17.第3話「異種族の戦士たち」(6/11)
町長が集まっている戦士たちに呼びかける。
「戦士の皆さん、ようこそ「デマスナ」へ。」
戦士たちの中には当然ドウジたちもおり、町長の方を見ている。
というより、ここにいる戦士たち全員町長を見ている。
シグも包帯男も雪女も。
黒い骸骨は葉巻をくわえながら見ており、ゴブリンも壁に寄りかかりながら見ている。
「魔獣のいる場所は、この「デマスナ」からも見える山でございます。 どうかご協力お願いいたします!」
町長は台の上でお辞儀をする。
戦士たちに向けてだ。
察しの通り、「デマスナ」とはこの町の名前。
つまり町の近くの山が魔獣の住処のようだ。
その後も色々と話があったが、とりあえずこれから「魔獣討伐」が始まろうとしている。
ドウジ、キョウカ、イェルコイン、ガイ。
シグ、ゴブリン、包帯男、雪女、黒い骸骨、そして他の戦士たち。
その全員が協力して戦うということだ。
ということで、「魔獣討伐」がついに始まった。
町民の一人に先導され、大勢でぞろぞろと移動を開始し、町から山へ向かおうとしている。
現在は草原を歩いている。
戦士たちは基本間を開けて移動しているが、ドウジとキョウカ、イェルコイン、ガイは集まって行動していた。
シグは気を使っているのか、少し離れた場所にいる。
すると、一人の男が近付いて話しかけてきた。
「アンタら、パーティを組んでいるのかい?」
ドウジたちに話しかけてきた男は、二十歳後半くらいの見た目をした眼帯を付けた男だった。
男の腰には剣が装備されている。
「はい、旅の仲間です。」
キョウカは笑顔で答える。
すると眼帯の男は「へぇ〜」と息吐くように言いながらドウジたちを見渡す。
「まぁ、お互い頑張ろうや。」
眼帯の男はドウジたちを見ながら、なかなか良い笑顔を見せながらそう言った。
それに対してキョウカも笑顔で「はい!」と答える。
その言葉を聞くと、笑いながら前に向き直った。
それから特に騒ぐことはなく森の中へ入り、山の近くへやってきた。
「ここから山に登れます。 どうかお気をつけて!」
町民の男がそう説明する。
その言葉を聞いて、次々に戦士たちが山を登り始める。
ドウジたちもそうだ。
・・・すると、ここで問題が発生した。
山に着くまでは密集していた戦士たちだったが、山に入った瞬間それぞれが別々に行動し始めたのだ。
集団はあっと言う間にバラバラになってしまった。
「あ、あのっ!!」
なにが起こっているか分からないキョウカは咄嗟に戦士たちを呼び止めようとする。
だが、戦士たちは見向きもせずにどんどん山を登って行ってしまった。
「なんなんだ、一体・・・。」
イェルコインも目の前の光景がなんなのか分からず、ただ眺めているだけだった。
すると、ドウジたちの後ろから一人の男が歩いてきた。
あの包帯男だ。
「所詮、仕事仲間であっても「本当の仲間」ではないということさ。」
横で立っている包帯男をドウジたちは見る。
腕を組んで山を登っていく戦士たちを眺めていた。
「この討伐戦の参加者たちはほとんどが名声目当ての目立ちたがり屋ばかりだ。 他のヤツらと仲良しごっこなんかする気は無いんだよ。」
包帯男はニヤけながら話している。
包帯で表情は分からないが、声の感じからは分かる。
「あんたは違うのか?」
すると今度は、後ろから遅れてシグが登ってきていた。
彼女も包帯男を見ている。
シグの質問に答える前に包帯男は「フンッ」と鼻で笑った。
「違う・・・、と言ったら嘘になるな。」
包帯男はシグの方に顔を向けずに答える。
そんな包帯男を見ながら、シグは武器である斧を手に持った。
「なら、早く行くんだね。」
シグは一言そう述べる。
包帯男は少し間をおいて喋り出した。
「山の頂上に魔獣がいるとは限らないだろ。 俺はマイペースにゆっくりと登らせてもらうわ。」
腰に手を当てながら話す包帯男。
喋り終わるとついにシグの方を向いた。
その瞬間、包帯男は目の色を変えた。
しばらくボケーっとシグを眺める包帯男。
「な、なに・・・?」
シグはそんな包帯男を見て不気味がっている。
数秒後、包帯男はゆっくりとシグに近付いた。
シグは斧を持ちながら念のため身構えている。
そして少しの間をおいて包帯男が喋り出した。
「これは失礼いたしました。 まさかお話ししていた相手が美しいご婦人だとは・・・。」
包帯男は先ほどまでとは違う声と言葉遣いでシグに話しかけている。
町中でキョウカと話していた時みたいに。
シグは突然のことで戸惑っていた。
「よろしければご一緒に討伐をしませんか?」
「え、いや、えっと・・・。」
完全に混乱してるシグ。
そんなシグを横で眺めているドウジたち。
シグはまず、ドウジたちの方を向いた。
「わ、私のことは気にしなくていいから、アンタらは先に進んで。」
