19.第3話「異種族の戦士たち」(8/11)
山を登り続けていたドウジたちは、やがて平地に着く。
斜面ばかりを登っていたので、体力にあまり自信がなかったキョウカの表情が一時的だが明るくなった。
「大丈夫?」
するとシグがキョウカに話しかける。
どうやらキョウカが疲れていることに気付いたようだ。
「正直に言うと疲れてしまいました・・・。 しかし早く魔獣を見つけないと・・・。」
キョウカは背筋を伸ばして胸を張る。
すると彼女の綺麗な肌に汗が発生していた。
完全に疲れていたのだった。
結局キョウカは背中を少し丸めて俯いてしまった。
その様子に気付いたドウジとガイ、イェルコインもキョウカを見る。
するとシグはキョウカ以外の三人に顔を向けた。
「ここは私に任せて、三人は先に行ってて。」
シグはそう言ってキョウカの心配をする。
キョウカは申し訳なさそうに俯く。
するとドウジは肩に乗せていたイェルコインを地面に下ろした。
「いや、少しここにいよう。」
ドウジは一言そう述べた。
キョウカとシグはその言葉を聞いた瞬間、目を丸くしてドウジを見た。
「あ、あの・・・、いいのですか?」
キョウカは最初「お気をつかわずに。」と言おうとしたが、先程の彼の言動から他にも目的がありそうだったので、素直に厚意を甘えることにした。
キョウカの言葉を聞いたドウジが無言で頷く。
「あっちにちょうどいい岩があるから、そこに座るといいわ。」
そう言ってシグはキョウカの手を引いて小さな岩の方へ移動しようとする。
キョウカも気が楽になったのか、少しフラフラしながらシグに引っ張られていく。
それを見てイェルコインもキョウカのもとへ近付こうとし、ガイは少し離れた場所で立っている。
「俺から提案があるんだが、聞いてくれ。」
すると突然ドウジが背を向けながら他の四人に対して話しかける。
四人は一斉にドウジの方を向き、彼が見せている背中に目線を合わせた。
「今から俺が単独で山の中を動きまくり、魔獣を見つけてこの場所に連れてこようと思う。」
一度話を止めて振り返った。
四人の顔をそれぞれ見るドウジ。
「どう思う?」
ドウジは皆に聞く。
イェルコインは真顔で、ガイは腕を組む。
シグも腰に手を当てて考え込んでいる。
そんな中、キョウカは笑みを浮かべながらドウジの顔を見ている。
「いいと思いますよ。」
そしてただ一言そう述べた。
その言葉を聞いてドウジは視線を小さな岩の上で休んでいるキョウカだけに向け、他の三人もキョウカを見る。
「だけど、危険じゃない?」
「ドウジさんは、お強いですから大丈夫。」
イェルコインがキョウカに意見を言うが、キョウカは笑顔を見せながら答えた。
イェルコインはしばらく真顔で止まっていたが、やがて体を同時の方へ向けた。
「キョウカがそう言うのなら、アタシも賛成する。」
イェルコインは半目でドウジに言う。
そしてガイとシグを交互に見た。
彼らの意見も聞こうとしている。
するとやがてガイもドウジの方を向く。
「まあ、あんたの強さはよく理解してるよ。 戦ったしね。」
ガイは半笑いで言った。
その言葉から分かる通り、ガイも賛成のようだ。
そして最後の一人になったシグもドウジの方を向く。
「私はドウジのことをあまり知らないけど、これだけ信頼されているのだから「ノー」とは言えないだろうね。」
そう言い終え、ドウジに笑顔を見せるシグ。
腕を前に出して、親指を出した状態で人差し指をドウジに向けている。
その仕草から彼女も賛成してくれたようだ。
全員が賛成してくれたことを理解したドウジは皆の顔を眺めながら喋り始める。
「分かった。 では行ってくる。」
そう言って皆に背を向けると、ドウジは膝を曲げる。
そして思いっきり地面を蹴って長い距離を跳んで行った。
やがて木々によってドウジの姿が見えなくなった。
今の光景を見て、シグはポカーンとしていた。
ドウジの凄さを理解していなかったようだ。
キョウカはそんなシグの姿を見て微笑んだ。
長距離を跳んだドウジはさらに山の上の方を走っていた。
そしてしばらく走った後、再び長距離を跳ぶ。
それを繰り返していた。
しばらくしてドウジは木の上に登って周りを見渡していた。
「・・・。」
ドウジは思った。
「もしかしたらもっと下の方だったかもしれない・・・。」と。
すると、ドウジがいる木の下の方から声が聞こえてきた。
「おーい!」
ドウジが声のした方を向く。
するとそこには見たことのある顔があった。
包帯でぐるぐる巻きのその顔が。
ドウジが木の上から飛び降りて地面に着地する。
その際にすごい音が響く。
「おおっと!」
包帯男は若干ビビるが、同時に笑っていた。
ドウジは包帯男を見下ろす。
