13.第3話「異種族の戦士たち」(2/11)
髭面の男が店から出て行ってから数十分後。
悪かった空気は再び元の空気に戻った。
ドウジたちのもとにも料理が運び込まれ、それぞれが食事を始める。
「しっかし、違う世界から来たとはねぇ・・・。」
シグはドウジを見て言う。
アレから数十分の間の時間を使って、シグにドウジが別の世界から来たことを伝えた。
「ああ。 その証拠にエルフというモノを初めて見た。」
ドウジは木のジョッキで麦茶を飲みながら言う。
昼間から酒を飲むようなことはドウジはしない。
「あ、そうなんだ。」
ドウジの話を聞いたシグは、自分の尖った耳を触りながら言う。
当然だが顔や体と同じく褐色である。
「エルフとダークエルフの違いはなんだ?」
「ははっ、そうやって面と向かって興味を持たれると、なんだか照れちゃうな・・・。」
興味津々のドウジを見て、シグは自分の耳をイジりながら照れている。
するとキョウカ、イェルコイン、ガイもシグを見ていた。
どうやら他三人も興味があるようだ。
シグはそれに気付き、姿勢を正す。
そして咳払いをして喋り始めた。
「まあ、そうだな〜・・・。 教えや規律を大事にしてるエルフと違って、ダークエルフは好き勝手に生きているって感じかな。」
シグの説明を聞くと四人は少しだけ考え込み、しばらくして理解した反応を見せた。
「優等生と劣等生みたいなものか。」
「ちょっとイェル!!?」
イェルコインの発言に全力でツッコむキョウカ。
それを聞いたシグは笑った。
「まあ、間違いじゃないかもね。」
シグは笑いながら答える。
キョウカはイェルコインの代わりに何度も頭を下げて謝り、シグも「まぁまぁ」というジェスチャーをする。
しばらくして、今まで隅の方の席に座っていたゴブリンの男が立ち上がった。
近くに置いていた彼の荷物と思える剣と盾を拾い、机に代金を置く。
そして店から出て行った。
やはりゴブリン男が出ていく瞬間をほとんどの店内の人間たちが眺めてしまっていた。
そして彼が出ていくと、何事もなかったかのように再び騒ぎ出す。
「なぜゴブリンは蔑まれているのか?」
ふとドウジが疑問に思った。
そしてその言葉を聞いたキョウカが説明し出した。
「私が生まれる前の話なのですが、他種族同士が共存し合うようになった後も多くのゴブリンたちが他種族相手に暴行や窃盗を働いたそうなのです。 そして今も度々ゴブリンが問題を起こすそうなので、ゴブリンは他種族から嫌われている一種族になってしまったのです。」
するとキョウカはゴブリン男がいなくなった後の席を見つめ、話を続ける。
「彼がどうかは分かりませんが、何の問題も起こしてない子孫のゴブリンたちまでもが酷い目に遭うことも・・・。」
キョウカは言葉を途切らせた。
彼女も同情しているのだろう。
「だけど、他種族から嫌われているのを理解しているから、無害なゴブリンはこういう他種族が集まる場所には近付こうとしないハズなんだけどなぁ・・・。」
イェルコインもキョウカの話に続くように喋る。
目の前に置いてあるパインジュースをストローを使って飲みながら。
ドウジもゴブリン男がいた席を見つめる。
「同種族同士でも共存が難しいこともある。 他種族との共存はさらに難しいというわけか・・・。」
そうドウジが呟いた。
「だけど、私たちのように共存できることもある。」
やや重くなった空気を壊すかのようにシグが口を挟む。
事実この席には二人の人間と、一人の獣耳族、幽霊、ダークエルフが楽しく食事をしている。
ドウジたちも互いを見る。
そして微笑した。
店を出て、町に向かうためにしばらく歩き続けた五人。
