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8.第2話「洞窟の戦い」(3/6)


 小さな部屋の床には、魔法陣が青白い光を放っている。


「遅かったか・・・。」


 それを見下ろす甲冑は、慌てている様子だった。

 やがて光を放っていた魔法陣から光が失われ、ただの模様のようになった。


「ど、どういうこと・・・?」


 キョウカはなにが起きてるか分からず、甲冑に問いかけた。

 すると甲冑は二人の方を向く。


「あんたらの仲間は、行っちゃったようだ。」


 甲冑は魔法陣を指しながら言う。

 その言葉を聞いたキョウカはなにが起こっているか分かっていないが、イェルコインが大変な目に遭っているかもしれないと察し、魔法陣に乗ろうとする。

 しかしそれを甲冑が止める。


「やめろ、この先は危険だ。」


 両手を横に伸ばしてキョウカの通行を邪魔する甲冑。

 キョウカは横を通ろうとするが、甲冑のディフェンスは固かった。


「お願い通させて!」

「ダメだ。 あんたまで死んじまう。」


 甲冑は通す気はないようだ。


「一体なにがあると言うんだ?」


 ドウジは冷静に甲冑に聞く。

 甲冑はキョウカを見張りながら話す。


「この魔法陣の先には恐ろしい怪物がいる。 何十人もの戦士たちを(ほうむ)ってきた怪物だ。」


 甲冑はキョウカの肩を掴み、動けなくする。

 そして静かに言う。


「おそらく、ボクもその一人だ・・・。」


 その言葉を聞いて、キョウカは冷静になる。

 自分の目の前にいる者の正体が分かったからだ。


「あなた、幽霊・・・?」

「ああ、たぶんね。」


 甲冑の正体は幽霊だった。

 確かに今までの動きは幽霊にしかできないだろう。


「ここに来る戦士たちは次々と魔法陣の中へ落ち、そして帰って来なかった。 おそらく、このボクも・・・。」


 甲冑は魔法陣を見ながら語る。


「ボクにできることは、ここに戦士が来ないように追い返すことしかなかった。」

「・・・だから私たちに攻撃をしてきたのですか?」


 キョウカの言葉に甲冑は無言で(うなず)く。

 それにしてはやり過ぎていたように思えるが、甲冑の心情を理解しているつもりのキョウカはなにも言わなかった。

 ドウジも特になにも言わなかった。


「ですが、だからと言ってイェルを見捨てたりはしません。」


 キョウカはそう言って前に進み魔法陣に乗る。

 すると魔法陣は再び光り出し、キョウカはまるで地面に吸い込まれていくように魔法陣に吸い込まれていく。


「あっ!」


 甲冑はキョウカを引き上げようと手を伸ばすが、間に合わなかった。


「また、ボクは・・・。」


 甲冑は後悔してるような声質で(つぶや)く。

 するとドウジも魔法陣に近付く。


「幽霊にも恐怖心はあるのか?」


 甲冑に背中を向けて話すドウジ。


「アイツを見ると恐怖心が()く。 だから、記憶は無いけどおそらくアイツに殺されたんだと思う。」


 甲冑は自身の情けなさを感じながら背を向けているドウジに話した。

 ドウジはなにも言わず、魔法陣に足を乗せようとする。

 その直前、ドウジは甲冑に一言述べた。


「俺らは世界を守るために戦っている。 この先にいる怪物を倒し、お前も救ってやる。」


 そう言い残し、魔法陣の中に落ちて行った。

 甲冑は先程のドウジの言葉を聞いて、呆然(ぼうぜん)としていた。






 魔法陣の先は不思議な空間だった。


 真っ白な床に、真っ黒な空。

 まるで子供が描く絵のような世界だった。


 少なくともどこか遠くとかではなく、異世界のさらに異世界ということだろう。



 魔法陣の中に落ちて行ったドウジは、その不思議な空間の上空から現れ、そのまま地上に向かって落下している最中だった。

 地面に落ちたら普通ならどう考えても死んでしまう高さである。


「・・・!」


