26.第4話「漆黒の巨人」(4/13)
時間を少し戻す。
ドウジが「魔獣」を倒して数十分後・・・。
キョウカは未だに目を覚さないドウジの頭を膝に乗せて地面に座って見守っている。
イェルコインとシグはその辺の地面に座り、休んでいた。
包帯男は木に寄りかかって周りを見回しており、ガイは辺りを警戒している。
そして、近くには倒れた「魔獣」を放置していた。
最初は皆、念のため攻撃を加えようとしたが、包帯男の考えで触らないでおくことになった。
ドウジが気絶している今、戦力は結構ダウンしている。
もし「魔獣」を起こしたりしたら、今度こそ全滅する恐れがあるだろう。
木の寄りかかっている包帯男は、気絶しているドウジを眺めている。
そしてその下にあるキョウカの、パツパツした黒いズボンに包まれた膝も眺めている。
「羨ましいぜ。 まあ、今回のMVPはアイツだから仕方ねえか。」
腕を組みながら独り言を言う包帯男。
その姿にキョウカたちは反応し、彼の方を見る。
しかし「何のこと」か理解できていなかった。
イェルコインを除いて。
イェルコインは立ち上がり、包帯男に近付く。
「あんた、何者なの?」
突然の質問だった。
いや、今更だろうか。
包帯男はイェルコインの方を向く。
彼女の身長が低いため、見下ろす感じになってしまう。
「皆のヒーローさ。」
右手でVサインを作ってそう答えた。
しかし当然イェルコインは不機嫌になる。
「ふざけないで!」
持っていた杖を掲げて今にも殴りそうになっていた。
思わずキョウカが「イェル!」と叫ぶが、イェルコインは気にせず杖を振り下ろした。
しかし包帯男はその攻撃を少しだけ体を傾けて避けた。
そして次の瞬間、イェルコインの脇の下に手を伸ばし彼女を持ち上げた。
そのまま子犬を腕に抱えるように、彼女も抱えた。
包帯男はイェルコインの顔を見る。
「"ザイルダイト・ヴァンスレイヴ"。 それが俺の名前。」
包帯男はついに名前を明かした。
先程の一連の流れに呆気に取られ、思わず持っていた杖を地面に落としてしまったイェルコイン。
そして彼、ザイルダイトの顔が結構近くにあったことで顔を赤くしていた。
しかしすぐに正気に戻り、「降ろせー!」と叫びながら暴れるイェルコイン。
ザイルダイトの顔を ペチペチ と叩くが、全く効いてなさそうだった。
ザイルダイトはイェルコインをゆっくりと地面に降ろす。
彼女が地に足をつけたことを確認し、手を離した。
イェルコインは頬を膨らませながらザイルダイトを睨む。
だがザイルダイトはその姿を可愛く思っていた。
思わず撫でたくなるが、我慢した。
イェルコインの話は終わってない。
「そもそもあんた、さっき戦ってなかったじゃない! それでヒーローを名乗る気?」
ザイルダイトを責めるイェルコイン。
ちなみに戦っていないのはイェルコインも同じだが、彼女は「ヒロイン」を名乗っていないのでセーフ。
ザイルダイトは再び腕を組み直す。
「俺は『慎重』だからね。」
そしてそう一言述べた。
しかしイェルコインは納得できていなかった。
「慎重」なことは良いが、結局最後まで戦おうとしなかったからだ。
彼女がここまで彼を責めるのには理由がある。
それは彼女が「自分から戦えない」からだ。
仲間を守ったり、敵の攻撃を防いだりすることしかできないからだ。
「もう、いいわ・・・。」
イェルコインは怒りを抑えた。
そしてドウジとキョウカの近くに移動して、その場に座った。
そんな彼女をザイルダイトはボーっと眺めていた。
そして時間は進んだ。
しかしドウジは起きそうになかった。
「ドウジさん・・・。」
キョウカは心配そうに彼の名を呟く。
そして優しく彼の頭を撫でた。
その時だった。
やや遠くの木々の間から音が聞こえてきた。
その音は金属の音のようだった。
当然、全員が警戒をする。
イェルコインとガイとシグが、キョウカと気絶しているドウジを守るように前に出る。
ザイルダイトは相変わらず木に寄りかかっていた。
数秒後、木々の間から現れた。
その男は黒い骸骨のマスクを被っていた。
そう、「彼」だ。
「アンタは、『魔獣討伐』に参加していた・・・。」
シグは覚えていた。
「デマスナ」で集まっていたときに彼がいたことを。
黒い骸骨は無言のまま数歩前に出た。
イェルコインたちはさらに警戒する。
すると黒い骸骨は近くで倒れている「魔獣」に顔を向けた。
そのまま数秒間止まったかと思うと、急に「ンッフッフッフッフッ」と不気味な笑い声をあげた。
そして再び前にいる三人の方を向く。
「『魔獣』を倒すか・・・。 これは想定外。」
黒い骸骨のマスクの奥で、赤い瞳が光る。
その瞳で三人を見ている。
「なにが目的だ?」
ガイが今にも攻撃を開始しそうな体勢をとりながら聞く。
シグもいつでも戦える構えをとっている。
だが黒い骸骨は武器は取らず、話し始めた。
「この山は、救われていない。」
一言そう述べた。
その言葉を聞いて、この場にいるドウジと黒い骸骨以外の全員が頭にハテナを浮かべた。
しかし気にせず、黒い骸骨は話し続ける。
「『世界平和』を願うならば、ついて来い・・・。」
そう言って、背を向けた。
そして出てきた木々の間に再び入って行った。