すると包帯男はすぐに二、三歩距離を離した。
「何の用だ?」
ドウジは冷静に包帯男に聞く。
すると包帯男は腰に手を当てて、変な方向を見る。
「あー、いや、用ってワケじゃねえんだけどな・・・。」
言い終えると包帯男はドウジの方に目線を合わせる。
包帯の隙間から見える目で。
「仲間と一緒のハズだと思ったが、あんた一人でなにやってるんだ?」
包帯男は軽い物言いでドウジに聞く。
それを聞いたドウジはすぐにワケを説明し出した。
ドウジが説明を終えると、なぜか二人で山を下りながら話を続けていた。
ちなみに下ることを提案したのは包帯男だ。
「しっかしあんた、見かけによらず結構な紳士だな。 「体力仕事は男に任せろ!」ってところか?」
「なにを言ってる。」
包帯男の言葉にドウジはそう答える。
すると包帯男は不思議そうな声で再び喋り始める。
「違うのか? 女の子たちに無理させないように気を使ったんじゃないのか?」
「俺一人であちこち回った方が早いと思っただけだ。」
ドウジは表情を変えずに答える。
すると包帯男はズボンのポケットに両手を突っ込んだ状態で前を向いた。
そして「フーン」と呟いた。
だが包帯男は少しの間をおいて再び喋り始めた。
「しかしまあ、あんな美女やかわい子ちゃんと共に旅をしてるなんて、凄く羨ましいなぁ〜。」
包帯男は背中に生えている猿の尻尾を動かしながら言う。
それを見て、ドウジは彼が獣尾族という種族だったことを思い出した。
「なぁ、あんたはどの子が好みだったりする?」
突然包帯男が聞いてきた。
尻尾に向けていた目線をやや慌てて包帯男の顔に向けるドウジ。
「「好み」だと・・・?」
「ああ。 やっぱ一緒に行動してるのだから「そういう感情」もあったりするだろう?」
「・・・。」
ドウジは真剣に考え出した。
全く予想をしてなかったことを聞かれてやや困っている。
「ああ、一応言っておくが「いない」って選択肢は無いからな。 あんたが絶食系だったとしても答えてもらうぜ。」
包帯男は忠告をする。
しかしドウジは特に反応せず考え込んでいた。
「考えたこともなかったな・・・。」
ドウジは一言そう呟く。
かなり真剣に考え込んでいる。
「今まで出会ってきた女性はほとんどが「倒すべき敵」だった。 母さんや姉さん以外で俺に敵意を向けなかった女性はキョウカが初めてだった・・・。」
「マジかよ・・・。」
ドウジの言葉に包帯男は驚く。
ドウジのこれまでの人生を勝手に想像して、心の中で軽く彼に同情する包帯男だった。
「なんかないか? 「一目見てドキッとした」とか、「近くにいると安心する」とか、「名前で無意識に反応する」とか・・・。」
包帯男はドウジという人間をほんの少しだけ理解し、ちょっとした手助けをした。
なんとしても聞きたいようだ。
しばらくしてドウジの表情が少し変わる。
「「そういう感情」かは分からないが、あるにはあるな。」
「本当か!」
ドウジの脳裏には、この異世界に来てからのことが浮かんでいた。
そして「ある女性」のことを思い浮かべていた。
「"キョウカ"なのかもしれない・・・。」
ドウジはキョウカの名前を口に出す。
しかし彼女に向ける感情に「そういう感情」があるかはドウジは分かっていない。
今まで戦いばかりしかしてこなかった男には縁がない感情だからだ。
その一方、包帯男は黙ってドウジを見ている。
なぜなら包帯男には「キョウカ」が誰のことなのか分からないからだ。
「えっと・・・、あの魔法使いっぽい女性?」
包帯男は当てずっぽうで聞く。
そしてそれに対して無言で頷くドウジ。
包帯男は「キョウカ」が誰か理解すると、凄い早さで彼女の容姿を思い出した。
「なるほどねぇ〜。 まぁ、俺は容姿しか知らないから詳しいことは分からないけどさ。」
包帯男は相変わらずポケットに両手を入れながら山を下っている。
「だけど、彼女美人だったよな。 綺麗で長い黒髪に綺麗な肌、そしてやや控えめな胸。 なによりあのパツパツした黒いズボンがエロいよなぁ〜。」
包帯男は完全に一人で盛り上がっていた。
そんな包帯男をドウジは黙って見ている。
それに包帯男は気付くと慌てた様子を見せた。
「あー、変なことをしようとはまだ考えてねえから安心しな。」
包帯男は言い終えると「アハハハハ。」と笑う。
その笑い方は笑っていない笑いだった。
だが、ドウジは特になにも言わなかった。
少し間をおくと、今度はドウジが包帯男に話しかけた。
「ところで、どこに向かっているんだ?」
包帯男は「ん?」と反応する。
そして話が変わったことを理解し、その質問に答えた。
「決まっている。 魔獣のところに行くんだよ。」
そう一言述べた。




