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第9塔の研究者  作者: 奏多かな
第一章『騒動と火種』
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第8話 ーオークションー

「お集まりの皆様、大変長らくお待たせしました!これより第23回、プロスペリア商会主催星神祭オークションを執り行います!」


それと同時に響くような歓声が下の階から聞こえる。

そういえば、私達はどうやって参加すればいいんだ?

というかそもそも入札に参加していいのだろうか。


いつの間にか考えている事を口に出していたようで、私の独り言を聞いていたウランが机の下を指さした。

覗き込んでみると赤い革張りの突起があり、皆の席それぞれについているようであった。


「それを押しながら入札金額を言えばいいわ。押している間オークション会場に声が届くから。」


テティスが続いて私に解説をしてくれる。

よく出来た仕組みだなと感心しつつ、気長に欲しい商品が出るまで待つことにした。


◆◇◆◇◆◇◆


「続いてはこちら!工房街のとある金物職人から出品された調理器具1式になります!包丁の切れ味は他に並ぶものなし!鍋に至ってはどんな衝撃を受けても破損せず、熱の伝達率も無駄がありません!さてそんな計5点!調理師であれば垂涎の代物です!開始値は26万エールから!」


「あまり惹かれるような品はありませんね。」


「そうは言っても、アドラが欲しいのなんて魔道具くらいでしょ?」


開始して既に半刻は過ぎたであろうか、アドラの言う通りこれと言って欲しくなる様な物はなく、少し肩透かしをくらった気分である。


とは言え、口々にあれはいいなとか言っている割に誰も入札を行わないのは私達の立場を考えての事なんだろうか……いや、特に説明はされてない以上恐らく皆遠慮してるだけで規制されているわけではないはずだ。


「続いてはこちら!迷宮(ダンジョン)第9層から命からがら持ち帰ったとされる秘宝中の秘宝!小さな手鏡ではありますが手にした者の24刻先の姿を映し出す未来視の鏡となります!開始値は125万エールから!」


9層……?先日の魔物誘引トレインはまさかあれが原因か?

いや……そんなことはどうでもいい、それよりも、だ。

あの鏡は流石に欲しい。


「「買った!!」」


私と声が被ったのはアドラであった。

彼の収集癖を刺激したのか若干興奮気味ではあるがここは譲れない。


「レムリア!貴方の本分は魔道具の収集ではなく研究でしょう!貴方には必要のない代物では!?」


「そう言えば私が引き下がるとでも思ったかい?あれを研究すれば更なる技術の発展は間違いない。違うかな?」


「あーあ、出た出た。2人の新しい物好き。」


「ふふっ、アドラちゃんはどちらかと言うと魔道具好きって所ね。」


ちっ……引く気なし、このままでは平行線な上アドラは普段の商売で金銭的に私より有利。

茶々を入れるメルクとテティスにどうにか出来ないかと目配せするがどちらか片方に肩入れしてくれるはずもなく、ルナに至っては既に眠ってしまっている。

何度か説得を試みたが変わる気なし……仕方ないか。


「……今回は譲るとするよ。その代わり後で貸し出してくれないかい?勿論、それくらいはいいだろう?」


「譲るって……そもそも貴方に勝ち目はないでしょうに。まぁいいでしょう。それなりの貸出料は貰いますからね。」


「む……それで構わないとも。」


結果上手く落とし所を見つけ、この場はアドラに譲ることにする。

直接競り落とす金額を考えると私の一人勝ちと言えなくはないがアドラもそれくらいは理解しているだろう、貸出料とやらが高くつきそうだ。


腕を組み座り直し入札を始めるアドラを見届ける。

説得の間に既に金額は224万エールまで値上がっていて、そろそろ250万エールを超えるところだ。

それはともかく……


「あの子、やけに粘るね、そろそろ予想適正額を越えるんじゃないかな?」


そう、メルクの言うようにアドラと競い合っている人物がいた。

あの位置は……一般席か。

オレンジ色の髪を持つ少女……確か先日路地裏に連れていかれていた少女か、まさかまた見かける事になるとは。

ともかく、そんな彼女が明らか適正額を超えたにもかかわらず食いついている。

いや、未来を見れる、すなわち安全が保証できるというのは金で買える以上の価値があるだろう。

例えば、何かに命を狙われていたり、身柄を追われている人物、冒険者なんかも明日を無事迎えれるというのは大きな安心に繋がる。

ともかく未来を見る、という謳い文句が実際どれ程の効力を持つかの検証が必要とはいえその手の者には多くの保険がある方が良いに越したことはない。


「アドラ様、そろそろ予算を超えてしまいます!よくお考え下さい!」


「はっ!それは出来ない相談ですね。」


アドラ達の秘書官であるセルヴィエが止めに入るが、アドラは素知らぬ様子で入札を続ける。

やがて……295万エールを超えたところでオレンジ髪の少女は諦めた。

ここから見える限りでも明らかに肩を落としている。

アドラも勝ち取ったとはいえあまりいい気分では無いだろうな。


「改めてお聞きしましょう!他に入札される方はいらっしゃいませんね!?……それでは落札!貴賓席より298万エールでの落札となります!」


私達の席も貴賓席と同じ扱いをしているようだ。

確かに可決した人がこの街の管理者となれば、参加者もいい気はしないだろうし、良い配慮がなされている。


「アドラ兄ぃ……そんな大金いつの間に用意したんだ……後で困っても貸さないからね……」


「大丈夫さ、後で魔道具の売買をレムリアに手伝わせるし、収益分配を見直すつもりだからね。」


いつの間にか目を覚ましていたルナが一言告げると、また眠りに入る。


は?……いやいや、絶対手伝わないが?


そう思いつつアドラを睨むがスルーされる。

いつも私が魔道具を持ち込んで彼の商売スペースを奪った上、代わりに売買させていたとはいえ、流石に恨まれすぎじゃないか?

まぁ確かに、スペースを借りるにしては渡していた額は小さいかもしれないし、少しは悪いことをしている自覚はあるが……


「まぁ、レムリアちゃんもアドラちゃんもそうピリピリしないで、楽しみましょう?」


……ともかく、後は皆が出した出品物でも見て帰るとしよう。

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