シグがそう言い終わると、包帯男は再びグイグイと来ている。
そして困惑するシグであった。
すると急に包帯男が宙に浮いた。
よく見るとドウジが包帯男をつまみ上げていた。
「おっとっと・・・。」
包帯男は若干余裕そうに言う。
ドウジは無言で包帯男を見ており、無表情ながら結構な迫力があった。
包帯男も少なからず恐怖心を抱いているだろう。
「分かった分かった。 ここまでにしておくよ。」
包帯男は吊られた状態で「まぁまぁ」という感じのジェスチャーをしている。
すると、横で見ていたイェルコインが「ナニカ」に気付いた。
「あ、あんた・・・、それって・・・。」
イェルコインが指したのは、包帯男のズボンの後ろの穴から飛び出た"尻尾"だった。
見たところ"猿の尻尾"のようだ。
イェルコインの言葉で他の皆も包帯男の尻尾に注目する。
最後に包帯男自身も自分の尻尾へ顔を向けた。
「あんた、獣尾族だったのか・・・。」
イェルコインは視線を包帯男の尻尾から顔に移動させながら喋る。
「あー、そういえば言ってなかったな。」
すると包帯男は軽々とそう言った。
そして自身の尻尾を動かした。
本当に尻尾が生えているようだ。
「えっと、そろそろ下ろしてくれないか?」
包帯男のその言葉を聞くと、ドウジは包帯男を地面におろした。
するとすぐに包帯男はシグと距離をあけた。
「それじゃまた会おう。 二人の美人さんと嬢ちゃんと紳士たちよ!」
そう言って包帯男はゆっくりとだが、山を登り始めた。
するとイェルコインが、去りゆく包帯男に向かって「嬢ちゃんって言うなぁー!」と叫ぶ。
しかし包帯男は特に反応せず山を登り続けるのだった。
包帯男が去ると一気に静かになった。
「さてと、せっかくだから一緒に行く?」
シグがドウジたちを見ながら聞いてきた。
するとすぐに答えが出てきた。
「是非、お願いします。」
答えたのはキョウカだった。
キョウカの言葉を聞くと、シグは優しく微笑んだ。
ドウジ、キョウカ、イェルコイン、ガイ、そしてシグは共に山を登る。
斜面がややキツく登り辛いときもあったが、順調に登っていく一行。
しばらくしてドウジがシグに話しかけた。
「シグはなぜ、魔獣討伐を?」
突然のことにシグは「え?」と言って、目を丸くさせながら不思議そうにドウジを見た。
少しの間が生まれ、二人の空気を察したキョウカがフォローをしようとする。
「先程の男性が「討伐戦の参加者たちはほとんどが名声目当ての目立ちたがり屋」と言ってましたが、シグさんもそうなのですか?」
キョウカの言葉を聞いて、シグはドウジが聞きたかったことを理解した。
軽く笑った後に喋り始める。
「まあ、半分そうだね。」
シグは微笑みながら言った。
当然キョウカは「半分?」と疑問に思ったが、そういうと思っていたシグは話し続ける。
「町を守るついでに名声も手に入れられるんだし一石二鳥じゃない!」
シグは笑顔を見せながら話している。
それを聞いてキョウカも微笑んだ。
ドウジはなにも言わなかったが、納得はしたようだった。
「まぁ、仮に有名になったとしてもどうするかは決めてないんだけどね。」
シグは笑いながら再び喋る。
「なにか理由があって戦士になったのではないのですか?」
「いんや、ノリや勢いで戦士になっただけ。」
そしてシグは再び軽い感じで答えた。
あまりの軽々しさにドウジたちはなにか言いたそうだったが、何も言えなかった。
ただシグの笑顔を眺めているだけだった。
しばらく歩いていると、イェルコインが急に座り込んだ。
「つ、疲れたぁ・・・。」
イェルコインは体力がなく、当然ながら山登りも苦手だった。
ちなみに他の皆は大丈夫そうだった。
「イェル、大丈夫。」
イェルコインのもとに歩み寄るキョウカ。
それを見てドウジとガイ、シグも近寄った。
「ごめん、動けない・・・。」
イェルコインは完全に座り込んでおり、動けそうになかった。
「山登りは体力があってもかなりキツいからね。 仕方ないよ。」
ガイがフォローをした。
今は体力とは無縁となっているが、おそらく生前にはなにかあったのだろう。
ただ、なにがあったかはガイ自身も知らないが。
イェルコインは座り込みながら、申し訳なさそうな表情を見せていた。
すると、その表情にいち早く気付いたのはキョウカではなくドウジだった。
ドウジはさらにイェルコインに近付く。
そしてイェルコインの脇を掴んで、自身の頭より高く持ち上げた。
当然イェルコインは「え!?」と驚愕するが、ドウジはそのままイェルコインを自身の肩の上に乗せた。
「俺が運ぼう。」
ドウジはそう一言述べる。
イェルコインは背が低いので、巨体であるドウジの肩の上に余裕で座れている。
「よろしくお願いします。」
キョウカが頭を下げて頼んだ。
まるで母親のようである。
色々あったが、改めて山登りを再開するドウジたちだった。