1魔術師
「ああ、よく寝た」
「死神の兄貴、もう昼ですぜ。どんだけ寝るんだよ〜」
ベッドから起き上がると、死神は背伸びをして大きく口を開けた。
どこからか、陽気な音楽が流れてきた。
「あ、兄貴、おれ、行かなきゃ!秘密道具ショップさんが近くまで来てる!」
「おい、待てよ、起きたばっかりだぞ!メシは?」
「おれにはメシよりこっちのが大事!」
はーっと死神はため息をつき、アントンの後ろに続く。
陽気で軽快な音楽に釣られて、どこからやってきたのか人が集まっている。
薔薇と百合のアーチのある広場の真ん中に、白い服を着てオレンジの上着を着た男が居た。
「さあさあ、今日も不思議な品物を揃えてますよー!お買い得品をたくさん揃えております!お気に召したものはお手に取ってお確かめください!」
男は、白い杖を掲げる。それは、腕くらいの長さで、体を支えるには短すぎるシロモノ。何に使うのだろうか?
「まずは、このワンドにご注目ください!これは、一振りすれば、炎が出ます!ではやってみましょう!それっ!」
男は、ワンドと呼ばれた杖を一振りすると、杖の先から、小指の先っぽ程度の炎が出た。
「すごいでしょう?これさえあれば、真っ暗な夜道を歩く時もピクシーに騙されることなく安全にお家に帰れますよ!魔物は聖なる炎を嫌うので悪魔よけにもうってつけ!いかがですかー?」
「買う〜!」
アントンは真っ先に手を挙げようとするが、死神が止めた。
「お前っ!家ないだろ?意味ないよ!」
「でも何かで使うかもだしー……」
「向こう見ずな行動はよせ!」
「続きまして〜こちらの、ソードです!」
これまた小ぶりな短剣を掲げる。細かな細工が施され、十字架のような形状で中央に青い宝石がはめられている。
「これは、自由に天候が変えられます。まずやってみましょう!えいっ風よー吹けー!」
男が短剣を一振りすると、ゴオオーッと風が辺りを包む。
おーっとオーディエンスが湧く。
「これ、欲しい!天候を操るなんてかっちょいい!!魔法みたいだ!」
「待てよ。お前それ、本当に必要か?」
死神は冷静にアントンに聞く。
「えー?うー。そーだなぁ……いらんな」
男はコインを見せる
「これは、旅人の護符といって、これからの旅を無事に終えられるように、エンプレスの祈りが込められておりまーす!」
「まじか!買い……」
「待てよ。こういうのは、本当に込められているかなんて誰にもわからないんだぜ」
「それもそうだな」
男は最後にカップを高く掲げる。
「ではでは、こちらのカップをご覧ください!これ、無限に水が出るんですよー。砂漠に行く時に重宝します」
男がカップを逆さにすると、勢いよく水が流れていく。
死神は
「あ。これはちょっと欲しいかも。水はいくらでもあったらいいからな」
「それは買うんだ……」
最後にカップを買い、死神とアントンはカバンのテントに戻った。
「うん。いい買い物をしたな」
「なんだかんだ言って楽しんでんじゃんか、死神の兄貴」
「さて、風呂に入ったら出発するぞ」
「まあ、兄貴が行くなら面白そうだからついていくけどね〜HAHAHA」
その頃。
「テンペランスさん、無事終わりました」
秘密道具ショップの男はテンペランスと呼ばれた男の元にいた。
「そうん?オツカレさまん。アタシの商品なかなかいいものを作ったでしょ〜ん?ああ〜ん。仕事楽しいわ〜ん!じゃあ、引き続き、お願いねん」
テンペランスはほおを手に当てクネクネと身を左右に揺らす。
この男、体は男だが、中身はオネェさんである。
「はい。よろしくお願いします」
「もうん。他人行儀なんだからん。もっとフランクにして欲しいわん」
「では、お疲れ様でした。失礼します」
「つれないわね〜ん。今度、デートいきましょうね」
と言って、男に投げキスをする。
「はあ……」
疲れる……!
魔術師:準備は整っている。始まりのカード。物事の始まり。