11.第2話「洞窟の戦い」(6/6)
しばらくして、キョウカの魔法を使って怪物を燃やしていた炎を消した。
もはや怪物の姿は原形をとどめていない。
少し休んだのでイェルコインも歩けるくらいには回復していた。
「そういえば甲冑が全身でコッチに来てるのに、どうして魔法陣は動いたままなんだ?」
イェルコインは甲冑を指しながらそう言う。
すると甲冑は上空にある魔法陣を指しながら言う。
「ボクが動かすことができるのは一つだけじゃないからね。」
その言葉を聞いてイェルコインは魔法陣を見る。
すると魔法陣からもう一体の甲冑が現れて、こちらに向かって手を振っている。
「え!?」
イェルコインは驚いて、二つの甲冑を何度も見る。
その光景に甲冑は思わず笑う。
「とりあえず分かったことは、霊体は人の姿をしていないということか。」
ドウジは冷静にそう言う。
甲冑が分離をして、床に散らばる。
「よし、じゃあ引き上げるからどれかに掴まって。」
甲冑は床に落ちている兜から声を発する。
その言葉を聞いてイェルコインは鎧の上に乗り、キョウカは靴に掴まる。
しかしとあることに気付く。
「あれ、ドウジさんは?」
キョウカは気付いた。
近くにドウジがいないことを。
「ドウジならあそこにいる。」
鎧の上に乗っているイェルコインが遠くを指す。
すると、遠くからドウジがこちらに向かってきていた。
よく見ると、なにかを抱えていた。
「すまん、少し遅くなった。」
ドウジは合流した。
そこで初めて気付くが、ドウジは怪物から切断した触手を持ってきていた。
「ドウジさん、それは・・・。」
キョウカが聞くと、ドウジは冷静に答える。
「口だけじゃ信じてもらえるか分からないから、証拠として持っていく。」
そう言うとドウジは籠手を掴む。
これで無事に全員揃った。
「よし、じゃあ戻るぞ。」
甲冑はそう言うと宙に浮かび上がり、魔法陣に向かって上昇し始めた。
もう二度と来ないであろう風景を四人は眺める。
やがて魔法陣を通過するのであった。
遺跡内に帰ってきた四人。
甲冑の防具から離れて自分の足で地面を踏む三人。
そして扉を開き、小部屋から出る。
複数の甲冑が飾ってある部屋に移動した。
そして幽霊が操作している甲冑の内、バラバラじゃない片方の甲冑を元の場所に戻した。
「ついに終わったのか・・・。」
バラバラになっていた甲冑は合体して、人の姿になる。
そして地面に座り込んだ。
「幽霊なのに疲れたのか?」
ドウジが冷静な声色で言う。
「幽霊にも心はあるさ。」
甲冑は笑いながら言い返した。
それがジョークなのか本音なのかは不明だが、真偽が重要ではないことは全員が分かっていた。
キョウカは魔法陣がある部屋の扉を見る。
「それにしても、誰が怪物を魔法陣に閉じ込めたのでしょう。」
ふとキョウカがそう言う。
確かに怪物自身があの世界に入るメリットがない。
ならば、誰かがあそこに怪物を封印したのだろう。
「それより、お腹減ったぁ・・・。」
そんな疑問をイェルコインの一言が吹っ飛ばした。
キョウカはクタクタになっているイェルコインを見て微笑む。
「まずはここを脱出するか。」
そう言ってドウジは大きな触手を抱えたまま、遺跡を出るために歩き始める。
彼に続いてキョウカとイェルコインも後ろから追いかける。
ただ、甲冑は動こうとしなかった。
なぜなら甲冑は旅の仲間ではないからだ。
しかしドウジはしばらく前に進むと、急に立ち止まった。
そして後ろを振り向く。
甲冑がいる方向だ。
「お前も来るか?」
ドウジは一言そう述べる。
キョウカとイェルコインも同様に甲冑の方を向く。
甲冑はソワソワしていた。
しかし全く答えようとしない。
するとイェルコインが甲冑に近付き、鎧に手を当てる。
