22.第3話「異種族の戦士たち」(11/11)
包帯男はイェルコインを担いで「魔獣」の攻撃を回避した。
「とんでもねえ破壊力だ。」
木々を破壊しながら進んでいく「魔獣」の姿を見て包帯男は笑いながら言う。
相変わらず軽い口調だった。
「あ、あの・・・。」
包帯男に抱えられているイェルコインが「ナニカ」を言おうとする。
しかし包帯男はイェルコインの口に人差し指を当てて塞いだ。
「礼の言葉は、戦いが終わってから全部纏めて受け取らせてもらうぜ。」
包帯男は言い終えると、抱えていたイェルコインを降ろして地面に立たせる。
するとバラバラになっていた皆がイェルコインのもとに集まってきた。
「あなたは・・・!」
キョウカが包帯男を見て驚くが、同じくキョウカを見た包帯男は自身の服の襟を正すと変なポーズをし出した。
「おお、また会いましたね! お会いできて光栄です。」
包帯男は明らかに良い声を作ってキョウカに挨拶をする。
それを見てイェルコインは呆れたような表情を見せる。
「「魔獣」をここまで連れてくるのに手伝ってくれたんだ。」
そしてドウジは先ほどのことを皆に伝えた。
他の皆はまず視線をドウジに向け、ドウジが話し終えると包帯男を見た。
「まあ、成り行きと言うヤツっすよ。 気にしなくていい。」
包帯男は皆から「何故」という質問を受ける前に答えを言った。
「それより、そろそろ戻ってくるぞ。」
すると今度は「魔獣」が突っ込んで行った方向を向き、そちらを指す。
皆がその方向を向くと、確かに「魔獣」がこちらに向かって来ていた。
皆はまたすぐに戦闘準備を始めて、包帯男は再びイェルコインを脇に抱えた。
抱えられたイェルコインは思わず「わぁ!」という声を出す。
キョウカ以外の皆が「魔獣」に突撃していく中、包帯男はイェルコインを抱えて逃げ出した。
「あ、あんたは戦わないの・・・?」
脇に抱えられている状態のイェルコインが包帯男に聞く。
すると包帯男は走りながら質問に答えた。
「正面からの戦いは苦手でね。」
包帯男はそう言って足を止める。
「魔獣」から十分離れたからだろう。
包帯男はイェルコインを地面に立たせると、「魔獣」の方を向いた。
一方、ドウジたちは「魔獣」に立ち向かっている。
ドウジは勢いよく「魔獣」の顔を殴る。
しかし「魔獣」は衝撃で首を横に勢いよく動かした程度で、あまりダメージを受けているようには見えなかった。
「魔獣」が反撃をする前にドウジは距離をあける。
「(あまりにも体が頑丈だ。 見た目に反してコイツは、かなり強い・・・。)」
ドウジは「魔獣」を観察しながら戦っていた。
決して手加減はしていない。
だからこそ、やや慎重になっているドウジ。
ガイとシグも武器で斬るが、皮膚を傷つけただけであまりダメージを与えられてはなさそうだった。
「(あのナルキでも攻撃が通った。 なのにコイツは・・・。)」
最悪な考えを出しそうになるドウジ。
それほど彼を焦らせているのだ。
しかしそれで諦めるドウジではない。
「ならば」と思い、いわゆる"連続攻撃"を繰り出すドウジ。
顔面にパンチを放ったかと思えば、すぐ次には体に蹴りを放つ。
そして頭上に腕を勢いよく振り下ろし、背中を踏み潰す。
とてつもない速さで動くドウジ。
・・・しかし「魔獣」はフラつくだけだった。
地面に着地して「魔獣」を見るドウジ。
彼の額には汗が流れ出ている。
「こ、こいつ・・・。」
シグは驚きの表情を見せながら思わず言葉を漏らした。
続く言葉は出なかったが、十分に心情がわかる言葉だった。
そしてその考えを払拭するためか、持っていた斧を振りながら「魔獣」に襲い掛かった。
だが当然「魔獣」には傷を付ける程度で、ダメージを与えた感じではなかった。
「魔獣」は牙で薙ぎ払い、シグを吹っ飛ばした。
森の木々の中を飛んでいき、姿が見えなくなった。
「シグ!」
ドウジは吹っ飛ばされたシグの心配をするが、すぐに目の前の標的に視線を戻した。
「魔獣」は鼻息を荒げながらドウジたちを威嚇している。
「ガイ、シグの救出に向かってくれ。」
ドウジは「魔獣」から視線を外さずにガイに頼んだ。
ガイは特にドウジの言葉に疑問は持たず、すぐにシグの方へ飛んでいった。
ガイが森の中に入った後に、ドウジは身につけていたマントをキョウカの方に脱ぎ捨てる。
キョウカはしっかりとマントをキャッチし、ドウジを見た。
「ドウジさん、一体なにを・・・?」
キョウカはドウジが「ナニカ」をしようとしていることを察した。
事実ドウジは謎の構えをとり、それから一歩も動かなくなった。
だが、口は開いた。
「最後の手段に移る。 危険だから離れてくれ。」
ドウジは静かにそう言った。
キョウカは「どうして?」と聞くが、ドウジは答えなかった。
ドウジの邪魔をするわけにはいかないため、仕方なくキョウカは後ろ歩きで距離をとった。
ドウジの体から、徐々に気が高まってきている感覚が伝わってくる。
それはキョウカにも分かるほどだった。
「今から凄いことが起こる。」とキョウカは理解している。
絶対にドウジから目を離さないように注意していた。
「魔獣」も、ドウジが「ナニカ」をしようとしていることに気付き、警戒していた。
