002 道案内
区切りが悪かったので少々長くなりました…(;^ω^)
成り行きで見知らぬ少女にこの辺りをすることになった知識は、隣に立つ自分よりも小柄な彼女に目を向けた。
「それで、案内とは具体的にどこに連れて行けばいいんだ? この辺りは住宅街だ、特に目新しい施設はないと思うが。」
「う~ん、それじゃあこの辺りで買い物に行きそうなところをお願いしようかな。おばあちゃんの代わりにご飯を買いに行ったりするかもしれないし、本とかそういうのが買える場所も教えてくれると助かるかな。」
彼女は何を買いそろえる必要があるのか、顎に手を当てて考えながらそう言った。
「わかった。それなら俺がよく利用しているスーパーからだな。あそこなら本も買える。」
彼はそう言うと彼女の前に立って歩き始めた。そして、隣に来ようとする彼女に説明をしながら目的地へ向かった。
「スーパーといったが、1階が主に食料品売り場だ。確か薬局もそこに入っていたな。常備薬や冷えピタとかもそこで買えるだろう。そして、そこの2階は本屋とか服屋、小さいが百貨店が入っているな。だからそこに行けば必要となるものはたいてい買い揃えられるはずだ。」
「なるほど~、了解、ありがとう!」
彼女はそう言うと、知織の顔をまじまじと見つめていた。
「…どうかしたか?」
「う~ん、そう言えば、自己紹介したっけ?」
彼女は今更ながらにそう言ってきた。
「していないな。そもそも俺は写真を撮るように頼まれたから撮っただけで、こんな風に道案内を頼まれる予定ではなかったからな。自己紹介をしていないのは至極当然のことだ。」
「あ、そっかそっか。私は、綾瀬 紅羽。仕事の関係で向こうに行ったって言っても両親は日本人だよ。」
「そうか。俺は、大宮 知織。来月から高校に通うことになっている。」
知織がそのように自己紹介をすると、彼女は驚いた様子で、
「え! 君同い年だったの!? 年上の人かと思ってた。」
「そうか。外見から年齢を推測するのは難しいからな。俺も君と同い年だとは思っていなかったよ。」
知織は身長が168㎝と平均よりもやや少し高めの身長をしており、高校生と見間違えてもおかしくはなかった。また、彼の落ち着いた雰囲気や会話に余裕があるかのような落ち着いた話し方が年齢を錯覚させていたのだろう。
一方、綾瀬 紅羽は身長が153㎝と、身長は平均よりもやや低く、知織との身長差もややあった。また、彼女は少し童顔気味であったので実年齢よりも幼く見えてもおかしいものではなかった。
互いに自己紹介をしてからも他愛もない話をしつつ、目的のスーパーへとゆっくりと歩みを進めた。道中も気になる店があれば紅羽は質問をし、それに知織は丁寧に答えていった。もちろん彼が知らない店については正直に知らないといい、そのうえで彼女が気になった店については店内を少し見て回った。
目的のスーパーに着いてからは一度別れて、互いの買い物を済ませた。知織は目的地にも着き、母親から頼まれた買い物も済ませたから帰宅をしようと思っていたのだが、彼女はもう少し一緒に見て回りたいとのことで強制的にともいえるような形で連絡先を交換して用が済んだら店の入口で集合ということになった。
知織は頼まれていたものを手に取り、そのついでに自身が愛飲しているココアを籠に入れてレジへと向かった。
「あら、知織君じゃない。元気にしてた?」
「はい。お久しぶりです。いつも通り変わりないですよ。」
レジには近所に住んでいるおばちゃんがいた。彼女はパートでここに勤めており、空いている時間帯のレジではこのように会話もしたりしている。子供の頃から世話になっているので知織もそれなりに親しくさせてもらっていた。
「それよりも、一緒に買い物に来てた女の子は彼女なのかしら?」
おばちゃんは商品のバーコードを読み取りながらそう聞いてきた。急にそんなことを言われて何を言ってるんだ、と思ったが、見られてしまった以上はしっかりと説明をしないと要らぬ誤解を生んで母親に伝えられてしまうと思い、
