16.第3話「異種族の戦士たち」(5/11)
次の日となった。
ドウジはタオル一枚の格好から、いつもの服に着替えた。
片目を布で隠すのも忘れない。
「行きますか。」
ガイはそう言って扉を開ける。
そして二人は部屋を出た。
キョウカたちの部屋の扉をノックするガイ。
数秒後、中から声が聞こえてきた。
「ご、ごめんなさい! もう少し待ってください!!」
キョウカの慌てた感じの声が中から聞こえてきた。
ドウジとガイは特になにも言わず、扉の前で待つことにした。
彼らも女性の朝の大変さは理解しているつもりだった。
数分が経ちキョウカたちが出てきたので、宿を後にする一行。
目的の場所を目指して歩き出す。
「場所は分かるのか?」
「正確には分かりませんが、おそらく旅人が集まっていると思います。」
キョウカは確証はないがそう言って、町中を歩く。
すると、背が高いドウジが「ナニカ」を発見する。
「シグを見つけた。」
そう言ってドウジは方向を指す。
それを見てキョウカたちはその方向に歩き出した。
ドウジを先頭にして進む一行。
巨体なドウジが通るだけで歩行者は道を開けていく。
理由は大体察せるだろう。
人混みをかき分けて行くと、ドウジの言った通り横道にシグが立っていた。
「よっ! 来てくれたんだね。」
シグは手のひらを見せながらドウジに声をかけた。
するとドウジの後ろからキョウカたち三人が前に出てきてシグを見る。
「実は見送りに来たのではなくて・・・。」
「アンタたちも参加するのだろう?」
シグがキョウカの言いたかったことを察して先に言った。
キョウカは驚いた表情を見せたが、すぐに無言で頷いた。
「やっぱりね。」
シグが腰に手を当てながら言う。
そして後ろを指した。
「場所は向こうだよ。」
一言そう述べると、シグはドウジたちがいる方向の反対を向いて歩み出した。
四人はすぐにシグの近くまで早歩きで追いついた。
するとイェルコインはシグを見上げながら話しかけた。
「どうして分かったんだ?」
「女の勘・・・、というより"戦士の勘"というところね。」
シグは冗談のような言い方でイェルコインに言った。
イェルコインは目を丸くさせたが、それ以上はなにも聞こうとはしなかった。
シグに連れられて、ついに魔獣討伐に行く戦士たちの集合場所へと着いた。
そこには沢山の人だかりができており、その端にはステージのような台があった。
男女関係なく強そうな人がおり、見た目だけでは強いか分からない人までもいた。
そして、見たことのある人物もいた。
「ねえ、あそこにいるのって・・・。」
イェルコインが目線を向けた先にいたのは、尖った耳と隠しきれてない緑色の肌をしたゴブリンだった。
そう、あの時のゴブリンだ。
「アイツも参加者だったのか。」
ドウジは、壁に寄りかかって腕を組んでいるゴブリンを見る。
よく見ると、彼に近付こうとする者は誰もいない。
ゴブリンは避けられているようだ。
だからといって、ドウジたちはゴブリンになにかしようとも思わなかった。
普段他人に優しいキョウカも近付こうとはしない。
彼女なりの考えはあるようだ。
すると、後ろから誰かが近付いてきた。
「およ、見たことがある後ろ姿だと思えば・・・。」
声がした方を向くと、そこには頭を包帯で覆った男が立っていた。
その人物を見てイェルコインは目を見開く。
「あ、あんたは・・・!」
「やっぱ、あん時の嬢ちゃんか。」
包帯男は、昨日スリからイェルコインの財布を取り戻した男だった。
包帯男はイェルコインの周りにいる人たちを見る。
そして再びイェルコインに視線を戻す。
「嬢ちゃんも魔獣討伐をするのか?」
包帯男は腰に手を当てながらイェルコインを見下ろしている。
するとイェルコインは頬を膨らませた。
「"嬢ちゃん"って言うな!」
イェルコインが不機嫌になったのは「それ」が原因だったようだ。
だが、包帯男は軽く笑うだけだった。
するとキョウカがイェルコインの方を向く。
「もしかして、宿で言ってた人ってこの人?」
「・・・うん。」
どうやらイェルコインは昨日のことを宿でキョウカに話していたようだ。
イェルコインはやや不機嫌そうに頷くと、キョウカは微笑みながら包帯男の方を向く。
そして男に近付くと、彼の前でお辞儀をした。
「昨日、イェルを助けていただきありがとうございました。」
顔を上げたキョウカは男に笑みを見せる。
すると包帯男は照れるのを誤魔化すように後頭部をさすった。
「いえいえ、お役に立てて光栄です。」
イェルコインと話していた時より明らかに良い声を出して喋る包帯男。
それを見てイェルコインとシグは、彼の性格の一部をなんとなく理解した。
キョウカはまだ理解していない。
「あなた方も魔獣討伐に参加なされるのですか?」
「はい!」