鼻息を荒げ、ドウジを睨んでいる。
心の中で「なにが起こるんだ?」という言葉を吐く包帯男。
そしてあまりよく分かってないが、とりあえず「ナニカ」が起ころうとしていることは理解したイェルコイン。
周りが一斉に感じ取ったのだった。
ドウジはまだ動こうとしない。
構えをとったまま不動を貫いている。
さすがにキョウカたちは不穏に思い始めた。
唯一なにをしているかを察した包帯男を除いて。
すると、ついに「魔獣」が動き出した。
鼻息を一発勢いよく吹き出し、ドウジに向かって突撃してきた。
このままではドウジが吹っ飛ばされてしまう。
一同がそう思われた。
・・・しかし、予想は大きく外れた。
なぜなら、吹っ飛ばされたのはドウジではなく「魔獣」だったからだ。
それだけではない。
「魔獣」は空中で妙な動きをしていたのだ。
例えるなら、壁にぶつかって跳ね返っているかのように・・・。
「魔獣」の奇行に皆が注目してしまっているために、うっかり見落としてしまっているモノがあった。
「魔獣」とぶつかったであろうドウジのことだ。
先程までドウジのいた場所には誰も立っていない。
というか、ドウジの姿はどこにも見当たらない。
「魔獣」に夢中になってしまっていたキョウカがドウジのことを思い出し、辺りを見渡す。
しかしどこにもドウジの姿はない。
するとキョウカは「まさか・・・。」と思い、空中に浮かぶ「魔獣」の方を再び注目する。
「魔獣」のあらゆる箇所が凹んだり、元に戻ったりしている。
だが、元に戻る前に別の場所が数箇所凹む。
どうやら「ナニカ」の攻撃を受けているようだ。
「魔獣」を攻撃しているモノの正体は、ここにいる者たち全員が分かっていた。
ここにいないのはシグとガイとドウジ。
シグは吹っ飛ばされ、ガイはそれを救出に行っている。
ならば答えは恐らく一つだけであろう。
肉眼では捉えられないが、「魔獣」を攻撃しているのは "ドウジ" だろう。
彼は超高速で「魔獣」を袋叩きにしているのだろう。
先程の連続攻撃以上の速さで。
キョウカとイェルコイン、包帯男もただ見ているしかなかった。
高速攻撃によって強風が吹き荒れ、地上にいる三人に直撃する。
キョウカたち三人は風に飛ばされ、森の中に姿を消す。
その場に残ったのは空中に浮かぶ「魔獣」と、恐らく「魔獣」を攻撃しているであろうドウジだけであった。
そして数十秒後、最後の仕上げと言わんばかりに「魔獣」を勢いよく地上に叩き落とした。
「魔獣」は頭から地面に落ち、凄い音が鳴り響く。
地面に激突した「魔獣」の下には小型のクレーターのような凹みができた。
今までどんな攻撃をしてもなにも感じてなさそうな表情だった「魔獣」が、初めてグッタリしたような表情を見せ、動かなくなっていた。
どうやらダメージが入り、ついに倒れたようだ。
そして、もう一体地上に落ちてきた者がいた。
ドウジだ。
森の中に飛ばされたキョウカたちは戻ってきて、ドウジと「魔獣」を見た。
立ち尽くすドウジの近くで倒れている「魔獣」。
その光景は誰が見ても、ドウジが「魔獣」を倒したようにしか見えなかった。
「ドウジさん・・・!」
キョウカは笑みを浮かべてドウジの元へ駆けて行った。
自分より身長が1メートル以上あるドウジを見上げ、手に持っていたマントを掲げて渡そうとする。
「ついに、ようやくやりましたね・・・!」
「魔獣」の状態を確認してはいないが、ドウジが攻撃を続けないところを見て「倒した」とキョウカは判断したようだ。
イェルコインも笑みを浮かべて2人に近付こうとする。
だが、包帯男は深刻そうな顔をして動こうとはしなかった。
そんなことは知らず、キョウカはマントを掲げたままドウジの反応を待っていた。
・・・しかし、ドウジはマントを取ろうとはせず、そのまま立ち尽くしていた。
「あ、あの・・・、ドウジさん・・・?」
キョウカは一度マントを掲げていた腕を下ろす。
ドウジの表情はいつもと変わらない、白目を向いた顔だ。
無表情で片目を布で隠している。
いつもと同じだ。
だが、ドウジはなにも反応しなかった。
キョウカは思わずドウジの腹に手を触れた。
優しく触れており、決して強く押したわけではなかった。
だが次の瞬間、ドウジはキョウカが立っている方向とは逆の方向に背中から倒れた。
地面に背中を強く打ち、砂煙が舞い上がる。
「キャア!」
ドウジが倒れた瞬間、キョウカが思わず短めの悲鳴を上げる。
イェルコインも驚きを隠せずその場で停止する。
木々の近くで立っている包帯男は腕を組み、再び深刻そうな顔で倒れたドウジを眺めている。
地面に倒れたドウジは表情一つ変えていない。
しかし全く動こうとはしなかった。
・・・というか、それ以前の問題なのだろう。
「ド、ドウジ、さん・・・?」
キョウカは思わず持っていたマントをその場に落として、倒れたドウジに近付く。
そして体をゆすった。
「ドウジさん! ドウジさん!!」
鍛え上げられた巨体を激しく揺らして、名前を何度も呼ぶキョウカ。
しかしドウジは全く反応がない。
二体の巨大生物が共に倒れている光景が出来上がってしまったのだった・・・。




