10.第2話「洞窟の戦い」(5/6)
ドウジは怪物の触手が放つ「薙ぎ払い攻撃」を腕で受け止め続けた。
「下手に避けて怪我をするよりはコチラの方がマシだろう」という判断だ。
甲冑は怪物の隙ができる瞬間を待っていた。
そして次の瞬間、怪物から放たれた触手をドウジが捕まえた。
しっかりと押さえつけられて、怪物は触手を動かすことができない。
甲冑は隙ができたことを確認し、触手の付け根付近を狙って剣で斬り裂く。
そして触手を切断する。
「今だ!」
その言葉と共に二人は魔法陣を目指す。
甲冑は宙を浮くことができるので、魔法陣まで一直線に行ける。
しかしドウジのことも忘れず、彼に籠手を渡す。
ドウジは籠手を掴むと地面を思いっきり蹴飛ばして、魔法陣目掛けて跳び上がった。
そして甲冑の籠手もドウジを引っ張り上げるように上昇している。
二、三秒後、ドウジと籠手は勢いよく魔法陣を通過した。
場面は変わって遺跡の中。
魔法陣があった部屋の中だ。
ドウジは勢いよく魔法陣から現れ、そのまま天井に激突した。
しかし何事もなかったかのように天井から離れて、魔法陣を踏まないように地面に落ちる。
部屋には先に脱出したイェルコインとキョウカがいる。
「ドウジさん!」
声を上げたのはキョウカだった。
やっと目を覚ましたようだ。
魔法陣はしばらくして、光を失って動作を止めた。
部屋にはドウジ、キョウカ、イェルコインの三人と、幽霊甲冑が一体いる。
当然三人の視線は甲冑に集まる。
「まずは礼を言う。」
最初に言葉を発したのはドウジだった。
そして喋り続ける。
「だが、平気だったのか?」
甲冑は生前の影響か、怪物を恐れていた。
しかし確かに甲冑は勇敢に怪物と戦っていた。
「"平気"と言えば嘘になるけど、ヤツを倒したい気持ちは昔からあった。」
甲冑は真面目に答える。
「キョウカから聞いたよ。 あの怪物から皆を守るために追っ払っていたんだってな。」
イェルコインは若干怒っているような声色で喋る。
どんな理由があっても、自分を痛めつけたからだろう。
「すまなかった。 分かってくれとは言わないけど、これがボクの精一杯だったんだ。」
甲冑は頭を下げて、イェルコインに言う。
イェルコインも頑固ではないので、とりあえず許した様子を見せた。
ドウジは他三人を見る。
「なんとかしてヤツを倒さねば。」
ドウジの言葉を聞いて、三人は無言で頷く。
最初からここにいる全員はそのつもりだった。
「だけど、全く倒れる気配がないくらいタフだし、部位を切断してもまた復活する・・・。」
イェルコインは「どうしたらいいのか」という気持ちで言う。
怪物の弱点が一切分からず、どう戦えばいいのか思いつかない。
四人は考え込んでしまった。
しばらくの沈黙が続いた後に、突然ドウジが喋り出した。
「案外、単純な方法でいいのかもな。」
そう述べた。
その言葉を聞いた三人は何のことか理解できず、ただドウジを見た。
しばらくして、四人は魔法陣を使って再び怪物がいる空間へやってきた。
やはり地面に落下すると、地面がまるでトランポリンのように弾む。
そのおかげで落下死の危険性は無かった。
四人は怪物を探す。
「あそこだ!」
甲冑が真っ先に見つけ、場所を指す。
そこには確かに怪物がいた。
「よし、作戦開始だ。」
ドウジはそう言って怪物のもとへ向かう。
甲冑は兜と、それぞれ剣を握っている二つの籠手のみを宙に飛ばした。
そして残った鎧などは待機しているキョウカとイェルコインの近くにいる。
怪物に接近したドウジは、やはり怪物の触手に襲われる。
怪物はドウジに向かって触手で薙ぎ払うが、既に何度も受けた攻撃がドウジに効くハズも無く、ドウジは逆に触手を掴んだ。
そして怪物を勢いよく振り回し、上空に投げ飛ばした。
宙を飛ぶ怪物。