言葉遣いも変えてきている包帯男の言葉に笑顔で答えるキョウカ。
もはやなにも言おうとはしないイェルコインとシグ。
そしてただ単に見ているドウジとガイ。
「どうかお気をつけて。」
包帯男はその一言だけを述べると、イェルコインの方へ歩み寄った。
するとイェルコインの頭の上に手を置いた。
「嬢ちゃんも気をつけてな。」
包帯男は声を戻してイェルコインに言う。
おそらくこちらが素の声だろう。
それだけ言って包帯男はドウジたちのところから離れた。
「だから、"嬢ちゃん"って・・・。」
イェルコインは離れてく包帯男の方を向きながら喋るが、途中で言葉を止めて溜息を吐いた。
「どうせ聞こえないだろう。」と察したからだ。
一方ドウジは包帯男を眺めたついでに改めて周りを見渡した。
戦士だと分かりやすい見た目の者が大半であり、中には見ただけでは強そうに思えない人もいた。
しかし見た目だけで判断するような愚かなことを当然ドウジはしない。
彼は誰がどういう戦いをするか興味があった。
しかし、その中でも特に気になった者が奥の方にいた。
その者は灰色か黒っぽい装備が全身を包んでいる。
トゲトゲした甲冑を身に纏い、死神を連想させる黒い骸骨のマスクを被っていた。
マスクの口部分の隙間から葉巻をくわえている。
そしてなにより黒い骸骨がまたがっている悪魔のようなバイクらしき乗り物も目立っている。
事実、近場にいる戦士たちもその者が気になってチラチラと横目で見ている。
しかし黒い骸骨はそれを気にせず、葉巻をふかしていた。
骸骨のマスクをした者は昨日にも会ったが、ドウジが見た骸骨マスクの男とは雰囲気が全く違かった。
骸骨のマスクも、昨日会った男が「恐竜の頭蓋骨を模したデザインのマスク」だとしたら、今見ている者は「人間の頭蓋骨そのままのマスク」であろう。
ドウジが黒い骸骨に気を取られていると、急に背中が冷える感覚がした。
気になって後ろを振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。
その女性は白い服を着ていたが、その服は少しおかしかった。
胸の近くや腹辺りに合計三本の黒いベルトが巻かれており、服の袖はやけに長かった。
そして彼女自身も特徴的だった。
地面につきそうなくらい長い黒髪。
そしてギョロギョロと見開いた目とギザギザの歯を見せており、どこか不気味な感じの女性だった。
また、なぜか今度はドウジの腹が寒くなってきた。
「なにか用か?」
「ん、ああ。 いや、デッカイなぁ〜って思って。」
白服の女性はかなり軽い感じの話し方で喋った。
そして話終わると「ニシシシシ」と笑った。
ドウジが誰かと話していることに気付き、キョウカたちも近付いてくる。
「あー、それだけだから。 んじゃ、キミも頑張って。」
白服の女性はそういうと、ドウジの前からトコトコと離れて行った。
終始彼女の表情はあまり変わらなかった。
白服の女性が離れた瞬間、急に寒さはなくなった。
「誰ですか?」
「分からん。」
ドウジとキョウカは離れていく白服の女性を不思議そうに眺めた。
すると白服の女性は、今度はあのゴブリンに近付いた。
ゴブリンは相変わらず腕を組んだ状態で壁に寄りかかっている。
そんなゴブリンに遠慮なく近付く白服の女性。
ゴブリンは無視するように目を瞑る。
「ねえねえ、キミってゴブリンだよね?」
「・・・。」
白服の女性は遠慮なくゴブリンに話しかけた。
しかしゴブリンは無視をする。
すると白服の女性はゴブリンのすぐ隣の壁に寄りかかり、真横を向いてゴブリンを見た。
「アタシの種族は「雪女」。 アタシたち、嫌われ者同士だね。」
白服の女性は頭をぐらんぐらんさせ、ヘラヘラしながら言った。
しかしゴブリンはまた無視をする。
そして数秒の間を置いて、ゴブリンは白服の女性から離れるように別の場所へ移動し始めた。
白服の女性は頭を揺らしながら離れていくゴブリンを眺める。
ギザギザした歯を見せながら、笑みをやめようとしない。
一部始終を見たドウジはキョウカを見る。
するとキョウカもドウジが尋ねてくると思ったのか、逸早くドウジの顔を見上げていた。
そしてすぐに話し始めた。
「ゴブリンと同様に「雪女」も嫌われているのです。 ゴブリンと同じく今でも人を襲ったりすることが多い種族だと聞きます。」
ドウジは納得すると、再びその雪女を眺める。
自身が知っている雪女とは姿がとても違っており、変な気分だった。
そして数十分という時が経ち、ついにその時が来た。
やや遠くからシルクハットを被った中年男性が現れた。
そしてステージのような台に上がった。
「戦士の皆さん、ようこそ「デマスナ」へ。 私が町長の "パーティ・パーティー" です。」
町長を名乗る男が戦士たちに呼びかけた。
・・・これが、「魔獣討伐」の始まりだった。