「来てくれないか? あんたは強いから頼りになる。」
イェルコインは仲間にする気満々だった。
それを見るキョウカは、まるで自分の子を見るような感情を抱いていた。
「えーと、じゃあ、よ、よろしくお願いします・・・。」
甲冑はぎこちなくそう答えた。
その言葉を聞くとイェルコインは笑顔を見せて、甲冑の籠手握って引っ張る。
そしてドウジたちのもとへ連れて行く。
「今日からコイツもアタシたちの仲間だ!」
イェルコインは胸を張ってドウジたちに言う。
それを見てドウジとキョウカは微笑む。
「よ、よろしく!」
甲冑は二人に向かって敬礼をした。
この瞬間、旅の仲間が一人増えたのだった。
遺跡を出ようと来た道を戻る四人だったが、ある場所で止まっていた。
あの大穴だった。
「忘れてたぁー・・・。」
イェルコインは座り込みながらそう呟く。
先程まで勇敢だった彼女は、もう普段の彼女に戻っていた。
ドウジは早速棒を掴もうとするがその前に甲冑が声を上げた。
「ここはボクに任せなさい!」
そう言うと甲冑はバラバラになって宙に浮く。
そして鎧をイェルコインの前に、靴をキョウカの前に、籠手をドウジの前に移動させる。
「そうか、飛んでいけばいいのか!」
イェルコインは急に元気になって、鎧の上に乗った。
キョウカも靴に掴まる。
ドウジも籠手を掴む。
次の瞬間、バラバラの甲冑は一斉に大穴の上を飛ぶ。
キョウカは既に出していた光の玉を並行して移動させていた。
そして、少々長くなった大穴の移動も軽々と終えた。
しかし大穴を通過しても甲冑は飛ぶのをやめない。
そのままイェルコインたちを連れて移動する。
「ちょっと、もう大穴過ぎたぞ。」
「いや、このまま出口まで向かう!」
イェルコインの言葉に対してすぐに返答する甲冑。
そのまま自分の家のようにサクサクと移動をする。
数分後、本当に遺跡を抜けて外に出たのだった。
外はすっかり暗くなっていた。
夜になっていたのだ。
イェルコインはすぐに鎧から降りて、外の空気を吸う。
ドウジとキョウカも籠手と靴から手を離す。
すると甲冑は合体して人型になる。
「ありがとう。」
キョウカが真っ先に甲冑にお礼を言う。
ドウジとイェルコインも甲冑を見て微笑む。
甲冑は頭をかいて、照れていた。
とりあえず、ドウジたちは村に戻ろうとしていた。
しかし甲冑は心配そうだった。
「ボクも行っていいのかな・・・。」
今まで助けるためとはいえ、旅人たちに危害を加えていた甲冑。
そんな自分が人と会っていいのか疑問に思っていた。
しかしすぐにドウジが言葉を送る。
「当たり前だ。 お前は俺たちの仲間だろ?」
後ろを向かずにそう述べる。
それを聞いた甲冑は微笑んだ。
村に入ると、見張りのような村人が四人を見つける。
「あんた達は昼間の・・・。」
村人は顔を覚えていたようだ。
その村人にドウジは言う。
「村長に会わせてくれ。」
そう一言述べた。
ドウジたちは村長の家で、村長たちに洞窟内で起きたことを説明した。
遺跡内のこと、甲冑のこと、そしてなにより怪物のことを。
「で、それがその怪物の触手だということか。」
村長はドウジたちに聞く。
四人は無言で頷く。
「・・・まあ、その触手が証拠だから信じるしかないだろう。」
村長は冷静にそう言う。
そして立ち上がり、近くで話を聞いていた村の男たちに話しかける。
「明日、洞窟を封鎖しろ。 旅人たちが入らないようにする。」
村人たちは村長の言葉を聞いて了解する。
そして次々と家から出て行き、家の中にいる村人は村長と一人の老人のみとなった。
「感謝する。 おかげで洞窟の心配をしなくて済むようになった。」
村長は四人に対して頭を下げる。
後ろの老人も同様に。
そして頭を上げて話を続ける。