「違いますよ。たまたまあそこの公園であって道案内を頼まれたんですよ。彼女ではありません。」
「ふ~ん、そうなのかい。てっきり知織君にも春が来たのかと思ったけど、そういうことにしておくよ。」
知織の態度は思春期の男子の照れ隠しであまり深く追及されたくないんだろうという風におばちゃんは解釈をし、知織は一応わかってくれたのか、と互いの認識はズレたまま別れてしまった。
当然のことながら噂話が大好きなおばちゃんで、それもいくつになっても変わらぬ恋の噂話ということで知織の母親にもそのことは告げられ、後に面倒な話へと発展していくのだがそれを今の知織が知る由もなかったのだ。
買い物を終えた知織が店の入口に行くが、紅羽の姿はまだ見えなかった。知織は交換させられたスマホアプリの連絡先にメッセージを送ると、適当にスマホをいじりながら時間を潰していた。
「ごめん、お待たせ!」
「大丈夫だ。それよりも買いたい物は買えたのか?」
知織がそう言うと、彼女は買ってきたものが入っている袋を見せつけ、
「この通り買えたよ。向こうでも勉強をしてきたけど、やっぱり不安が残るから少しでも予習をしたかったから。」
彼女は苦笑をしながらそう言った。向こうと此方とではやはり勉強の内容にも差があり、また、特に古文などの日本語の科目や此方の細かい歴史は自身がないと言っていた。
「そうか。勉強は頑張れとしか言えないな。学力はすぐに身に着くものではないから今からでも質のいい勉強をしていればその差は縮めることができるだろう。」
「なんか頭いい感じなこと言うね! 知織は頭いいの?」
知織は連絡先を交換してからは名前で呼ぶように言われていたが、急に親や近所の人以外から名前呼びされたことに変な違和感を覚えつつも、
「頭がいいかはわからないな。世の中で見れば俺よりも頭が良い人は多くいるし、逆に俺よりも悪い人もいる。誰と比較するかで見方は変わってくる。」
「もう、変にはぐらかそうとしないでよ。それなら最後の成績表はどうだったの? 通知表だっけ? あれの数字教えてよ。」
「それなら全て5だった。これは1年の頃から変わらないな。ある意味で問題児扱いもされていたが、学校側が課す試験では100点以外を取っていないからな。」
知織は面倒くさそうにそう言った。彼は世間一般から見れば頭が良い人といえるだろう。それは彼の知的探求心によるものからだ。彼は知りたいと思ったことについては貪欲に求めている。
しかし、それが彼を問題児という評価をする原因でもあった。教科書の内容については配布をされた時点から読み込み、自身が持つ知識やその他の文献からもその内容をしっかりと読み込んでいた。
そのため、中学校程度の内容では広く浅く内容を扱うことが多かったので内容に不満もあり、その点について深く掘り下げるような質問を教師にすることが多々あった。
彼は度々そういうことをしていたので最初は勉強熱心な生徒と言う評価だったが、次第に鬱陶しくもなり教師から敬遠され、気が付けば問題児に近い扱いを受けていた。彼としてはその扱いをされたところで自信に悪影響があると思っておらず、むしろ周囲が静かになったということで気にも留めていなかった。
そう言ったことも経て彼は学校でも極少数の人としか関わってこなかった。しかし、紅羽は知織の口から説明を受けていないので素直な評価を彼にしていた。、
「やっぱり頭いいんじゃん。問題児とか言ってるけど、大したことじゃないでしょ。」
彼が自ら発した問題児という言葉に興味を持つことはなく、その成績の良さに着目をして感心していた。
「さぁな。それよりも、そろそろ昼飯を食べに行こうと思うんだが、君はどうする?」
この話は終わりだと言わんばかりに会話を断ち切り、知織は言った。
「ん? 一緒に食べに行こう? それよりも、君じゃなくて、紅羽って呼んでよ。」
「……紅羽は昼飯を家で食わなくていいのか?」
知織は彼女が名前呼びを強制してくることに気圧され渋々そう呼んで、改めて聞いた。
「おばあちゃんには友達ができたから一緒に食べてくるって言ったよ。」
「いつの間に…。何か食べたいものはあるのか?」
