022 再会、獣人族の承継者と魚人族の承継者
(おいおい…そんなことがあるのか? いや、そう言えばあの時見た魔法陣…、それに…)
知織はこの世界に来るときに用いられた魔法陣の外で似たような発光を見たことを思い出していた。そして、そのようなことを含め過去の彼女の行動を思い返していると、その相手の方から声がかけられた。
「…はい、どうぞ。…ってあれ? 知織? 知織だよね!? なんで、どうして! 何でここにいるの?」
「うるさいぞ、俺も紅羽がここにいることに驚いていたが、その姿を見てあの時のお前の電話や召喚陣の外で似たような発光が見えた理由もわかった」
「え。じゃあ、あの時近くにいたの!?」
「おそらくな。まぁ詳しい話はあとにしよう。他の奴らも俺たちのやり取りを驚いた様子で見ているぞ」
知織がそう言うと紅羽は他の人の表情を確認し、照れ笑いを浮かべると用意した夕食をテーブルに並べて何事もなかったように席に着いた。その時彼女はそれまでと違う席かもしれないが知織の隣に座っていた。
「そ、それじゃあ、積もる話もいろいろありそうだけど、夕食にしようか」
「ちょっと待ってくれるかしら?」
「ど、どうしたんだい?」
アーセナルドは夕食にしようと号令をかけようとしたところで、真っ白い肌をした薄い黄色な髪をした女性に止められた。彼女に呼び止められたところでアーセナルドはなぜか冷や汗をかいていた。
「あいつはどこにいるのかしら?」
「さ、さぁ。多分まだ部屋にいるんじゃないか? ユカリに呼びに行くように頼んだけど、彼しか連れてこなかったし…」
「そう…」
彼女はそう呟くと立ち上がり、
「悪いけど、先に食事をしていてくれるかしら。あいつをこの場に連れてくるわ」
そう言うと部屋から出て行ってしまった。
「あ~、やっぱりこうなってしまったか…」
「……し、仕方…ない…です。ごめんなさい…」
「もう、アリアは謝らなくていいんだよ? それもこれもヴェルデがマイペースなのが悪いんだから」
「でも、サルファ…さん…、止められず…」
「あ~、事情はよく分からないが、とりあえず食事にしないか? 俺は紅羽以外のことはよく知らないし、自己紹介をしてもらえると助かる。」
知織は混沌としてしまった場を仕切り直そうとそう言った。また、この場にいるもう1人の青い髪をした少女はおそらく魚人族の承継者であろうということはわかったが、まだ自己紹介をしていないので先にその挨拶を済ませたかったのだ。
「そうだね。せっかく夕飯を用意をしてもらったんだ。食べ始めようか」
アーセナルドはそう言うと、祈りをささげ、紅羽はいただきますと、青い髪の少女は静かに胸元で手を合わせてから食事を始めた。
それにならって知織もいたただきますと呟いてから数日ぶりの料理を味わった。しかし、料理と言ってもそこまで凝ったものはできなかったようで、パスタとフライドチキンのようなものと何かのスープ、サラダと言う献立だった。
(うん、これはこれでうまいな)
地球の料理と比較するなら調味料が足りていないのか素材の味を頑張って整えたまぁ食べられるかなという評価だったが、この世界で普通に食べられるというだけで特別な感じがしたのだ。
「さて、それじゃあ簡単に自己紹介をしようか。と言っても、ここにいないヴェルデとサルファは後回しでいいかな?」
「まぁ2度手間かもしれないが、そうだな、そうしようか。と言ってもアーセナルドたちはもう自己紹介が済んでいるだろうからそこの彼女から頼もうかな。ちょうどよく彼女たちが戻ってくれば俺も1度で済むはずだ」
「そうだね。それならアリア、自己紹介を頼めるかな?」
アリアと呼ばれた少女はアーセナルドのその言葉にビクっとしてから、もごもごと聞き取りづらい自信のないような声で自己紹介を始めた。
「ぎょ、魚人族…の…承継者……のア、アリア…です…。もとの世界…では…、お、お芝居の練習を……して…いました。でも、こ、こんな…性格なので……これを直すために……も、この世界に…来ました…」
「うんうん、頑張ったね。じゃあ、ここからは私からも補足するね」
アリアが簡単なプロフィールを言うと、同じ女性として仲が良くなった彼女の代わりに簡単に紅羽が他己紹介を始めた。
アリアは魚人族とはいっても特定の種の特性を受け継いだ魚人ではない。魚人族の中でも一般生物である魚などを統率する能力を持った人魚としての力を持っているようだ。
