015 雲のゴーレム(風)撃破
「さて、どちらの風魔法が上か力比べといこうか」
知織は雲のゴーレム(風)から飛ばされてくる風の球や刃を回避しながら魔導の発動の準備を終えた。
「緑魔導・風弾!」
知織は風の弾丸を作り出してゴーレムにめがけて撃ち放った。一発一発の弾の威力は回転を加えて貫通力を増加させているので高いのだが、その反面、同時に生成できる数はその分落ちてしまうので何発も風の球を受けてしまえば威力が減衰してしまい、ゴーレムの周囲を守る竜巻によって防がれてしまった。
「この程度では届かないか、それならば…」
知織は弾丸のイメージを変えて魔法を放つ構えを取った。
「それならこの弾はどうだ?」
知織が撃ち放った弾丸は、今まではハンドガンをイメージした威力と連射速度だったのだが、今回は長距離狙撃中をイメージした弾丸を撃ち放ったのだ。
威力や貫通力、速度は遥かに上昇したけれども連射性は皆無なので、知織はその一発にかけるという気持ちで撃っていた。
ゴーレムは何度やっても無駄だと言わんばかりに先程と同じように風の球を飛ばして相殺しようとしたのだが、先程よりも弾速が速く、威力が増している風の弾丸の勢いを弱めることはできず、そのゴーレムの体を貫通させた。
「まずは一発だな」
知織の放った弾丸は風の竜巻を貫いて、さらに、ゴーレムの体を貫通させた。残念だったのはその一撃でコアに命中させることができなかったことだろう。
さらにもう1体のゴーレムも現れてしまったので知織は2対1という形で戦闘をすることになった。
(敵は1体増えたものの、水魔法を当てずに時間をかけすぎなければもう1体が進化をすることはないだろう)
知織はもう1体のゴーレムの同行は気にしつつも、そこまで積極的に仕掛けに行こうとは考えていなかった。
また、竜巻を貫通させたときの弾丸を観察して知織はようやく竜巻の突破口を見出すこともできていた。
「緑魔導・竜巻風刃」
知織が放った魔導は、ゴーレムを守るように存在している竜巻とは逆回転の風の刃で構成されていた。
ゴーレムはその攻撃を防ぐことはできないということを感じ取ったのか風の渦を再度飛ばしてきた。
風の渦は知織の竜巻と衝突すると、激しい鍔迫り合いのような形になったが次第に知織の竜巻が勢いが弱まっていき、ゴーレムの放った風の渦が知織の竜巻を打ち破り知織に襲い掛かると、ゴーレムは勝利を確信したかの様子を見せた。
「その攻撃は連発するには時間もかかるし、隙が多いのが欠点だな」
知織はそう告げると一発目の竜巻は防がれることを前提していたのか、さらに2つの竜巻を生成した。
「残念だったな、この竜巻は3つで1つの技なんだ」
知織は同時に生成する予定だった竜巻をあえて時間差をつけて発動させた。そのため回避に間に合わず風の渦が知織をかすめることになったが、2発目、3発目の竜巻を防ぐ術は間に合わず2発目の竜巻で雲のゴーレム(風)を守る竜巻が相殺され、3発目が雲のゴーレムの機体を捉え、その体を切り裂き続けた。
「風の刃はお前の命を刈り取るまで切り刻み続けるだろう」
知織はそう言い残すと先程現れたもう1体のゴーレムとの戦闘を始めた。
新たに現れたゴーレムとの戦闘ではすでに対処法を理解していた知織は油断することはせず、それでいて作業のように淡々とその機体を倒そうとしていた。
戦闘の途中で、最初に現れた機体はその体力を削りきったのか風の刃の竜巻も消滅しており、その動きを止めていた。
2体目を倒しきると、すぐに3体目が現れて連戦は厳しく感じたが1体目、2体目と、異なる挙動を見せてくることはなかったので新たに考えるべき対処はないと思うと、淡々と3体目を倒しきった。
そして、時間に余裕ができると、倒された3体の機体からコアを回収して4体目の登場を待ち処理を終えるとまたコアを回収した。
「終盤は既にただの作業となってしまったな」
知織はそのような感想を漏らすと体の力が抜け、その場に座り込んでしまった。
(作業とは言ったものの魔力の消費はバカにならなかったな)
知織はそのようなことを思いながら目を瞑って魔力の回復をはかり、未だに戻らないクリスティアとメグミのことが心配になったので、それなりに魔力が回復をしてから知織は彼女たちのことを探そうと考えていた。
戦闘が終了してから30分程が経ち、知織は未だに2人の捜索をしようとゴーグルをかけて生物探知をかけたところ、知織の下へとゆっくりと移動をしてくる気配が2つあった。
(移動速度は遅いがもうゴーレムは沸かないはずだからこの反応は2人だな)
知織はそう考えると2人だろうと思う反応の下へと移動を開始した。
その反応の下へと向かうとメグミに肩を貸したまま歩くクリスティアが目に入った。
「大丈夫か?」
知織は早歩きで近づきそう尋ねると、クリスティアは不安げな顔を浮かべ、メグミは乾いた笑いを漏らしていた。
「一応緊急処置はしたのですけど…」
「拙者の回避が間に合わず、右足から脇腹の辺りまで直撃を受けて結構危なかったでござる」
「俺が診てやる」
知織がそう言うとクリスティアはメグミを地面に下ろし、メグミは風の渦を喰らってしまったところを見せてくれた。
彼女に付けられた傷は大量の薬草によって患部を覆うことで失血と治癒力を高めているという状態で、酷い切り傷が付けられていた。さらに重症なところは肉が一部抉られているほどで、この状態でよく痛みを我慢できていると驚かされた。
「やせ我慢はそれぐらいにしてくれ。今から白魔導を使うから回復するまでは眠っていろ」
知織はそう声をかけると、彼女の治療を開始した。幸いだったのはクリスティアが植物魔法で増やした薬草が大量にあったことだ。薬草がもつ回復力を白魔導に上乗せすることができたので彼女の治療にかかる時間が少なくて済んだのだ。
メグミは知織に魔法をかけてもらっていると暖かい魔力を感じたようで眠気に誘われて次第に瞼を落としていた。
「間に合ったようだな」
「はいなのです…。あのときシオリが行かせてくれなかったら今頃メグは…」
「そうだな。間に合ったからこうして生きているんだ。今はそのことを喜んでおけ」
「はい…、次は私が足を引っ張らないようにするのです…」
「ああ、そうだな。クリスもゆっくり休んでおけ。俺が周囲を見ておく」
知織がそう言うと泣いた顔を隠してクリスティアはメグミの隣で眠りについた。
(まだ29階層だ…。30階層はまた1つの節目だ。今のままでいいのか?)
知織は2人の状態を見てそのことを考えていた。
確かに知織は2人の動向を認めたが、現状戦闘に着いてくることで精いっぱいであるように知織は思えた。知織もダンジョンに挑む前は彼女たちの実力であれば足手まといになることはないと思っていたが階層を跨ぐたびに怪我を負っていることも確かなのだ。
いつまでもその状態でいられては遅々として探索が進まず、予定した期間内にダンジョンから帰還できないのではないかと知織は思っているのだ。
(どうしたものか…)
知織は現状を打破するためにどうすればいいのか、非常な宣告をするにしても、今後も同行を頼むにしても2人の意思を確かめてからにしようと知織は周囲の警戒をしつつ、2人が起きるのを待った。




