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058 第2試合 知織 vs  紅羽

「そろそろ準備が終わるので、用意をお願いします」


 知織が控室で次の試合に向けて集中力を高めていると外から声がかけられた。


「わかりました」



 知織はそう答えると控室から出て、係りの者について行った。



「それではフィールドの準備が整いましたので、承継者様たちの試合を始めます!」


 引き続きメグミの父が審判を務めているようで、闘技場の歓声は先程よりも熱気で満ちていた。


「それでは、両者入場してください!」



 審判の合図とともに知織と紅羽はフィールドに出た。


「それでは、シオリ様とクレハ様の試合を始めます。双方準備はいいですか?」


「ああ」


「はい!」


「それでは試合開始!」



 審判が開始の合図を告げると紅羽はウルーナ同様に闘気を手と手にもつ棒に纏わせた。


 知織は紅羽の動きに対応するために今までの全身に魔力を纏わせる身体強化ではなく、身体の必要な部位にだけかける身体強化を発動させた。


「速力強化、物理防御強化」


 今回知織は風の魔力を足に、土の魔力を胴と腕・足にかけた。



「そっちも準備終わったよね!」


 紅羽は知織の準備が終わるのを待っていたようで知織が魔力を纏ったのを視てから棒を構え突撃してきた。



「烈破!」


 紅羽は闘気を纏わせた棒による連撃を繰り出してきた。知織はその攻撃を見切り、速力を上昇させた足で躱した。紅羽の攻撃は今までの攻撃速度よりも早く、大地のゴーレム戦を彷彿させる攻撃で知織も躱すので精一杯だった。


「今回は攻撃に転じさせるつもりはないか、らっ!」


 紅羽はそう言いながら両手で構えた棒を繰り出し続けた。


 彼女の攻撃は宣言通り知織に攻撃に転じさせる隙がなかった。彼女は自身よりも格上であるウルーナやメグミと手合せを続けることで、自身の攻撃をより洗練させ、無駄の少ない攻撃に仕上げていた。



 そのため、知織が最小の動きで回避をして距離を取ろうとしても紅羽は直ぐに攻撃を繰り出し、距離を取らせまいとしているのだ。



「くっ…」


 知織は自分が想定していたよりも早く、鋭い攻撃であったので彼も手札を切ることにした。



「それなら仕方ない。こちらも少し力を見せようか」



 紅羽はビクッとその言葉に反応をしたが、魔法を発動させる時間を与えなければ問題ないと思い、一層激しく攻撃を展開した。しかし、


「紫魔導・紫電纏」


 知織は自身を基点に放電をする雷の鎧を纏い紅羽の攻撃を受け止めた。


「ぐっ…」


 知織は自分が思っていたよりも重い攻撃で一瞬怯んだが、紅羽の方は知織よりも激しい動揺を見せた。


 紅羽の攻撃は闘気を纏わせており、彼女の攻撃は物理防御を貫通させた攻撃のため通常であるならば彼女の突きを喰らうだけで、内臓にまで大きなダメージを与えることができたはずなのだ。



 しかし、知織はその攻撃を受け切り、紅羽の棒を掴んでいるのだ。



「さて、これで、そちらの動きは止めたな」


 知織の言葉で紅羽はハッとなったが、知織の攻撃は早かった。



「緑魔導・暴風の矢」



 知織が発動させた魔導は今まで使っていた風魔法のウィンドランスを魔導として昇華させたものだった。


 今までは槍のように長く大きいものだったが、今度は矢のように短くより鋭いものに改良を加え、威力は槍から矢のように圧縮したことで1発の威力も増していた。そして、今までの比ではないのがその発動速度と一度に発動させている量だった。



 今までの最大同時発動する右派両手の指を基点とする10本までだったが、今では同時に40の矢を生成させていた。



「うわ~、これはまずいかな」


 紅羽はそう言うと、知織から距離を取り、


「闘技・連武咆哮!」


 紅羽は棒に纏わせた闘気を突きと共に放つことで、知織の生成した矢を破壊し始めた。



「果たして間に合うかな」


 知織は余裕を見せ、そう呟くと破壊された傍から矢を生成し直して、紅羽に向かって放ち続けた。



「きゃあああ!」


 紅羽は何本もの矢を破壊したが、すべてを破壊しつくすことは叶わずその身に矢を受けてしまった。紅羽の体には屋による傷が次々と作られているが彼女の体に突き刺さる矢は1本もなかった。



 彼女が打ち落とし続けたのは自身に致命傷を与える矢だけだったのだ。知織の再生成の速度を見て、自身に与えるダメージが大きくなりそうなものだけを的確に破壊し続けたおかげで、この程度のダメージで済んでいた。



「はぁ、はぁ、痛ぁ~。でも、次はこっちの番だよね!」


 紅羽はそう息巻くと、棒を投げ捨て、息を大きく吐き、身体中の魔力と闘気を一点に集中させた。


「魔闘解放!」



 紅羽はそう大きな声で宣言すると、闘気と魔力が今までよりもはっきりと可視化できるほど大きく放出された。彼女の全身は紫と黄色の光で包まれていき、先程知織によってつけられた傷さえもなくなっていた。



「この状態は長く続かないけど、いっくよ~!」



 紅羽は知織にそう宣言をすると、知織の知覚できない速度で爪を知織に突き刺してきた。


「ぐはっ…!」


 いきなり腹を貫かんとする爪が突き刺さっていたことに知織は驚きを隠しきれず、苦悶の表情を浮かべることとなったが、知織が先ほどから使用していた『紫電纏』のおかげで紅羽の爪が突き刺さる程度で済んだが、これがなければ貫通させられていた可能性もあった。



(速すぎる…!)