怪物の飛んでいく先には二つの籠手がいる。
剣を握っている籠手たちは怪物が近くまで飛んできた瞬間、素早く動き始めた。
まずは触手を斬り裂き、次は足を斬る。
一本では切断できなかったが、二本なら可能。
四本ある足の内、前足である二本の足を斬り落とした。
前足と触手を失った怪物は、キョウカとイェルコインがいる方向に飛んでいく。
「深き地獄の業火よ、愚なるモノたちに裁きを!」
そこではキョウカが呪文を唱えている最中だった。
「やれ、キョウカ!」
イェルコインの叫びと共に、キョウカは「バーニング!」と叫び、炎の魔法を放った。
すると怪物の体が一瞬で燃え上がった。
そしてイェルコインの作った透明な壁に、燃えながら飛んできた怪物がぶつかる。
そのままキョウカたちの目の前の地面に落下して、そのまま怪物は燃え続ける。
斬られたことで体内にまで炎が入ってきており、怪物はさすがに苦しんでいる。
今度こそ大ダメージを与えることができたのだ。
これがドウジの作戦だった。
斬った場所から体内に炎を送り込むという、とても惨い作戦だ。
そのため、あまり使いたくない手だった。
しかし、そうも言ってられない状況となった今ではコレしかないのだ。
・・・だが、怪物はまだ動いていた。
前足が斬られたため立つことはできないが、後ろ足を動かしていることが炎の中でも分かる。
「まだ死んでないのか・・・!?」
イェルコインは目の前の燃える怪物に驚く。
同じくドウジやキョウカ、甲冑もだ。
「深き地獄の業火よ・・・。」
だが、キョウカはすぐに作戦にはなかったアドリブでの行動をし始めた。
「バーニング!」
既に燃えている怪物をさらに燃やしたのだ。
火の威力は明らかに上がっているが、それでも怪物は動き続ける。
「こうなったら・・・!」
キョウカは静かに汗を流しながら怪物を見ている。
その状態でイェルコインに命令する。
「イェル! 怪物の周りにドーム状の透明な壁を張って!」
そう叫ぶ。
イェルコインは「え!?」と言うが、キョウカは真剣な顔を見たイェルコインはキョウカを信じて言われた通りにする。
イェルコインが杖を怪物に向けると、怪物をドーム状の透明な壁に閉じ込めた。
怪物は密室空間で燃え上がっている。
「バーニング!」
キョウカはさらにダメ押しと言わんばかりに炎の魔法を怪物に放つ。
怪物はさらに燃え上がり、その光景はまるで地獄だった。
遠くからドウジが戻ってきて、甲冑も兜と籠手が鎧のもとへ帰ってきて合体した。
イェルコイン以外の三人は、燃え上がる怪物を眺めていた。
怪物は今まで以上に暴れ回っていた。
流石に体内にまで炎が入ってきて、さらに密室に閉じ込められているからだろう。
身体を肉眼では見えない透明な壁に何度もぶつけている。
「く、くぅ・・・!」
すると、イェルコインが辛そうな顔をしていた。
イヌ耳はピンと立っているが、よく見ると身体が震えていた。
「イェル!?」
キョウカは「ナニカ」を察し、震えながら杖を握っているイェルコインの手を握った。
異変を感じたドウジもイェルコインのもとへ近付く。
「まさか、限界が近いのか?」
ドウジは震えているイェルコインを見て、そう言う。
「想像以上に怪物の力が強いのでしょう・・・。」
必死になっているイェルコインの代わりにキョウカが答える。
イェルコインは涙を流しながらも歯を食いしばって頑張っている。
怪物は燃え続けているが、暴れることをやめない。
イェルコインは辛そうな声を上げ始めた。
イヌ耳も下がり始めた。
そろそろ限界が近いのだろう。
するとドウジは、既に握っていたキョウカの手ごとイェルコインの手を握った。
イェルコインは辛そうな顔をしながらドウジの方に目を向ける。
ドウジは無言でイェルコインを見つめる。