 ドウジは空を飛ぶことも、宙に浮くこともできない。

 「ならば!」と考えたドウジは、姿勢を変えて、地面に着地する気だった。


 そしてついに地面に着地する瞬間がきた。

 ドウジの両足と地面がくっつく。


 その時だった。

 白い地面にドウジの足がついた瞬間、地面がまるでトランポリンのように(へこ)んでしまった。

 白い地面はとても柔らかく、ドウジはトランポリンのようにそのまま跳ね上がった。


「!?」


 ドウジが自分の身に起こったことを理解するのに約3秒くらいかかった。

 再び地面の落ちると今度は床が固くなっていており、当然跳ねることはなかった。


 さすがのドウジも今起きた不思議なことに驚きを隠せない。

 しかしその直後「キャー!」という女性の叫び声が聞こえ、ドウジは声のした方向を見る。

 すると、そこには地面から生えた触手のような生物に捕らえられているイェルコインの姿があった。

 その近くではキョウカが彼女を助けようと触手に魔法を放っていた。

 ドウジもすぐにそちらへ向かう。


「ドウジさん、イェルを助けて下さい!」


 ドウジに気付いたキョウカはそう言いながら触手へ氷や岩などの固体を飛ばす魔法を放つ。

 おそらく触手にイェルコインが捕まっているので、炎や雷などの全体に広がる攻撃をしてないのだろう。

 キョウカの魔法を受けた瞬間、触手は激しく動く。

 それによってイェルコインも振り回されてしまう。


「め、目が回るぅ〜!!」


 直接攻撃は受けてないが、触手が暴れることでイェルコインも被害を受けていた。

 それを理解したドウジは、まず触手からイェルコインを救出しようとする。

 地面を蹴って跳び上がり、イェルコインが捕まっている近くの触手の部分に強烈なパンチを放った。

 するとその反動で触手は、捕まえていたイェルコインを手放した。


 イェルコインは4、5メートルくらいの高さから落下したが、キョウカが難なくイェルコインを受け止めた。

 ドウジも地面に着地すると、キョウカと抱えられているイェルコインの二人を抱える。

 キョウカは「え?」という声を上げるが、ドウジは説明せず触手から距離を離すように跳ぶ。


 そして3、4メートルくらい離れた場所で二人を解放した。

 触手はドウジの攻撃を受けた痛みのせいか、暴れ回っている。

 地面に何度もムチのように打ち付けたりしている。


「アイツが例の化け物か。」

「そのようです。」


 目の前にいる触手が、何人もの戦士たちを葬ってきた怪物らしい。

 とてもそうは見えないが・・・。



 触手は落ち着きを取り戻すと、急に姿が変化し始めた。

 突然触手の皮膚に無数の目が現れた。

 そして触手の先端部分が四方向に裂けて、その中央に大きな口のようなモノが現れる。

 その恐ろしい光景を見て、キョウカとイェルコインは無言で口を開ける。


「どうやらアイツで間違いないようだ。」


 ドウジは冷静に答える。


 しかし触手の変化はそれで終わりではなかった。

 触手が生えている地面に亀裂が入る。

 そして次の瞬間、地面の中から触手の根っこ部分が現れる。

 その部分は一言で表すなら、四足歩行の頭の無い怪物というところだろう。


「・・・なるほどな。」


 ドウジは何人もの戦士たちを葬ってきた貫禄を見たことで、納得した。

 足が出た触手は当然、目の前にいる三人に近付くために走り出した。


「き、来ます!!」


 キョウカが恐怖を感じる声で叫ぶ。

 そしてキョウカとイェルコインは思わず逃げ始めた。

 しかしドウジは動かずに怪物と戦う気でいた。


 ドウジは怪物の四足歩行の頭の無い部分近くに素早く近付き蹴りを入れる。

 怪物は衝撃でやや後方に吹っ飛ぶ。

 しかし四足歩行の安定性もあって倒れたりはせず、余裕で着地する。


「ドウジさん!」


 キョウカは足を止めて逃げるのをやめ、ドウジの方を見る。