「もとから知織は何を食べるか考えていたでしょ? 外食のつもりでいたと思ったし。」
彼女はそう言ってどこに行くつもりだったのかと逆に聞いてきた。どうやら彼女は知織の様子からある程度は推測を立てていたようで、昼食を同行しようと事前に家の人に連絡を入れていたようだった。
「少し歩くことになるが、駅の近くのラーメン屋にでも行こうと思っていた。そこでもかまわないか?」
「うん、いいよ。じゃあ行こっか。」
彼女はそう言い、知織に案内を促した。
道中や食べている間も様々なことを話していた。と言っても、基本は紅羽が何かを話し、知織が相槌を打つか、紅羽が質問をして知織がそれに答え、補足をしていくという流れだった。
シアトルでの友達や生活、日本でやりたいことなどを話していた。話を聞いていると紅羽は運動少女という感じだった。いろいろなスポーツを経験しており、身体能力が優れていそうだった。勉強はできないのかといえばそういうわけではないらしい。スポーツに活かせることはないかと勉強をしていたらしい。それが結果に出ているかは想像にお任せを、ということらしいが。
そして、昼食を終えてからも少し話していたが、そこで驚きのことが判明してしまった。
「え、知織が行く高校って私と同じなの!? もっと頭がいいところじゃないの?」
今後の話をしているときに高校はどこに行くのかという話になり、高校を言ったのだが、どうやら紅羽は知織と同じ高校の外国語科へと進学することになっているようだった。
「俺は近くの高校を選んだだけだからな。近くにあってある程度偏差値が高いところであればそれなりにいい教育を受けられると思ってな。」
彼らが行く高校の普通科は偏差値が67と高いが最も高いというわけではない高校だ。外国語科も併設されておりそちらは普通科よりも少し低いらしい。彼女のような留学生や留学に興味がある学生が集まっている。
「なるほどね。私はおばあちゃんの家に近い高校がそこだから必死に勉強したのにな。」
彼らの入学する高校は、彼らが会った公園の近くにある。近くといってもそこからまだ20~30分程はかかる距離だが、そこまで遠いわけではなく、自宅からなら40分もかからないだろう。
「でも、よかった。」
彼女はふと、そう言った。
「何がだ?」
彼がそう言うと、
「ん? そりゃあもちろん、高校でも友達がいるってことかな。こっちに1人で戻ってきて、おばあちゃんとはいっぱい楽しく話したりしているけど、友達はいないからさ。小学生の頃の友達なんて今はもう連絡先はわからないし、そもそも住んでいる県が違うからね。これでも友達出来るか不安だったんだよ? 1人ボッチになったらどうしようって。」
彼女は苦笑しながらそう言ってきた。明るく楽しげな雰囲気の裏側にそんな感情があったのかと思い知らされた知織だったが、
「紅羽の性格ならそこまで問題ないと思うがな。」
敢えて多くを話すではなくそれだけを言った。紅羽はそんな素っ気ないながらも紅羽を思いやってくれるかのような知織の言葉に嬉しそうに頬を染めた。
それから彼らはラーメン屋を出ると、その場で解散をすることした。彼女は、日本に戻ってきたとは言っても祖母の家に引っ越しをしてきたようなものだ。まだ整理が終わっていないようで、やることは多いようだ。
「今日はありがとうね!」
「ああ、どういたしまして。」
「また何かあれば連絡するね!」
「気が付いたら返事くらいはしてやる。」
「そう。じゃあ、またね!」
「ああ、また。」
彼らはそう言ってその場を後にした。知織はそれ以降の道中では特にトラブルにあうこともなく帰宅をすることができた。
そして、それからも変わることのない生活をしようとしたが、部屋に引きこもり続けたら本を取り上げると言われてしまったので、日課に散歩が加わることとなった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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