片目しかなくて白目をむいている不気味な強面顔だが、その顔には優しさがあることをイェルコインは感じ取っていた。
イェルコインは反対側にいるキョウカの顔も見る。
分かりやすく優しい顔をしていた。
そして後ろから甲冑が全身で現れて、彼もイェルコインの手を握った。
「頑張れ、あんたが頼りなんだ!」
甲冑は激励の言葉をイェルコインに送った。
初対面の彼からも信頼されていることをイェルコインは理解する。
三人の気持ちがイェルコインに伝わり、先程まで辛そうな顔をしていたイェルコインの顔に勇ましさが戻った。
イェルコインは怪物に視線を戻し、怪物を閉じ込め続ける。
怪物は燃え続けながらも、凄い勢いで壁に体当たりしている。
だが、三人に励まされたイェルコインにはそんな攻撃は苦ではなかった。
さらになんとイェルコインはドーム状の壁をさらに小さくして、怪物が暴れられるようなスペースを無くした。
まるで壁に押しつぶされそうな状態になり、その状態で燃え続ける。
暴れていれば苦しさを多少は紛らわすことができるが、動けないとなれば話は別。
怪物は大人しく燃え続けなければならなかった。
怪物の不気味な奇声が鳴り響く。
しかし今のイェルコインは恐怖より勇気が勝っている。
なにより仲間たちがついている。
彼女は負ける気がしなかった。
もはや時間の問題だった。
怪物の体内は炎によって燃やされ続けた。
流石の怪物もハッキリと元気が無くなっていた。
挟まれる壁の中で動かなくなったのだ。
イェルコインは油断はせず、まだ壁を張り続ける。
「バーニング!」
するとキョウカはイェルコインの手から自分の片手を離し、もう一度怪物に炎の魔法を放った。
しかし怪物は全く動かなかった。
それを見たキョウカはイェルコインを見る。
「イェル。」
キョウカは優しく声をかけた。
その言葉を聞いてイェルコインはついに透明な壁を消した。
次の瞬間、怪物だったモノが勢いよく地面に倒れた。
そして燃え続けていた。
怪物だったモノを四人は眺める。
とんでもない強敵だったが、今の姿はまるで「踏み潰された虫」のようだった。
「や、やった・・・。」
イェルコインはそう言うと、身体の力が抜けて後ろに倒れそうになる。
それに気付いたドウジとキョウカはイェルコインを支えようとする。
ドウジの方が早く、彼がイェルコインを支える。
キョウカは支えようとした手で、ぐったりしているイェルコインの手を握った。
「お疲れ様、イェル。」
優しくイェルコインに声をかける。
キョウカは片手でイェルコインの頭を撫でた。
そのせいか彼女のイヌ耳がピクピクしていた。
「へへっ、楽勝よ・・・。」
とてもクタクタな状態にも関わらず、相変わらず強気な言葉を吐いた。
それを見てキョウカも微笑む。
甲冑は怪物だったモノに近付く。
静かに炎がパチパチと鳴っており、怪物が動く気配はない。
「本当にやっつけちまったのか・・・。」
甲冑は驚きや喜びなどの感情を混ぜて、そう一言述べた。
そして勇敢な三人の方を向いて、彼らを眺めた。
【登場キャラクター】
●「黄金龍討伐メンバー」
・天津道志
主人公(異世界転移者)。
身長約3メートルで筋骨隆々の男。
怪物を倒すための提案をする。
・キョウカ・アキノ
メインヒロイン。
人間の魔法使い。
怪物に炎の魔法を放つ。
・イェルコイン・アレクサンドラ
獣耳族と呼ばれる種族の聖魔導師。
犬の耳が生えている。
キョウカの親友で、愛称は「イェル」。
怪物倒しの功労者。
●その他
・甲冑の幽霊
甲冑に憑依している幽霊。
兜や鎧などの部位をそれぞれで浮かばせて、動かすことができる。
ドウジたちを魔法陣の外に出して、救出した。
怪物の触手と前足を剣で斬り裂く。
【怪物】
・触手の怪物
四足歩行の禍々しい怪物。
かなりのタフさを持っていたが、ついに絶命した。