歩くたびに金属音を響かせながら。
残された者たちは固まっていた。
「何だったんだ・・・?」
ガイは体勢を戻す。
シグも同様に。
三人は黒い骸骨の言葉をあまり理解していなかった。
だが、後ろで座っているキョウカが喋り始めた。
「この山にはこの『魔獣』意外にも、恐ろしい『怪物』がいる・・・、ということですかね。」
キョウカは先程の言葉の意味を解読した。
その言葉に三人は互いに顔を見合わせる。
すると今まで黙っていたザイルダイトが動き出した。
「なるほどねぇ〜。」
そう一言。
ズボンのポケットに手を突っ込んで、歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
イェルコインがザイルダイトを止めた。
ザイルダイトは彼女の命令に従って足を止める。
「あなた、どこに行くのよ。」
イェルコインはザイルダイトに近付きながら質問をする。
するとザイルダイトは数秒ほど黙った後、答えを言う。
「ちょっくら、山を救いに。」
ザイルダイトはイェルコインの方を向きながら言う。
相変わらずポケットに手を突っ込んだまま。
「アイツの言うことを信用するわけ!?」
イェルコインは、あの黒い骸骨を信用していない。
実際かなり奇妙な見た目をしており、危険な雰囲気を感じさせるので当然だろう。
するとザイルダイトは再び黒い骸骨が向かった方向を向いて喋り出した。
「回りくどく意味深なことを言う奴は、結構信用できたりするんだぜ。」
変な結論を言うザイルダイト。
そして彼は黒い骸骨を追って木々の中へ姿を消した。
残った者たちは互いの顔を見合わせている。
「ど、どうするよ。」
ガイがイェルコインとシグを交互に見る。
しかし二人もどうすればいいか悩んでいた。
「・・・行きましょう。」
突然キョウカが三人に声をかけてきた。
三人は後ろにいるキョウカの姿を確認する。
地面に座り、倒れているドウジの頭を膝の上に乗せて看病している。
「彼の話が本当なら、行くしかありません。 イェル、代わってください。」
キョウカはドウジの頭に優しく手を置く。
それを見てイェルコインはしばらく考え込み、やがて口を開く。
「いや、キョウカはドウジと一緒にいてやれ。 私たち三人で行くよ。」
イェルコインは近くにいたガイの甲冑を コンコン と指で叩く。
良い金属音がした。
イェルコインの言葉を聞いてガイとシグも頷く。
三人は既に覚悟を決めていた。
「ドウジを頼んだ。」
ガイがそう一言告げて、それを合図に三人はザイルダイトの跡を追うように木々の中を走って行った。
この場に残ったのはキョウカと気絶しているドウジ。
そして近くで倒れている「魔獣」だけとなった。
キョウカは未だ目を覚さないドウジの頭を優しく撫でる。
木々の中を走り続けるイェルコインとガイ、そしてシグ。
ただイェルコインの足が遅いので、二人はそれに合わしている。
その事実にイェルコインは気付いていない。
というか、走るのに夢中で余裕がない。
やがて先に進んでいたザイルダイトに追いつく。
「おお、やっと来たか。」
ザイルダイトは呑気にそう言うと、イェルコインの隣に移動する。
身長差があり、見下ろすようにイェルコインを見る。
「『やっと』・・・? 来ることが分かっていたような物言いだな。」
「ああ、分かっていたさ。」
イェルコインの疑問に速攻で答えるザイルダイト。
ついでにイェルコインの頭を撫でる。
当然イェルコインはザイルダイトの撫でる腕を振り払う。
するとイェルコインが被っていたフードは脱げて中の顔や獣耳が露わになる。
ザイルダイトは露わになったイェルコインの獣耳を見て、ふと思った。
「そういや、『獣耳族』は聴力が優れてるんだよな。」
「・・・そうだけど。」
ザイルダイトの突然の質問に、若干不機嫌そうに答えるイェルコイン。
しかし次の瞬間、ザイルダイトはイェルコインの獣耳に指を突っ込み、指を動かす。
「ひゃわん!!?」
イェルコインは可愛らしい声を上げて、思わず歩みを止めた。
それを見てザイルダイトは指を抜いて笑いながらイェルコインを見る。
「感度良好!!」
大声でそう叫んだ。
当然イェルコインは持っていた杖でザイルダイトを思いっきりぶん殴った。
ザイルダイトは「アウチ!」という声を上げる。
「なにすんの!?」
イェルコインは顔を真っ赤にして怒っている。
しかしザイルダイトはニヤニヤしながら後ろ歩きをしながらイェルコインを見る。
「いや、ちょっち閃いただけ。」
ザイルダイトは後ろ向きで歩きながらイェルコインをからかっている。
当然イェルコインは怒っている。
すると、彼女は「あること」を閃いた。
「そういや、あんた『獣尾族』だったわね。」
イェルコインは若干ニヤける。
どうやらザイルダイトの獣の尻尾を掴んで同じ思いをさせようとしているようだ。
「おっと、逃げよう。」
だがザイルダイトはすぐに察し、前を向いて逃げるように走り出した。
当然イェルコインも「待て!」と言って追いかけるために走り出した。
置いてかれたガイとシグは互い顔を見合わす。
そして苦笑いを浮かべた。
もっとも、幽霊であるガイには笑顔を見せる顔はないが。




