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14.第3話「異種族の戦士たち」(3/11)


 穴が空いたままのマントをとりあえず羽織(はお)るドウジ。


「そういや、あの盗人(ぬすっと)はどうしたんだ?」


 ドウジはマントを付けながらキョウカに聞く。

 キョウカはドウジの顔を見るために、見上げる。


「縄で縛って身動きできないようにしました。」


 その言葉を聞いてドウジは少し考え出した。

 そして静かに喋り出した。


「始末したりはしないのか?」


 ドウジの怖い一言を聞いて、キョウカはビクッと肩を震わせた。

 すると代わりにシグが喋り出した。


「そんな覚悟、私にはないよ。」


 シグは自身の前髪をイジりながら答える。

 近くにいるキョウカ、イェルコイン、ガイまでもが(うなず)いていた。


「『ある人を殺さないと、他に被害が出る。』という状況になると分かっていても、私たちに人殺しはできません・・・。」


 キョウカはやや悲しそうな表情をしていた。

 イェルコインも珍しく真剣な顔をしている。

 ガイは・・・幽霊(ゴースト)なので分からない。


「そういうドウジはどうなんだ?」


 すると今度はガイがドウジに聞いてきた。

 ドウジは腰に手を当てて病院の天井を見つめる。

 口を開けて一生懸命考えていた。

 やがて答えを出すために四人の方に顔を向ける。


「俺も無理だな。」


 ドウジは冷静にそう言った。

 それを聞いた四人は、思わず少しだけ()き出してしまった。


「なんで笑う。」

「いえ。 ただ、今のドウジさん、少し可愛いかったなって・・・。」


 キョウカは笑いを(こら)えながら言う。

 ドウジは四人を不思議そうに見ている。




 病院を後にして、町中へ戻る五人。

 一度人が溜まってない場所に移動する。


「さてと、目的地にも着いちゃったし、ここでお別れね。」


 シグは他四人の方を見てそう言った。


「そうか、シグとはここでお別れか・・・。」


 イェルコインはどこか寂しさを感じる声色で喋る。

 するとシグはイェルコインの頭を()で始めた。


「よければ、明日の『魔獣討伐』のときにお見送りしてくれないかな?」


 シグは皆の顔を順番に見ながら言う。

 イェルコインの頭を撫でながら。


「ええ、もちろんです。」


 キョウカはすぐに答えた。

 その返事を聞いてシグは満面の笑みを浮かべる。

 そしてイェルコインの頭から手を離して、皆に手のひらを見せた。


「じゃあ、また明日ね。」


 シグはそう言ってさっさとどこかへ行った。

 そう遠くはないだろうが、人混みで見失ってしまった。

 背が高いドウジを除いて。


「素敵な人でしたね。」


 キョウカが皆に聞こえるように言う。

 すると皆は黙って頷いた。

 それを見てキョウカは微笑(ほほえ)んだ。






 ドウジたち四人は宿に向かっていた。


「今更だが、俺たちも冒険者でいいのか?」


 ドウジは人混みを()き分けながらキョウカに聞く。

 キョウカも人混みに負けないように移動していた。


「いえ、私たちはただの旅人です。 ですから普通の宿に泊まりましょう。」


 キョウカは押し負けそうになりながらも、必死に前に進んでいた。

 そんな状況でドウジからの質問に答えてくれていた。

 ドウジも後からそれに気付き、若干の罪悪感を感じた。


「イェル、大丈夫?」


 キョウカは背が低いイェルコインのために手を繋いであげていた。

 実際イェルコインは人混みの中に沈んでいた。

 だが、「大丈夫、だと思う・・・。」という声だけはなんとかキョウカに聞こえていた。


 ちなみにガイも無事である。



 そんなこんなで、数分かかってやっと普通の宿屋に着くのだった。

 前の村の宿が「旅館」なら、この町の宿は「ホテル」だろう。


「大きい・・・。」


