15.第3話「異種族の戦士たち」(4/11)
頭に包帯を巻いた男はイェルコインに近付く。
徐々に距離を詰めて来ていた。
イェルコインは男に気付かれないように透明な壁を張り始めた。
包帯の男はそうとは知らずに近付いてくる。
大体1メートルくらいの距離まで縮めた瞬間、突然その場でしゃがんだ。
そしてイェルコインに腕を伸ばしてきた。
イェルコインはなにか攻撃が来る覚悟していた。
しかし、そうなることはなかった。
男は手のひらに財布らしきモノを乗せてイェルコインに見せる。
すると、イェルコインの顔色が変わった。
「アタシの財布!?」
男が持っていたのはイェルコインの財布だった。
イェルコインは男の顔を見た。
包帯でグルグル巻きだが、目元を見ると笑っていることが分かった。
「ここにはたまにスリが出ることがあるから気をつけな。」
見た目に反して男はかなり明るく喋った。
男の言葉を聞いて理解するイェルコイン。
包帯の男の後ろで倒れている男はスリで、包帯の男はそのスリから財布を取り戻してくれたと言うことだ。
男がしゃがんだ理由は、イェルコインの身長に合わせるためだ。
「あ、ありがとう・・・。」
イェルコインは透明の壁を解除して、彼の手に乗っかっている自分の財布を手にした。
そして自分の鞄の中に再び仕舞った。
それを確認すると包帯の男は立ち上がり、イェルコインの横を通り過ぎる。
「じゃあな、お嬢ちゃん!」
片腕を上げた状態で言いながら、去って行った。
その言葉を聞いてなにか言いたそうにするうイェルコインだったが、振り向いたときには結構距離があいていた。
イェルコインは言葉を飲み込んで、再び歩き出した。
場面は変わって、町の広場。
そこは混雑はしてないが沢山の人が居て、その中にドウジとキョウカもいた。
ドウジは広場の隅で立っており、キョウカは屋台に並んでいた。
そしてキョウカの番が来て、無事に食べ物を買う。
「お待たせしました!」
キョウカは両手にホットドッグを持ちながら、ドウジにのもとに駆け寄った。
キョウカは丁寧にドウジに一つホットドッグを渡すと、ドウジの隣に移動した。
「すまない。 そしてありがとう。」
「いいんですよ。 ドウジさんが並んでしまうと目立ってしまいますから。」
キョウカはそう言ってホットドッグをかじる。
とても美味しそうに食べる。
それを見てドウジもホットドッグを食べる。
すると、「んんー。」という声を出した。
「どうしました?」
声を聞いたキョウカがドウジの顔を見上げる。
「いや、前から名前だけは知っていたが、こんなに美味かったんだな。」
ドウジはホットドッグを眺めながら言う。
それを聞いたキョウカは微笑んだ。
しばらく広場の風景を眺めていた二人。
するとキョウカのもとに一匹の動物が近付いてきた。
「わぁ、大きな犬・・・。」
「それ、狼だぞ。」
キョウカに近付く灰色の狼。
狼だと聞いて警戒するキョウカ。
ドウジがキョウカを庇おうとするが、狼は目の前で座った。
そして尾を振っていた。
それを見てキョウカがホットドッグの食べかけを差し出した。
「食べる?」
狼の目の前でしゃがみ、狼の顔に食べかけのホットドッグを近付ける。
(イヌ科動物に「ホットドッグ」という名前のモノを食べさせるのは・・・。)
脳内でドウジがジョークのような言葉を言うが、狼はキョウカが差し出してきたホットドッグを一口で食べた。
(食べやがった・・・。)
ドウジはモグモグと食べている狼を見ている。
キョウカは美味しそうに食べている狼を見て微笑んでいる。
すると狼はキョウカの顔に頬擦りをした。
狼は完全にキョウカに懐いているようだ。
だが、すぐに別れの時は来た。
「クオンタム、なにしてやがる。」
やや遠くから声がした。
狼はその声の方を向く。
ドウジとキョウカも同様に。
そこにいたのは、ファーが付いた黒い上着を羽織り、頭には恐竜の頭蓋骨のようなマスクを被った筋肉質の男がいた。
背はドウジよりやや小さいが、それでもかなりの大きさだった。
そして彼の周りには他にも黒い狼と白い狼がいた。
当然だが目立っており、周りの人たちも彼を見ている。
"クオンタム"と呼ばれた灰色の狼はゆっくりと男のもとに行く。
途中でやや名残惜しそうにキョウカの方を向くが、また前に向き直して男の方に向かって行った。
そして男の足元に着く。
ふと骸骨マスクの男はドウジを見た。
ドウジも見ていたため互いに目があった。
数秒間そのまま動かなかったが、やがて髑髏マスクの男は狼たちと共に去って行った。
「彼も魔獣討伐に参加するのでしょうか?」
「分からんな。」
ドウジとキョウカは不思議なモノを見た反応を見せている。
時刻は夕方頃になった。
ドウジとキョウカは宿に戻ろうとしていた。
「楽しかったですね。」
「・・・そうだな。」
二人は並行して歩いている。
身長差が凄い。
結局あの後、明日の魔獣討伐に行くであろう人物たちを見つけることはできなかった。
もしかしたら準備で忙しいのかもしれない。
宿の近くまで来ると、ちょうどイェルコインと遭遇した。