時刻はまだ昼である。
「うー・・・。」
するとイェルコインから変な声が出てきた。
隣にいたキョウカがイェルコインを見ると、彼女はしんどそうだった。
「さっき休んだでしょう?」
「食べてからの運動は、結構辛い・・・。」
どうやら食べ過ぎでクラクラしているようだ。
キョウカは思わずため息を吐いた。
すると近くにいたドウジが後ろからイェルコインの脇辺りを掴んだ。
「きゃん!?」
イェルコインはビックリして、思わず声を上げた。
それに反応して他の二人もイェルコインの方を向く。
ドウジはイェルコインの脇を掴むと、そのまま持ち上げた。
そして自身の肩の上に座らせた。
「これなら大丈夫だろ?」
ドウジは真横にいるイェルコインに言う。
イェルコインは突然のことに驚いていたが、やがて冷静になる。
「あ、ありがとう。」
イェルコインは戸惑いながらもお礼を言うが、次の瞬間持っていた杖でドウジの頭を叩いた。
コンッ っていうイイ音がした。
「だが、いきなりはやめろ!」
イェルコインはビシッとそう言った。
ドウジも素直に「すまん。」と謝る。
しばらくして、ようやく町が見えてきた。
まだ遠いが。
「あそこが目的地の町よ!」
シグが遠くにある町を指して皆に言う。
「やっとか・・・。」
ドウジの肩の上にいるイェルコインが言葉を漏らす。
するとドウジが急に「オ゛ッ!」という変な声を出した。
当然他四人はドウジを見る。
肩に乗っていたイェルコインが「どうした?」と言ってドウジを見る。
するとイェルコインは視線を下の方に移動させ、ドウジの背中を見た。
・・・そこには、一人の男がマント越しにドウジの背中にナイフを突き刺していた。
「あっ!?」
イェルコインが声を上げると、ドウジは素早く自身の後ろにいる何者かを掴んだ。
そして男の上着を掴んで目の前につまみ上げた。
その男は、先程シグが成敗していた盗人だった。
「あ、あんたは!?」
シグが盗人に気付いたら、盗人はシグの方を見る。
「よう、さっきぶりだな!」
盗人はニヤニヤしながらシグを見る。
シグは腰に下げていた武器である斧を持つ。
「なにしに来たのよ!」
シグは盗人を睨む。
しかし盗人はヘラヘラしていた。
そして急に喋り出した。
「世界は混沌が飲み込む。 ビバ、グラディウス!!」
盗人は謎の言葉を吐くと、着ていた上着を素早く脱ぎ去りドウジの手から脱出する。
着地と同時にどこからか別のナイフを取り出してシグに襲いかかった。
シグは隙をつかれて無防備になっており、このままではナイフが深く突き刺さってしまうだろう。
だが、盗人の横から固い籠手が飛んできた。
ガイの籠手だ。
盗人は頬に籠手が勢いよくぶつかり、横方向に吹っ飛ぶ。
そして草むらの中に突っ込んでいった。
ガイは「ふー・・・。」という声を出した後、飛んでいった籠手をロケットパンチのように元の場所である腕部分に付けた。
盗人は草むらで伸びている。
頬が青く腫れ上がっていた。
「ドウジさん、お背中が・・・。」
いつの間にかドウジの背後にいたキョウカ。
キョウカの声でドウジも背中を気にする。
「おっと、そうだった。」
ドウジは背中に刺さっているナイフを抜こうとした。
しかしそれをキョウカが止める。
「だ、ダメです! こういうのは抜かない方が・・・!」
ドウジは気にせず抜こうとするが、心配そうなキョウカの顔を見て抜くのをやめた。
「これは早く町の行かないと・・・!」
シグも慌てていた。
しかしドウジは「落ち着け。」と言う。
「これくらいは慣れている。 少し痛いくらいだ。」
ドウジは皆を落ち着かせようとそう言う。