 イェルコインは言葉を()らした。

 そんなイェルコインの手を引っ張って、さっさと宿に入るキョウカたちだった。




 部屋を二つ取り、男と女に分かれた。

 旅館の時は部屋が大きかったから同じ部屋で泊まれたが、今度はそうはいきそうもない。

 ドウジとガイ、キョウカとイェルコインでそれぞれ部屋に入った。


 部屋の中はベッドが二つあり、バスルームも付いていた。


「なかなかイイ宿だね。」

「そうだな・・・。」


 ドウジの返答がどこか元気がなさそうだった。

 ベッドに座っているドウジの顔をガイが(のぞ)き込んだ。

 ドウジもそれに気付いてガイを見る。


「一体どうしたの?」


 ガイはドウジに聞いた。

 するとドウジは立ち上がり、ガイの方を向く。


「あの盗人、意味深なことを言ってたよな。」


 盗人とは、草原で襲ってきたあの男のことだ。

 ドウジの背中を刺したあの男だ。


「なんだっけ・・・。 「世界は混沌が飲み込む」だっけ?」


 ガイは一生懸命思い出していた。

 だがドウジは口を挟む。


「ああ。 それとその後だ。」


 ガイは再び思い出そうとする。

 しかし今度はドウジが言う。


「『ビバ、グラディウス!』と言っていた。」

「ああ、そうだった。」


 ガイはドウジを指しながら思い出す。

 そして出てきた「グラディウス」という単語を頭に入れる。


「"グラディウス"とはなんだろうか・・・。」

「普通に考えたら「剣」だが、間違いなく違うだろうな。」


 ドウジとガイはさらに考え出した。

 しかしなにも思いつかなかった。


 "グラディウス"という単語だけが頭の中で暴れ回る。


 その時だった。

 部屋の扉を誰かがノックした。

 それに気付いたドウジが扉まで歩み寄り、ゆっくりと扉を開けた。

 すると、目の前にはキョウカが立っていた。

 いつも被っている帽子を脱いでいた。


「お邪魔してもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ、いいぞ・・・。」


 ドウジは何の用か分からないが、とりあえずキョウカを部屋に入れた。

 キョウカは部屋の中を進むと、突然床に座った。

 そしてドウジの方を見る。


「ドウジさん、マントを貸してください。」


 キョウカは優しくドウジに頼んだ。

 ドウジも断る理由がないので、速やかに身につけていたマントを外してキョウカに渡す。

 するとキョウカはマントの穴部分を見つけると、自身のウエストポーチから「ナニカ」を取り出した。

 それは裁縫(さいほう)道具だった。


「今、直してあげますね。」


 そう言うとキョウカは器用にマントの穴を()い始めた。


「器用だな。」


 ドウジも床に座ってキョウカの裁縫を眺めている。

 ガイも同様に。


「昔からイェルの服とかを縫ったりしてましたから。」


 キョウカは喋りながらもテキパキと縫い続けている。

 ドウジとガイは夢中になって見ていた。



 しばらくしてマントの穴が完全に(ふさ)がった。

 マントと糸の色が同じなので縫い目もあんまり目立たない。


「出来ました。 はい、どうぞ。」


 キョウカが(たた)んだ状態でドウジに手渡す。

 ドウジはしっかりと「ありがとう。」とお礼を言って、マントを受け取った。

 ドウジにマントを渡すと、キョウカはウエストポーチに裁縫道具を仕舞(しま)った。


「キョウカはいい奥さんになるだろうね。」


 一部始終を見たガイが言う。

 それを聞いたキョウカは真っ赤になる。


「そ、そうですかね・・・。」


 キョウカは恥ずかしそうにそう言う。

 自身の横髪をクルクルとイジっている。



 ドウジは立ち上がるとベッドに近付き、畳まれたマントを優しくベッドの上に置いた。

 そして窓の外を見る。


「明日まで時間はあるな。」


 ドウジは(つぶや)く。

 するとキョウカも立ち上がった。