「あ、イェル!」
キョウカは早速イェルコインを呼び止めた。
イェルコインも気付き、共に宿の中に入った。
宿に入り自分たちの部屋がある場所まで移動する。
「ではドウジさん、また明日。」
キョウカはそう言うとイェルコインを連れて自分たちが泊まる部屋の扉を開けて中に入って行った。
ドウジも自分が泊まる部屋に入る。
ドウジが部屋に入ると、部屋の隅に甲冑が置いてあった。
ガイの甲冑だ。
しかしドウジが近付いても反応がなかった。
ドウジは少し考え込むと、ガイが元々幽霊であることを思い出した。
ドウジはガイのことは気にせず、部屋の隅で逆立ちをし始めた。
ドウジにとってはちょっとした筋トレのつもり。
たまに片腕だけで支え、しばらくして再び両腕で支える。
それを繰り返した。
しばらくしてガイが戻ってきた。
「なにしてるんだ?」
それが帰ってきて最初の言葉だった。
ドウジはまだ逆立ちをしていた。
「修行だ。 気にするな。」
ドウジは一言そう述べるだけだった。
「いや、気になるよ。」
ガイはすぐにそう言い返した。
するとドウジは逆立ちをやめて速やかに元の態勢に戻った。
そして窓の外を見た。
「もう夜か。」
窓の外は暗く、街灯が道を照らしている。
歩行者も昼間に比べて圧倒的に少なくなっている。
すると、部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。
ガイがそれに気付き、扉を開けた。
そこにはキョウカがいた。
「キョウカ?」
「部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
二人は頷いて、キョウカを部屋の中に入れた。
キョウカは部屋に入ると、二人の顔が見える場所に移動する。
そして二人の顔を交互に見ながら話し始めた。
「先程イェルと相談したのですが・・・、実は明日の「魔獣討伐」に私たちも参加しようと思うのです。」
キョウカの話を聞いて、ドウジとガイは顔を見合わせる。
そして再びキョウカを見ると、キョウカが話を続けた。
「それで、ドウジさんとガイさんはどうしますか?」
キョウカが二人の顔を交互に見ながら聞く。
だが、二人は悩む様子はなかった。
「決まっている。」
「もちろん行く!」
二人はキッパリとそう言った。
それを聞いたキョウカは微笑んだ。
「お二人ならそう申してくださると思っていました。」
キョウカはそう言うと、そのまま扉の方に向かった。
そして部屋の出口付近で振り返る。
「では、また明日会いましょう。 お休みなさい。」
言い終えるとキョウカは部屋を出て行き、しっかりと扉を閉めた。
ドウジは部屋のバスルームで体を洗う。
一人ならともかく仲間がいる今の状況では体臭を気にした方がいいと判断するドウジだった。
体の大きさが原因で湯船には入れないが、シャワーは浴びれた。
数分が経ち、ドウジは出てくる。
宿が用意している部屋着はサイズが合わないため、下半身にタオルを巻いているだけの状態となっている。
「うおっ!?」
バスルームから出てきたドウジを見て、ガイは驚く。
しかしそれはタオル一枚だからじゃなく、彼の片方しかない目を見てだ。
ドウジはガイの反応を気にせず自分のベッドに座り込んだ。
「ねえ、前から気になってたんだけど、ドウジはなんで片目が無いの?」
ガイが聞くと、ドウジは勢いよくガイの方を向いた。
それを見てガイは「地雷を踏んだ」と察したが、ドウジはすぐに口を開く。
「ちょっとした事故で無くしただけさ。」
ドウジは静かにそう言った。
ガイは、これ以上なにも聞こうとはしなかった。
真夜中に雨が降っている・・・。
断崖絶壁に二つの影が見える。
一つの影は地面に倒れており、もう一つの影は倒れている影を見下ろしている。
「ぐぅぅぅ・・・。 ぐぁぁぁー!!!」
倒れている影は悲痛な叫びを上げながらのたうち回っている。
もう一つの影はそれを黙って見ている。
「お前が悪いんだぞ、ドウジ。」
よく見るともう一つの影は箸を持っており、「ナニカ」を掴んでいた。
それは丸い物体・・・、「目玉」だった。
お察しの通り、倒れている影は目玉を抜かれてのたうち回っているのである。
その証拠に片方の目を両手で押さえて苦しんでいる。
「今回はこの程度で済ませたが、次は殺すからな。 実の息子でも、な。」
もう一つの影はそう言って、倒れている影に箸で目玉を投げ飛ばした。
目玉は倒れている影に当たり、地面に落ちる。
しかし、倒れている影はそれどころではなかった。
「ぐ、ぐぅぅぅ・・・、ぐあぁぁぁー!!!」
・・・。
・・・・・・。
「うあっ!?」
いつの間にかドウジは寝ていたようだ。
部屋の電気は消されており、部屋の中は真っ暗だった。
そのため、ガイはどうしてるか分からない。
ドウジは全身汗まみれになっていた。
ふと、ドウジは自身の無い方の目を触り始めた。
その気になれば指を奥に突っ込めるほど、その穴は大きかった。
ドウジは思わず「チッ・・・。」と舌打ちをした。