しかし落ち着くことはなかった。
「ボクが先にドウジを町まで運ぶよ。」
「お願いします!」
ドウジの意見を聞かずにガイはかなり後ろで隠していたもう一体の甲冑を登場させて、二体の甲冑でドウジを掴んで宙に浮いた。
そして遠くに見える町まで飛んでいった。
「え、なに今の・・・!? それにさっきも腕が・・・。」
シグはガイの奇行を見て不思議がっていた。
キョウカはシグにガイのことを話していなかったのを思い出し、すぐに説明し始めた。
「実は、ガイさんは幽霊なのです。」
「え、ええっ!?」
今まで気付きもしなかったことを聞かされて驚愕する。
遠くに飛んでいくガイを見ながら。
数十分後、キョウカとイェルコイン、シグは町に到着した。
ちなみに盗人はあの後、縄で縛って動けないようにしてきた。
「ここが目的の町・・・。」
キョウカは町を見渡す。
とても栄えており、町民で溢れている。
「人が多い・・・。」
「冒険者専用の宿とかあるからね。」
シグの言葉を説明すると、冒険者専用の宿があるのでここを拠点にする冒険者が多いのだ。
つまり、最悪なことが起きなければ町は安全ということだ。
「ドウジさんたちはどこに行ったのでしょう・・・?」
キョウカは町を見渡した。
あんなに目立つ二人の姿が見当たらないのである。
「とりあえず、病院へ向かいましょう。」
シグはそう言ってキョウカとイェルコインを手招きする。
先導してくれるようだ。
キョウカたちはお言葉に甘えてついていくことにした。
かなりの人混みの中を進み、町の病院に着いた三人。
病院の中に入ると、見覚えのある姿の人物がいた。
「ガイ!」
イェルコインがガイを見つけ、早歩きで近付いた。
キョウカとシグも近付く。
「ドウジは大丈夫。 もうすぐ出てくる。」
ガイがそう言うと、本当にドウジが皆の前に姿を現した。
「ドウジさん! よかったぁ〜・・・。」
キョウカはホッとした様子を見せた。
「あの黄金龍の攻撃をまともにくらった俺が、こんなことで死ぬとでも思ってたのか?」
「あ、そうですねぇ・・・。」
ドウジの指摘を聞いて頭をかくキョウカ。
するとドウジは外していたマントを広げてキョウカに見せた。
「だが、キョウカから貰ったマントに穴が空いてしまった・・・。」
その言葉通り、マントにはナイフで刺された跡である穴が空いていた。
キョウカはしばらく穴を眺めたが、やがて微笑みながらドウジの顔を見る。
「大丈夫です! これくらい縫えば元に戻ります。」
「そうなのか?」
キョウカは「ええ!」と笑顔で答えた。
その笑顔を見たドウジの顔は、無表情なのに僅かに微笑んで見えた。
【登場キャラクター】
●「黄金龍討伐メンバー」
・天津道志
主人公(異世界転移者)。
身長約3メートルで筋骨隆々の男。
ナイフで刺された程度では、軽傷にしかならない。
・キョウカ・アキノ
メインヒロイン。
人間の魔法使い。
心配性な一面を持つ。
・イェルコイン・アレクサンドラ
獣耳族と呼ばれる種族の聖魔導師。
犬の耳が生えている。
キョウカの親友で、愛称は「イェル」。
小柄な見た目の通り、体重もかなり軽い。
・ガイ
甲冑に憑依している幽霊。
兜や鎧などの部位をそれぞれで浮かばせて、動かすことができる。
また、数体の甲冑を同時に動かせられる。
●同行者
・シグ・マーチャント
ダークエルフの女戦士。
胸と同じく、器も大きい。
●その他
・ゴブリン男
ホブゴブリン。
●悪人
・ゼラス・ヴァイスト
ボロボロの服を着た盗人。
復讐のためにドウジをナイフで刺す。
「ビバ、グラディウス」という意味深な言葉を言い放つ。