「なら、町中を歩きませんか?」


 キョウカがドウジを誘う。

 ドウジが振り返り、キョウカを見る。

 キョウカは微笑んでいた。


「どうしてだ?」

「え、えっと・・・、強い旅人たちが『魔獣討伐』のために集まっているハズなので、少しだけ探しに行きませんか?」


 キョウカの言葉を聞いてドウジは天井を見て考え出した。

 数秒後、キョウカの方を向いて口を開く。


「分かった、行こう。」

「決まりですね。」


 そう言うとキョウカは後ろを向き、ガイの方を向く。


「ガイさんもどうです?」


 キョウカはガイも誘う。


「いや、ボクは森に隠した甲冑たちの様子を見に行くよ。」

「そうですか。」


 ガイはそう言って先に部屋を出て行った。

 部屋に残ったのはドウジとキョウカのみ。


「イェルコインはどうした?」

「先に一人で出かけました。」


 窓を手で指しながら言うキョウカ。

 そしてすぐにドウジの方へ向き直す。


「私たちも行きましょう。」


 そう言ってドウジの腕を触った後に部屋を出て行った。

 ドウジも黙ってキョウカについて行くのだった。

 ベッドの上に置いたマントを早速羽織って。




 ドウジとキョウカは宿を出た。

 キョウカは再び帽子を被っている。

 するとドウジがキョウカに話しかける。


「素直に『町を見たい』と言えばいい。」

「・・・バレてましたか。」


 実は「強者を探す」というのは建前で、キョウカの本当の目的は「町の観光」だった。

 キョウカは後頭部を手で触りながら上目遣いでドウジを見る。


「分かっていてついて来てくれるのですか?」

「誘われたからな。」


 ドウジは一言そう述べて歩き出す。

 そんなドウジの背中を見てキョウカは微笑み、置いていかれないようにドウジの隣に並んで歩き出した。






 場所が変わって"住宅街"。

 ちょうどそこには先に出歩いていたイェルコインがいた。

 彼女は都会の町並みに驚いていた。


 通行人はたまに人が何人か通る程度で、先程の場所と比べると静かだった。

 一人の男がイェルコインの横を通り過ぎる。

 次の人が横を通るまで数十秒はかかるだろう。



 その時だった。

 後ろから男の叫びが聞こえてきた。


 イェルコインは慌てて振り向くと、そこにいたのは頭が包帯で覆われた男がこちらに向かってきていた。

 よく見ると後ろで先程イェルコインの隣を通った男が地面に倒れていた。


 包帯を頭に巻いた男が、どんどんイェルコインに近付いてきている。

 イェルコインは突然のことで逃げるかどうか判断に困ってしまっていた。







【登場キャラクター】

●「黄金龍討伐メンバー」

天津道志アマヅ ドウジ

挿絵(By みてみん)

主人公(異世界転移者)。

身長約3メートルで筋骨隆々の男。

結構察しが良い。


・キョウカ・アキノ

挿絵(By みてみん)

メインヒロイン。

人間の魔法使い。

裁縫は得意。


・イェルコイン・アレクサンドラ

挿絵(By みてみん)

獣耳族(ビーシアン)と呼ばれる種族の聖魔導師。

犬の耳が生えている。

キョウカの親友で、愛称は「イェル」。

背が低いため人混みは苦手。


・ガイ

挿絵(By みてみん)

甲冑に憑依している幽霊。

兜や鎧などの部位をそれぞれで浮かばせて、動かすことができる。

また、数体の甲冑を同時に動かせられる。



●同行者

・シグ・マーチャント

挿絵(By みてみん)

ダークエルフの女戦士。

悪人は倒すが、殺しはしない。

目的地に着いたため、ドウジたちと別れる。



●その他

・包帯男

挿絵(By みてみん)

観光中のイェルコインの後ろに現れた、顔に包帯を巻いた男。


・通行人の男

観光中のイェルコインとすれ違った男。


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