6、法皇
連れてこられたのは、教会だった。
白亜の豪邸のような造りの境界に、お付きのものと信者がこうべを垂れ法皇の説教を聞いている。
そこに、死神とアントンが連れてこられた。
「おお、来たのか。神の御子よ」
「???」
二人は顔を合わせ首を傾ける。
「皆、見よ。神の御子が現れた」
「いやいやいやいや!違うよ!違うよ!」
「サンタムエルテ様もご一緒なのね」
「神々しい。実に神々しい。奇跡だ」
2人の前に、信者たちがひれ伏す。
2人はだんだん怖くなり、教会から逃げ出した。
「アントン!お前のせいだぞ」
「ええ!?おれのせいなの!?」
「お前がさっきのじいさんのところでちょこまかしてるからだろ。ったく、なんなんだよ!」
アントンは、バッグを2回叩き、水晶玉を取り出した。
それをじっくり見つめる。
「サンタムエルテとは、女性の姿の死神。願いを叶える代わりに大切なものを奪う神……へぇ。あにきってさ」
アントンはじっと見つめる。
「女の子だったんだね」
パァン!という破裂音の後、死神の体を強烈な光が包む。
しばらくして徐々に光が消えた後、死神は一糸纏わぬ姿の少女に変わった。
黒く長い髪に、陶器のような白い肌、慎ましいサイズの胸の膨らみに、薔薇色の唇。大きな黒真珠のような瞳。
少女は何も着ていないことに気づき、顔が真っ赤になる。
身をよじってアントンに全てを見られないように隠そうとする。
「見ないで。見ないで……」
アントンは無言で背を向けて、バッグを叩き、服をよこした。
「着て。おれは何もみてないよ」
服は、女の子らしい真紅のワンピースに、黒いフード付きのローブ、蘇芳色のブーツだった。頭にはリボンとフリルのヘッドドレス。ブーツの色に合わせたレースのチョーカー。
身に纏ったあと、アントンはどこから出したのか、白いバラの形のピアスを死神の右耳にさりげなくつけてやり、自分は赤い薔薇のピアスを左につけた。
「行こう。あの人を、探すんだろ」
その声はどことなく寂しそうな、嫉妬の色を含んだ声だった。