「お礼は明日改めてさせてもらう。 今日は村の宿で休んでください。」
「分かりました。」
キョウカが返答すると、四人は立ち上がる。
そして家を出て行こうとする。
「それと、念のためにこの触手はこの村で預からせてくれ。」
「好きにしてくれ。」
ドウジは一言そう述べて、家を出た。
続いてキョウカ、イェルコインも家を出る。
そして最後に甲冑が家を出ようとした。
その時に甲冑は村長の方を向く。
「ボクのことを恨んでいますか?」
甲冑は村長に聞いた。
「我らも同じ立場なら似たようなことをするだろう。 事実、ほとんどの旅人は忠告を聞かなかった。」
村長はそう答えると、最後に優しく甲冑に言葉を送る。
「恨んではいない。 むしろ感謝している。」
その言葉を聞いて甲冑は心の底からホッとした。
そして村長にお辞儀をして、家を出た。
四人が家を出た後に、村長と老人は話を始めた。
「村長、この触手ってまさか・・・。」
「ああ、間違いない。 あの忌々しい戦争の残りカスだ。」
村長はそう言うと、触手に近付く。
そして再び口を開く。
「あの『魔刃大戦』にいた、怪物の腕に生えていた触手だ・・・。」
村長は深刻な顔をしながら触手を睨みつけている。
年老いた村人も頭を抱えていた。
場面は変わって宿屋。
ドウジたち四人は怪物討伐の大手柄により、無料で泊まれることになっていた。
この村に来た時と同じ部屋に泊まることにして、四人は既に部屋の中にいた。
「疲れたぁー・・・。」
イェルコインは早速床に敷いた布団に横になっていた。
来た時と同じだ。
「イェル、寝るのは先にちゃんと風呂に入ってからよ!」
キョウカがまるでお母さんのようにイェルコインを叱る。
イェルコインも「へーい。」とテキトーな返事をした。
「まさか、こうして仲間と旅に出れるとはね。」
部屋の隅で座る甲冑は平和な目の前の光景を見て、思わずそう呟く。
「そういえば、お前のことは何って言えばいいのか?」
反対側の隅で座っているドウジがふと、そう聞く。
キョウカも「そう言えば・・・。」と甲冑の方を向く。
「名前か・・・。」
甲冑が無い腕を組みながら考える。
ドウジとキョウカも考え出すが、布団で寝ていたイェルコインが言葉を発した。
「鎧だから『"ガイ"』でいいんじゃない?」
イェルコインは眠そうな声でそう言う。
「ガイ・・・。」
甲冑は「ガイ」という名前を口に出す。
「"男"という意味でも「ガイ」と言うな。 ナイスガイ などの良い意味もあるし。」
ドウジも続けて言う。
キョウカだけは黙って甲冑を見ている。
数秒間悩んだ結果、甲冑は言う。
「俺のことは、今日から「ガイ」と呼んでくれ!」
甲冑はそう声を上げた。
こうしてドウジたちは新たな仲間 "ガイ" と共に、黄金龍ナルキを討伐する旅を続けるのだった・・・!!
【登場キャラクター】
●「黄金龍討伐メンバー」
・天津道志
主人公(異世界転移者)。
身長約3メートルで筋骨隆々の男。
・キョウカ・アキノ
メインヒロイン。
人間の魔法使い。
・イェルコイン・アレクサンドラ
獣耳族と呼ばれる種族の聖魔導師。
犬の耳が生えている。
キョウカの親友で、愛称は「イェル」。
機嫌が良かったからなのか、ガイを仲間に誘った。
・ガイ
甲冑に憑依している幽霊。
兜や鎧などの部位をそれぞれで浮かばせて、動かすことができる。
また、数体の甲冑を同時に動かせられる。
怪物との戦いをキッカケに、討伐の仲間に加わる。
●その他
・ゴイマー・スーゴイ
村の村長。
過去にナニカあったらしく、「魔刃大戦」と呼ばれる戦争のことを知っている。
・年老いた村人
村長と同様に過去にナニカあったらしい。
【怪物】
・触手の怪物
四足歩行の禍々しい怪物。
既に焼け死んでおり、原形をとどめてない。