうとした。

 そして魔女の目に「ナニカ」の正体が映った。

 それは身長が約3メートルくらいある大男であった。

 そう、あの時に雷に打たれた"男"だった。



 "男"は前に映っている崖上からの景色を眺めていた。

 その景色は真っ暗だが、草木が豊かな広大な大地がかすかに映っていた。

 "男"は次に、景色から視線を外して真後ろを向いた。

 その方向は魔女が隠れている方向であった。


 魔女は草木の中に隠れて見つからないようにしている。

 すると、"男"は三歩だけ足を動かした。


「そこにいるのは分かっている。 出てこい。」


 "男"の低い声での言葉が、森の方に向かって発せられた。

 隠れていることがバレた魔女だったが、それでも姿を見せようとはせず伏せたままだった。


 すると、なんと"男"の方が近付いてきた。

 一歩一歩ゆっくりと魔女の方へ近付いていた。

 "男"の足音を聞きながら、魔女は恐怖を感じて汗だらけだった。

 そしてついに"男"との距離が1メートル近くしかなくなった。

 "男"は魔女がいる方向に手を伸ばそうとした。

 すると・・・。


「ま、待って・・・!」


 魔女の方が勢いよく姿を現した。

 伸ばされた"男"の手が、魔女の眼前にあった。

 魔女の頭を易々(やすやす)と掴めるくらいの大きさ。

 まるで野球のミットのようだった。


 "男"は手を引いた。

 そして魔女を見下ろしていた。

 片方しかない"男"の目は瞳孔(どうこう)がなく、真っ白であった。

 顔自体も、傷だらけでかなり不気味。

 そして背がかなり高い。

 魔女が言葉を無くすのも当然のことだった。


 しばらく沈黙が続き、やがて"男"が口を開く。


「ここは、どこだ。」


 それだけを言った。

 魔女は怯えながらも、ゆっくりと喋り出す。


「も、森の中ですが・・・。」


 この森には名前がない。

 なので、こう答えるしかなかった。


 "男"は魔女の言葉を聞くと、片方しかない目を(つぶ)った。

 そして数秒後に再び目を開き、喋り出した。


「質問が悪かったな。 ここは日本か?」


 "男"の言葉を聞いて、魔女は表情以外の動きを止めながら考え出した。

 なにか不思議そうな顔を見せていた。

 やがて口を開いた。


「に、日本ってなんですか・・・?」


 異世界には「日本」という国はない。

 彼女が知らなくて当然だ。


 魔女の言葉を聞いて、"男"は ニヤリ と笑った。

 その笑顔はかなり不気味で、魔女は恐怖を感じ、さらに汗をかく。

 "男"は魔女に背を向けて、再び崖上からの景色が見える場所へ戻った。

 そしてその景色に向かって大声で「ハッハッハッハッハッ」と笑いだした。


 魔女は目の前で起こっている謎の光景に、腰を抜かした。

 逃げるなら今というタイミングなのだが、足に力が入らない。



 すると、曇った夜空が爆音と共に突然光った。

 かと思えば、そのまま光が消えた。

 ただの雷雲であった。


「し、しまった・・・!」


 しかし魔女は上空を見上げて声を荒げた。

 その声に"男"は反応する。

 そして彼女の方を向いた後に、上空を見上げた。


 雷雲の音が再び鳴り響く。

 光を一瞬だけ発したかと思えば、消える

 そしてしばらくしてまた光る。

 その繰り返し。



 雷雲の音がさらに激しくなったかと思えば、雷雲の中からゆっくりと「ナニカ」が現れた。

 それはまるで巨大な「黄金の龍」のような姿をした生物だった。


「なんだ、あれは・・・。」

「黄金龍"ナルキ" です。」


 いつの間にか立ち上がっていた魔女が後ろから歩いてきた。

 そして"男"の隣に立ち、龍に杖の先を向けながら言った。


「私はあの龍を倒すためにここに来ました。」


 そう言うと杖を地面に突き刺した。


「離れてください。」


 魔女は"男"に対してそう言うと、目を(つぶ)った。

 "男"は忠告通りに魔女から離れて、ただ眺めていた。


「大いなる宇宙(そら)の落とし子よ、愚なるモノたちに終焉を!」


 魔女は突然「ナニカ」を言い始めた。


 しばらくして魔女の上空に巨大な魔法陣が現れた。

 そして、その魔法陣から岩のようなモノが出てきた。

 いや、岩ではなく「隕石」のようだ。