魚人族の特徴としての一般的に魚類といわれる魚の特性の一部を持っているだけのようだ。今は陸にいるため普通に足があるが、水中に入ると足がヒレに変わるらしい。そのあたりも切り替えは任意でできるようだが、今はまだ慣れていないので水に触れていると変化してしまうらしい。
紅羽が言うにはお風呂に入るときもそうなるようでとても綺麗な足?ヒレ?をしていたようだ。
そして彼女が承継者として受け継いだ能力の大部分は『歌』にあるらしい。彼女の歌は元々お芝居の練習をしていたということもあってとても優れており、それに磨きがかかり味方への能力上昇、回復効果、また相手への能力低下などの効果があるようだ。
「だからアリアはバッファー、デバッファー的な役割かな?」
「なるほど…」
「…でも、でも…そんなに期待しないでください…。そこまで…上手くは…ないです…」
「そんなことないって! アリアの声もきれいだし、人前での度胸がつけばもっとすごくなるよ!」
紅羽は自信なさげにしているアリアを励ますようにそう言った。
「それじゃあ次は一応私も自己紹介をしようかな。」
「そうだな、ここでの紅羽の能力がどういったものになるのかは興味があるし何よりも…」
知織はそこで一度言葉を区切り、目線を彼女の頭上に目を移して、
「そのネコミミが何なのか気になるしな」
そう言った。見た目としては地球での紅羽の容姿とそこまで差はないが、耳が頭上のネコミミになり、髪が名前の通り紅色に変わっていた。
「あはは…、やっぱりそこは気になるよね。私も自分の姿見てビックリしたもん。いきなりネコミミになってるんだよ? 知り合いに見られたら超恥ずかしいって思ってたら知織がこの世界にいるし…」
「俺も紅羽がいるとは思っていなかったよ。それで、紅羽の種族は獣人でいいのか?」
「うん、そうだよ。私が獣人族の承継者! 種族は多分猫なのかな? ステータス表示はネコ? としか書いてないからよくわからないんだよね」
「そうなのか?」
「うん。多分だけど、この世界に対応する種族がいない地球の種族なのか、逆にこの世界にしか存在しなくて地球にはない種族だから?なんじゃないかって思ってる」
彼女がそう言うとアーセナルドとアリアもうんうんと頷いていた。
「そうだね。僕たちも彼女の種族の特徴がネコということはわかったけれども、それ以上のことはよくわからなくてね。」
「あのあの…、…私みたいに、身体に…特徴もなかったですし、多分、ですけど…」
「そうか。まぁそれならネコということでいいだろう。そこまで種族が大事とは限らないだろう」
「う~ん、少しは関係あるよ? マタタビとかあると酔っちゃうし、動いているものがあると最初の頃は体が反応して落ち着かなかったし」
「…大変だったな」
「他人事みたいな反応!?」
「実際そうだからな。俺もこの種族になったことで体が保続なってしまったし、それぞれ何らかのメリットとデメリットを負っているんだ、自分だけが大変だったわけじゃない」
「まぁそうだけどさ~」
その後も簡単にだが紅羽は自分にできること、自分が得意としていることを説明してくれた。どうやら普通の獣人は魔法の適正がほとんどないようだが、彼女は火属性と光属性だけは使えるようだった。これは彼女のユニークスキルが発動しているためらしいが、それも表記が〈???〉らしい。
召喚の際に神様に話を聞いたらしいがそちらでも理由は明かされなかったようだ。ただ、『そのスキルは一部だが常に発動しているようだから、何らかのきっかけがあれば目覚めるかもしれない』と言われて、今に至るようだった。
「と、まぁそんな感じかな? 後は気になることがあったらあとで聞いてね。私自身もまだこの体でどこまで動けるのかはわかりきってないし、おいおい能力もわかるはずだから」
「わかった。とりあえず今は何ができて何ができないか各自の把握が必要だろう。俺もまだ魔法しか試したことがないうえに、それも訓練にすぎないからな。実戦でどうなるかはわからない」
「魔法使えるの!? いいなぁ。私もスキルとして取得しているみたいだけど、まだ使えないし、魔法を使う感覚がわからないんだよね」
「そうなのかい?」
紅羽が魔法を使う感覚がわからないということを話すと、アーセナルドは驚いた様子で口を挟んできた。どうやら彼にとって魔法は使えて当たり前というものだったようだ。
知織は、承継者が元々自分たちがいた世界の常識などもすり合わせていく必要があると考え、そのあたりの話もしなくてはと思いながらも彼の話に耳を傾けた。