 知織は突き刺してきた紅羽を見ると、彼女の毛は逆立っており、4足歩行の獣のような姿勢でいることに気が付いた。



「あれ、今ので終わりにするつもりだったのに、思ったよりもその雷の鎧は厄介かも」


 紅羽はそう言うと、知織に突き刺していた爪を引き抜き、大きく後方にジャンプをすると再び突進をしてきた。


「今度こそ!」


 知織は次に突き刺されると自分の身が危ないということは察していたので、今突き刺された腹を下にするように転がってその場から回避した。

 ドンっ!


「ぐっ…」


 知織は爪を回避することはできたが、回避をしたらそのまま紅羽に蹴り飛ばされていた。


「あれ、躱されちゃったか」



 紅羽は知織が回避をしていたのに気が付いた様子はなく、自身が蹴ったことにさえ気が付いた様子もなかった。



(もしかして、紅羽もあの速度を制御できていないのか…?)



 知織は紅羽の様子を見てそのように推測を立てると、知織はあの速度に対抗するための策を立て行動に移した。



「黄魔導・大地の棘」


 知織が出現させたのは、先程の試合でクリスティアが見せた土の棘と似たようなものだった。


 彼は先ほどの試合でウルーナに取った策と同じことをしたのだ。あの紅羽の速度であれば、おそらく斜めに移動をすることも難しいだろうし、勢いから考えても土の棘を踏み台にすれば壊れて勢いをつけることすらできないと考えたのだ。



「そして、青魔導・氷の雨」


 知織は細かい氷の針を次々と上空に生成すると紅羽に降り注いだ。しかし、その攻撃は紅羽にまるで聞いた様子はなかった。



「その程度の攻撃なら効かないよ!」


 紅羽はそう言い放つが、彼女の様子が心なしか先ほどよりも疲れているように見えた。



「行くよ~!」


 紅羽は知織の降らす氷の雨をものともせずに爪をこすり合わせてからジグザクに走りながら突っ込んできた。


 しかし、やはりジグザクに移動をしているので先程のように目で追いきれないということはなく、今度はカウンターを仕掛けることができそうだった。



「黄魔導・金剛化、そして、はぁ~、ふぅ…」


 知織は自身の両手に硬化の魔導を使い、防御力だけではなく単純な頑丈さを上げて物理攻撃力の威力と物理防御力を上昇させた。そして、彼は武器スキルや物理攻撃系のスキル取得が著しく困難な中、唯一元から素養があったおかげ取得ができた体術スキルを行使ししようとした。



「正拳突き!」


 知織は突っ込んできた紅羽の爪に対して、自身の拳を突き出した。



ドオォォン…


 2人の攻撃がぶつかり合うと、激しい音と土埃が巻き起こった。



 土埃が晴れたときに立っていたのは知織だった。



「ふぅ~…、俺の勝ち、だな」


 紅羽は息を切らして地面に倒れ込んでいた。



 彼女は爪による突きを放ったのだが、拳と突き合わせた衝撃で少なくないダメージを負い、そのまま闘気と魔力を枯渇させ、先程までの解放状態が解除されてしまったのだ。


 知織も少なくないダメージと衝撃に襲われたものの、彼は白魔導を行使しており、自己再生を同時に使用していた。そもそもそうでなければ腹に開けられた紅羽の爪痕のせいで、紅羽の爪とぶつけ合わせることもできなかったのだが、爪の傷を癒しながら自身に過剰回復をさせていたのだ。そのおかげで知織が倒れることはなかったのだ。



「はぁ…はぁ…、私、…の、はぁ、負けだね」


 紅羽は地面とキスをしているような状態だが意識は失っていないようだった。


「その状態ならもう動けないだろう?」


知織がそうといけると紅羽は小さな声で「うん」というので、知織は審判に声をかけた。


「審判、彼女はもう動けないようだ。しばらくはこのままのようだし、俺の勝ちでいいな?」


 審判にそのように問いかけると、彼は慌てて紅羽に近づきそれでいいかと確認を取ると、


「ただいまの試合、クレハ様の棄権により、シオリ様の勝利です!」



 審判がそのように大声で宣言をすると、闘技場は大きな歓声に包まれ、知織は手を挙げてその歓声に応えた。


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