25.第4話「漆黒の巨人」(3/13)
多数の触手に捕まった雪女は「巨人」の真上に連れてかれた。
そして「巨人」は真上を向いてクチバシのような口を開き、雪女に巻きついていた触手を放した。
氷の翼を折られた雪女は飛べることができず、そのまま「巨人」の口の中に落下しようとしていた。
その時だった。
ゴブリン男が隙を見て、「巨人」の顔目掛けて炎の斬撃を飛ばしたのだ。
「巨人」は衝撃で思わず頭を真横に倒したのだ。
それによって雪女は「巨人」の頬に落下して、そのまま滑り落ちた。
しかし「巨人」の顔から地面まで結構な高さがあり、まず怯んでしまうことは間違い無いだろう。
そこを再び捕まってしまう恐れがある。
だが、そうはならなかった。
なぜなら落下してきた雪女をゴブリン男がキャッチしたからだ。
「あっ・・・。」
意外なことを見て、雪女は驚きが隠せていなかった。
なぜならゴブリン男にお姫様抱っこをされているからだ。
しかしゴブリン男はなにも言わず、雪女を抱えたまま後ろにいる三人のところへ運ぶ。
先程の一撃で「巨人」は怯んだため、触手の動きも止まっていた。
そのため、グレゴリアスたちは無事だった。
そして三人の元へゴブリン男が着くと、雪女を地面に降ろして彼女を睨んだ。
「一体何のつもりだ?」
どうやらゴブリン男は戦いの邪魔をされたことに怒っているようだ。
「ボーグワンの体力がそろそろ限界だ。 暗闇で戦うハメになるから一度撤退しよう。」
床で尻餅をついている雪女の代わりに説明するグレゴリアス。
するとゴブリン男は今度はグレゴリアスを睨んだ。
「お前らだけでやれ。 俺の邪魔をするな。」
ゴブリン男はそういうと左手に持っていた盾に刺してあった剣を抜く。
そして剣に炎を纏わせ、再び「巨人」のもとへ行く。
次々に来る触手を斬り落としながら接近をして行った。
「ま、待って・・・!」
雪女はゴブリン男を呼び止めようとするが、時すでに遅し。
その声はゴブリン男には届かず、届いたとしても無視されるだろう。
グレゴリアスはボーグワンを見る。
辛そうな表情をしており、そろそろ限界が近いことを察する。
「仕方ない。 彼を置いて俺らだけでも撤退しよう。」
その言葉を聞いて女剣士は頷いた。
彼女はボーグワンを引っ張りながら出口へ向かおうとする。
ボーグワンは光の玉を消さないように現在進行形で集中していた。
グレゴリアスは地面に尻餅をついている雪女を抱えた。
雪女の体はとても冷たく、グレゴリアスは少し辛そうだった。
しかしそんなことは気にせず、出口へ向かって走り出した。
「ちょ、ちょっと待って・・・!」
雪女は「ナニカ」を言おうとするが、それはグレゴリアスには分かっていた。
彼女はゴブリン男が心配なのだろう。
しかしグレゴリアスは彼女を助けるために出口へ向かう。
後ろから「巨人」の触手が追ってきていた。
しかしグレゴリアスは一切振り向こうとはせず、出口へ一直線に走っていた。
やがて外の明かりが近付く。
無事に外へ出てこられた四人。
外までには触手は追ってこないようだ。
時刻はすっかり夕方になっていた。
空は赤くなっており、周りが薄暗くなっている。
ただ山の中なので夕陽は見えない。
ボーグワンは魔法を解除したことにより、一気に疲れが出たことでその場に倒れ込んだ。
顔から流している血を持っていた布で拭き取り、傷口を抑えた。
そして彼がこのような状態なのだから、おそらく現在洞窟の中は再び"漆黒の闇"と化しているだろう。
雪女が纏っていた氷の装備は溶けて無くなっていた。
そこにいるのは白い服を着て腕より長い袖をぶら下げた、元の姿の雪女だった。
彼女の顔は普段の不気味な笑顔ではなく、明らかに元気をなくしている顔だった。
戦いの疲れか、もしくはゴブリン男への心配か。
それか両方か。
グレゴリアスは地面で胡座をかきながら、剣のメンテナンスを行なっていた。
グレゴリアスの剣は銃にもなる。
そして銃には弾が必要。
その弾の補充をしていた。
そんなグレゴリアスのもとへ女剣士がやってきた。
そして女剣士は隣に座って喋りかけた。
「あのさ・・・。」
女剣士が自身に喋りかけていることに気付いたグレゴリアスは、彼女の方に首を向ける。
すると彼女はグレゴリアスの顔は見ず、違う方向を向きながら話し続ける。
「あ、ありがとう・・・。 最初に捕まったときに、助けてくれて・・・。」
女剣士は照れくさそうに言う。
グレゴリアスはしばらく彼女を見ていたが、やがて鼻で笑い、視線を剣の方に戻した。
「こちらこそ、ありがとな。 助けてくれて。」
グレゴリアスは素直にお礼を言う。
それを聞いて女剣士は人知れず笑みを浮かべた。
すると、今度はグレゴリアスの方が喋りかけてきた。
「あの二人にもお礼を言っておけよ。」
グレゴリアスは剣を布で拭きながら、女剣士に言う。
女剣士は二人を見た後、「ええ。」と返事をした。
「ちなみに俺は既に言ったぞ。」
念のためそう言うグレゴリアス。