 その隕石を"男"は顔色一つ変えずに眺めていた。


 隕石が魔法陣から半分くらい現れたところで、魔女が大声で言葉を発した。


「メテオストリーム!!」


 その言葉と同時に隕石が勢いよく龍目掛けて発射される。

 そして魔法陣から次々と隕石が現れ、龍目掛けて飛んでいった。


 大量の隕石は次々と龍に衝突し、隕石が衝撃で粉々になることで龍が煙に包まれた。

 その煙の中を次々と隕石が入っていく。


 魔女が隕石を全弾発射し終えた頃には、空中を大型の煙が包んでいた。


「はぁ・・・はぁ・・・。」


 魔女は息を切らしていた。

 先程の魔法を放つのに結構な魔力を使ったようだ。


 "男"は疲れている彼女を見た後に、龍がいた方向を向いた。

 龍がいた場所には煙が待っている。

 龍は煙の中から姿を現そうとはしない。


 倒されたのなら地上に落下をするハズであろう。

 しかしまだ空中にいる。



 その時だった。

 "男"が急に片腕で魔女を掴んだ。


「わっ、えっ!?」


 魔女は当然なにが起きたのか理解できていなかった。


 "男"は魔女を抱えたまま後方へ跳んだ。

 その距離は数メートルもの大きなモノであったが・・・。


 "男"がいきなり跳んだことで、魔女が被っていた帽子が頭から離れて地面に落ちた。


「あ、あの・・・、一体なにを・・・。」


 魔女がそう言って訳を聞こうとする。

 しかしその時だった。


 煙の中から黄色い光線が発射された。

 光線は先程まで二人が立っていた場所へ命中した。

 崖上は完全に削られ、煙と共に消滅してしまった。



 龍は倒されていなかった。

 それどころか、"男"の助けがなければ魔女の方が逆に死んでいただろう。


「倒せてなかった・・・。」


 "男"に抱えられながら魔女は肩を落とした。


 "男"は龍を見つめる。

 自分の数百倍もあるであろう龍を。


 "男"は魔女を放すと、前へ歩み出した。

 そして地面に落ちていた魔女の帽子を拾って、魔女の方へ投げ渡した。


「あ、あの、なにを・・・?」


 魔女の問いに答えず、"男"は再び龍の方を向いた。

 空中でグルグルと回る龍は、いつでも二人を襲う準備が出来ていた。


 "男"は静かにジッと龍を見ている。

 龍は宙を舞っており、止まる気配がない。

 しかし"男"は全く動かずジッとしている。


 魔女は腰を抜かしながら、投げ渡された帽子を被った。

 そして静かに目の前の光景を眺めていた。

 彼女は、今から「ナニカ」が起ころうとしていることをなんとなく察していた。



 しばらくして龍が動きを止めた。

 そして再び光線を吐こうとしている。

 狙いは近くの町だった。


 龍は光線を吐くために息を吸い込み始めた。

 その時だった。


 今まで動こうとはしなかった"男"がついに動いた。

 龍がいる方へ走ったかと思えば、崖から飛び出したのだった。

 魔女は思わず届くハズのない手を伸ばしたが、次に目に映ったのは衝撃的な光景であった。


 なんと"男"は崖から飛び出したかと思えば、そのまま空を飛びながら龍目掛けて飛んでいったのだ。

 まるで先程の隕石のように。


 "男"はあっという間に龍の近くまで接近し、龍の首元に強烈な右ストレートを放った。

 次の瞬間、"男"より何百倍も大きいハズの龍が衝撃で吹っ飛ばされたのだ。


 龍はそのまま頭から近くの山に墜落した。

 "男"の方はそのまま真下に落下し、地面に着地した。


 一部始終を見ていた魔女は、まるで夢でも見ているかのように口を開けながら固まっていたのだった。






 未来の魔女は、後にこの時のことをこう語る。


「これが、私とドウジさんの、運命の出会いだったのです。」







【登場キャラクター】

・"男"

挿絵(By みてみん)

本作の主人公で、異世界転移者。

身長約3メートルの筋骨隆々の大男。

人間離れした身体能力を持つ。

自ら異世界へ転移してきた。


・魔女

挿絵(By みてみん)

本作のメインヒロイン。

全体的に黒い服装の魔法使い。

黄金龍を倒すために待機していた。



【登場怪物】

・黄金龍ナルキ

巨大な黄金の龍。

雷を操る。




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