3女帝
太陽の光がさんさんと降り注ぐ中、死神とアントンは歩いていた。
「兄貴ー、喉乾いたよー。疲れた〜」
「何だよさっき休んだだろ?」
「さっきっていつさ?おれのさっきはずっと前だよぉ」
「じゃあ、あそこに門があるから、そこまで行こう」
「えー、まだ遠いじゃんかー」
「うるさい。我慢しろ」
「ぶぅー」
門まで来ると、アントンはすっかりへばってしまい、その場に座り込んだ。
死神は乱暴にアントンの腕を掴み、立たせようとする。
「おい、立てよ。そこにいたら迷惑になるだろ」
「もー歩けない〜!疲れた〜」
「ったく、仕方ないなあ」
死神はアントンの体をヒョイと持ち上げて肩にかつぐ。
「おんぶがいい〜お姫様抱っこがいい〜」
「うるさい黙れ!重たいなあ」
門の中に入ると、そこは小さな村だった。
家畜の牛、豚、鶏、ヤギ、ウサギ、小さいがたわわに実った果実園や、金色の穂先が風にゆらゆらと揺れる麦畑の隙間に小さな民家があるような、どこか懐かしさを感じるところだった。
ここ、俺は知っている。
まさか、まさか……
美しい白の髪に、青い瞳の少年が横切った。
この子は、知ってる。だけど、名前が分からない。
懐かしさと恥ずかしさを感じる。
あの人も、いたりするのだろうか?
死神はアントンを地べたに落とす勢いで下ろす。
「あにき!だめだ!それは違う!」
死神はふらふらした足取りで、村はずれまで行く。
そこには村には似つかわしくない白亜の館があった。
館の中に足を踏み入れる。
ああ、あの人がいるところだ。
あの人のにおいがする。
「あにきー!目を覚ませー!あにきー!」
アントンは例のバッグを2回叩き、カップを出す。
カップを勢いよく死神に向けて振ると、水が死神にかかる。
「何するんだよ!」
叫んだ瞬間、そこにあった農村は消え、ソファーに座ったエンプレスがいた。
「あらら。目が覚めちゃったのね」
「あんたは……」
「お久しぶり。死神ちゃん」
「どうして」
「他意はないわ。ただ見たいものを見せただけよ」
「それにしちゃあ、人の心に干渉すんのはルール違反じゃないんですかい?エンプレスさん」
「あら、フールさん、あなたは少しは賢くなったのね。あのラジエルの書があなたに考える力を与えたのかしら?」
「やめろ」
「あなたにも見たいものがあるのではなくて?今ならたっぷりと見せてあげましょうか?」
アントンはエンプレスにカップの水をかけた。
「おれは見たいものなんてない。今、この時を見つめている」
「まあ、カッコいい。じゃあ、せいぜい頑張って。きっとあなたの望むほうに行くとは限らないけど」
エンプレスはスッと空気と溶けるように徐々に色を失い、やがて見えなくなった。
「あにき、行こう。ここにいたらあにきはあにきじゃなくなる。出た方がいい」
アントンは死神の手を引き、門の外に出た。
女帝
正位置 クリエイティビティ、豊穣、実り
逆位置 ルーズ だらしない