それを聞いて女剣士は少しだけ微笑み、立ち上がった。
そして二人にお礼を言おうとする。
その時だった。
「私の名は"シャルガナ"。」
女剣士のその言葉にグレゴリアスはやや驚いた顔をして彼女を見た。
彼女は背を向けた状態で、顔をこちらへ向けていた。
「"シャルガナ・サイリス" よ。」
シャルガナと名乗った女剣士はそう言ってグレゴリアスから離れていった。
その後ろ姿を見て、グレゴリアスは思わず笑顔を見せた。
しばらくして、洞窟の中から「ナニカ」が飛び出てきた。
そのまま地面にぶつかり、短距離を転がっていった。
その「ナニカ」は、ゴブリン男だった。
「あっ!」
いち早く反応したのは雪女だった。
彼女はずっとゴブリン男の心配をしていたからだ。
雪女は倒れているゴブリン男に駆け寄る。
近くまで行くと膝をついて、仰向けで倒れているゴブリン男をゆすった。
するとゴブリン男はゆっくり瞼を開く。
白目が黒く、黒目が赤い鋭い瞳を見せた。
ゴブリン男が身につけている帽子やマントはボロボロになっており、顔から血を流している。
緑色の皮膚が赤くなっていた。
だが、ゴブリン男は腕を震わせながら地面に手を置き、ゆっくりと上半身を起こした。
その際に「ゴフォ!!」という大きな咳をした。
しかしすぐにでも立とうとするために、震える体を無理矢理にでも起こそうとする。
「動いちゃダメぇ!」
そしてそれを止める雪女。
長い袖に隠れている腕でゴブリン男の体を抑える。
だがゴブリン男に振り払われる。
「邪魔・・・、するなぁ・・・!」
ゴブリン男は凄い声で言い放つ。
身体に受けたダメージが酷いのか、声までがボロボロだった。
彼の瞳は普段よりさらに鋭く凄まじい威圧感を感じさせるほどだった。
ボロボロの体で無理矢理立ち上がるゴブリン男。
脚がフラフラしているのは見て分かるほどだった。
そしてゆっくりと前に一歩踏み出した。
一歩踏み出しただけでかなりの疲労感を感じさせるゴブリン男。
彼は今、歩くのもやっとなのだろう。
そんな彼を放っておく雪女ではなかった。
彼女はゴブリン男の脚にしがみついた。
ゴブリン男は止めようとする彼女を鬱陶しく感じていた。
だが彼女が行なったのはまた違った行動だった。
雪女はなんと抱きしめているゴブリン男の両脚を氷漬けにした。
よく見ると袖をまくっており、素手で触っている。
「なっ、お前!?」
当然ゴブリン男は驚愕する。
そしてそのまま後方に倒れた。
両脚が凍っており、腕の力が凄くないと一人で立つことはほぼ不可能だろう。
「悪く思わないで。」
彼女は普段とは違い、真面目な口調で言う。
だがそんな雪女を睨むゴブリン男。
しかしなにも言おうとはしなかった。
するとゴブリン男は握っていた剣を地面に落とし、自身の凍りついた脚に手を触れる。
次の瞬間、ゴブリン男の脚が一瞬だけ燃えた。
ゴブリン男は剣の刃に炎を纏わして戦う魔法剣士。
氷を溶かすことは朝飯前だ。
ゴブリン男の脚の氷は溶けて、動かせるようになっていた。
すぐにゆっくりと両腕両脚を動かしながら立ち上がる。
そして歩こうとする。
だが、一歩前に歩んだ瞬間、ゴブリン男は前方に倒れた。
「あっ!」
雪女はすぐにゴブリン男に近付いて安否を確認する。
「その身体じゃ無理だって。 少し休まねえと。」
気がつくと、グレゴリアスとシャルガナも近付いて来ていた。
ボーグワンはまだ気分が悪そうで休憩している。
ゴブリン男はなんとか立ち上がろうと体を震わせている。
しかし身体が言うことを聞かないのか、全然動かない。
雪女は心配そうに見守り、他二人も見ている。
すると、遠くの木々の中から何者かが近付いてくる音が聞こえてきた。
ここにいる五人全員が音がする方向を向く。
その音は、まるで金属のような音だった。
やがて音の正体が姿を現した。
それは先程、ゴブリン男と戦った「黒い骸骨」だった。
「き、貴様・・・!」
ゴブリン男はボロボロな声で反応する。
雪女も「あっ!」と声を出す。
そして他の三人は一体何者なのか分かっていなかった。
ボロボロの姿になったゴブリン男を見て、黒い骸骨は「ンッフッフッフッフッ」と不気味に笑い、距離を詰めてきた。
そしてヤンキー座りの姿勢でしゃがみ、倒れているゴブリン男を見下ろす。
「その様子じゃ、どうやら「ヤツ」に会ったようだな。」
黒い骸骨はマスクの奥で光る赤い瞳でゴブリン男を見ている。
そしてゴブリン男も赤い瞳で黒い骸骨を睨む。
「何のようだ・・・?」
ゴブリン男はボロボロになりながらも黒い骸骨を威圧するように喋る。
だが、黒い骸骨には全く通用していない。
立ち上がり、質問の答えを話し出した。
「良い知らせだ。 援軍が到着した。」
そう一言述べた。
黒い骸骨の言葉と共に、彼の後ろにある木々の間から ぞろぞろ と「援軍」が現れた。
白い聖魔導士。
重装甲冑。
筋肉質なダークエルフ。
顔に包帯を巻いた男。
そう、彼らだった・・・。




