プロローグ
気がつくと、僕は白い空間にいた。
「あの人は?あの人はどこに?」
僕の、運命の人。
さっきまで一緒にいた。
あの人はどこに……?
「私は、エンプレス。ここは、アルカナの世界よ」
「アルカナ……?」
「アルカナって言葉も知らないのね……アルカナとは、神秘、秘密という意味。あなたは秘密の世界に迷い込んでしまったの」
エンプレスと名乗った人物は、指先で虚空をスッと円を描くと、鏡が現れた。裏にはハート型に♀のマークが付いている。
それに写った姿に絶句した。同時に指先を見る。
指先は骨しかなく肉も爪もない。
鏡に写った自分は骸骨の顔。
全身骨だけの体にまとっている服は黒いローブのみ。傍には身長まである大鎌。これではまるで……
「死神……」
嫌だ。こんな姿。どうしてこんなことに。
僕は、いったいどうしてしまったんだ。
状況が飲み込めない。
僕は鏡を思いっきり床に叩きつけた。
鏡は派手な音を立てて砕け散り辺りにキラキラしたガラス片が散らばった。
信じられない!!信じられない!!信じられない!!
「信じたくないわよね。こんなの……ただね」
エンプレスは指先を今度は右から左にスッと横にスライドさせると、ガラスのかけらは一つにまとまり、またハート型の鏡に戻り、死神の顔を写した。
「自分を見つめて。今起こったことに目を向けて」
「嫌だ……」
「あなたにいいことを教えてあげる」
エンプレスは鏡をクルリと一回転させるともう一度死神にそれを見せる。紫の布を纏ったあの人が鏡の中で体を胎児のようなポーズでスヤスヤと眠っている。死神はそれを掴み食い入るように見つめる。
「あなたの運命の人はアルカナの世界のどこかにいるわ」
「会わせてください!彼女はどこにいるんですか?」
会いたい。顔が見たい。声が聞きたい。
鏡に手を突っ込むようにしてそっちに行こうとするが手に触れているのは冷たいガラスの感覚だけ。
「どうして」
「あなたが自力でさがすのよ。何十年何百年かかっても」
「今すぐに会いたいんですよ!なんでそんなに意地悪をするんですか!」
「意地悪じゃないわ。みんな探しているもの。この世のどこかにいる、いつ出会えるかわからない人を。あなたはまだ幸せよ」
「どこが?」
「すでに出会っているもの。そして、どこにいるかもヒントは与えたわ。あとはそこに行くだけでいいもの」
「さっきから言っていることがわけがわからない!」
「本当に苦しくなったら私のところに来て。少しの間だけ夢の中で会わせてあげる」
そう言って、エンプレスは消えた。