 しかし邪魔をしないように近付こうとはせず、遠くの方で呪文を唱え始める。

 そしてキョウカが「バーニング!」と叫ぶと、怪物の体全体が燃え始めた。


 異形の怪物が燃えている姿は、まさに「地獄」と言っても過言では無い光景であろう。

 しかし怪物は燃えているにも関わらず動き出した。

 とてつもない生命力、もしくは気力の持ち主のようだ。


「くぅ・・・。」


 キョウカは恐怖を感じながらも、一歩も後退(あとずさ)ったりせず立ち向かう姿勢を貫く。

 ドウジは再び怪物に蹴りを入れる。

 そして再び後方へ吹っ飛ぶが、やはり倒れない。

 だが、それを察していたドウジはもう一度蹴りを入れて追撃した。

 すると怪物は吹っ飛び、今度は流石に脚が上になった状態で倒れた。


 上下逆になった怪物は足をバタつかせている。

 動けないようだ。



「ねえ!!」


 ふと後ろから声がした。

 声の主は、先程から姿が見えなかったイェルコインだった。


「大変だ! 出口がどこにも無いんだ!!」


 イェルコインは小さい体で飛び跳ねながら二人に(うった)える。

 その言葉を聞いてドウジとキョウカは周りを見渡す。

 するとイェルコインの言葉通り、魔法陣らしきものがどこにも無かった。


「どうやら、魔法陣が動いている間に帰らないと行けなかったようだな。」

「・・・。」


 冷静に答えるドウジとは違って、キョウカは内心かなり心配していた。


 だが、そんな状況でも別の悪いことは起こる。

 二人が再び怪物を見ると、怪物は起き上がっていたのだ。

 しかも体に(まと)っていた炎がいつの間にか消えている。


「あっ!」


 キョウカは怪物が迫ってきているのを見て思わず声を上げる。

 だがドウジは気配を感じてはいたので、攻撃態勢に切り替えていた。

 すると怪物はドウジより先に動いた。

 触手を使って攻撃してきたのだ。

 だが攻撃の対象はドウジではなく、ドウジの近くにいるキョウカだった。


 怪物の触手がムチのようにキョウカを引っ叩く。


「ア゛ァッ!」


 キョウカの腹部に触手が命中し、汚い声が出てしまう。

 そのまま後方に吹っ飛び、背中から地面に落ちる。


「・・・!!」


 ドウジは自分ではなくキョウカに攻撃が行ったことに驚く。

 今まさに攻撃を仕掛けようとしているドウジではなく、援護をしようとしたキョウカを真っ先に倒したからだ。



 ドウジはここで、目の前にいる怪物は只者ではないことを理解する。

 ナルキとの死闘で学んだ「戦いでは常に油断をしてはいけない」ということを完全には学んでいなかった。


 ドウジは今までの自分を恥じ、そして改めて目の前の「敵」と本気で戦うことを心に決めた。







【登場キャラクター】

●「黄金龍討伐メンバー」

天津道志アマヅ ドウジ

挿絵(By みてみん)

主人公(異世界転移者)。

身長約3メートルで筋骨隆々の男。

どんな相手にも立ち向かっていく。


・キョウカ・アキノ

挿絵(By みてみん)

メインヒロイン。

人間の魔法使い。

イェルコインとの友情は本物であり、どんな場所でも迷わず助けに行くほど。


・イェルコイン・アレクサンドラ

挿絵(By みてみん)

獣耳族(ビーシアン)と呼ばれる種族の聖魔導師。

犬の耳が生えている。

キョウカの親友で、愛称は「イェル」。



●その他

・甲冑の幽霊

挿絵(By みてみん)

甲冑に憑依している幽霊。

兜や鎧などの部位をそれぞれで浮かばせて、動かすことができる。

見た目に反して「陽気な若者風」の声。

人々を怪物から守るために洞窟の番人をしていた。

おそらく怪物に殺されたことで幽霊となった可能性がある。



【怪物】

・触手の怪物

四足歩行の禍々しい怪物。

触手で攻撃をする。

今まで何人もの戦士たちを亡き者にしてきた。


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