017 植物魔法について
知織が新魔法を続々と開発をしてからも3人は訓練場で魔法の開発、検証、訓練をする日々を送っていた。
クリスティアが途中で意識を失ってしまった翌日、彼女たちがいなくなってから知織が新たな魔法を開発していたことを知ると、そんな簡単に魔法を習得できてたまるものかとクリスティアやメグミは驚き憤慨していたので、それらを実演してみせると彼女たちは言葉を失っていた。
そんな彼女たちのことを知織は放置してクリスティアに伝えた過去のエルフが使っていたとされる『植物魔法』の訓練を始めると、クリスティアは
「また何か新しい魔法を始めるのです!?」
と驚いた声を上げたが、それが植物魔法だと知ると、
「それなら私も覚えたいのです!」
と言って、知織から植物魔法に着いて教わり、その魔法の発動を実際に観察し、自分の魔力で再現しようと躍起になった。メグミは午前中の間は個人技の訓練をし、午後は知織も合流して一緒に近接戦や魔法戦の訓練をした。
クリスティアも午前中の間ずっと植物魔法の訓練をしていると午後になってから最初の訓練では使い物にならないので、知織とメグミの模擬戦を観賞し気になる点を指摘、その後は魔力が回復してからは2対1で知織の戦闘訓練をしていた。
また、2対1で戦うときは知織から付与魔法を付与した魔法を使うように指示をし、実際の戦闘中でも使い物になるのか検証を彼女たちに任せていた。
「ウィンドボール!」
「打撃属性付与!」
訓練をしていくうちに彼らは付与魔法について少しずつわかった。それは、魔法の種類によって付与できる属性もある程度決まっているということだった。
ボールやブロックと言った相手にぶつけることを目的としている魔法では打撃属性、刃物のような形状をした魔法では斬撃属性、鋭い切っ先をしたような魔法では突撃属性しか付与できなかった。これは基になる魔法をイメージした結果そうなっているのだと言えた。
ボールを当てられて斬られた、刺さったと思うヒトはほとんどいない。また、ウィンドランスのように槍の形にした魔法を当てられて刺さった以外に感じるとしたらその質量による打撃かもしれないが、槍の形にした時点で貫通力をイメージしているので、突撃属性以外の付与ができなかった。
それらのことが模擬戦を重ねていくうちに彼らが分かったことだった。そして、最初の頃に知織がボールに打撃属性を付与できて、メグミが斬撃属性を付与できなかった理由もよく分かった。
「今日こそは植物魔法を習得して見せるのです!」
召喚から5日目、この日も変わらぬ様子で王城の訓練場を借りてクリスティアと知織は魔法の訓練を始めた。メグミはこの日は朝早くから母親に呼び出されているようで後から合流することになっている。
「さて、植物魔法についてまたおさらいするか」
知織は訓練を始める前にクリスティアにそう告げ、この数日間の訓練を思い返して情報を整理した。
『植物魔法
水と土の基本属性が最低限必要。光の魔力を組み合わせることで、よりこの魔法の力を引き出すこともできる。植物の一部でもない限り発動させることができない。』
これは知織が植物魔法について最初に得られた情報だった。スキルの説明としてはこれしか情報がなく、水と土の属性魔力がどう必要で、光の魔法を組み合わせるというがそれもどのような形で加える必要があるのかは全くわからなかった。
それしか情報がなかった中、知織は水と土の属性魔力を練り上げ左手に水、右手に土の魔力を集めてから両手の中間に置いた薬草の種に植物が成長していくイメージを働きかけていた。
クリスティアもどうすればいいかわからず同じことをしていたが、しばらくすると知織の薬草の種にだけ変化は現れた。薬草の種がその場に根差し、成長して青い葉を生やしたのだ。
そして、その魔法が植物魔法であることを知ると、植物魔法の新しい情報が解禁された。どうやらこれは過去のエルフが使っていたとされる基本にして最終奥義とも言える植物魔法の『グロウアップ』らしい。
『グロウアップ』は植物の成長を早める効果がある。この魔法を習得した直後は、少し成長したかな? 程度の効果しかないが、この魔法を極めていくと一瞬で植物を生やすことができ、たった1つしかない種子でも数日で大量の花や実をつけさせることができる。
最終奥義とまで評価された理由としては、メーティスではないもう1人の起源の種であるエルフが最も得意としていた魔法のようで、品種改良を重ねて作られた危険な植物の種をその場で育成させて戦闘を行い、多くの魔物を葬ってきたからである。
そんなこともあり、知織は訓練を始めてから数時間で植物魔法を習得できた。そして、そこからクリスティアへと植物魔法を教え始めたのだ。
「植物魔法を発動させるには土と水の魔力を6:4の比率で練り上げる必要がある。これが基本だ。発展形は水と光をさらに2:2で練り合わせる必要があるが、まぁこれは後でいいだろう」
「はいなのです」
「また俺が魔力の合成を見ているから頑張ってくれ」
植物魔法の訓練は最初の頃に知織がクリスティアにマンツーマンで教わっていたころと逆になっていた。これも『全魔法適性』のおかげかもしれない。知織は魔力の合成を無意識に絵の具の色を混ぜるかのようにできたが、そんな簡単にできる技術ではない。
クリスティアもハイエルフへと至ったエルフであるので魔力量も魔力の扱いも普通のエルフよりも優れているのである。
ハイエルフへと至るエルフは少なくともメーティスの血が濃く出ていなければならないが、この時代のエルフであればまだそこまで薄れていないので王族のエルフはハイエルフへと至る最低限の条件は満たしている。
余談だが、本来なら王族しかなり得ないと言えるのだが、メーティスの全てを愛するという性格は会ってはならない事態を招いていた。それは多くの女性と関係を持ってしまったことだ。彼は全てを愛したがゆえに自らの子孫とも関係を持ち、子を作ってしまった。起源の種同士でできた子供の子孫は王族として認知されているが、実は普通のエルフたちの中にも認知はされていないが、多くのエルフにメーティスの血が流れているのだ。
話は戻すが、ハイエルフへと至る次の条件は帝位魔法を扱えるだけの魔力量と魔力操作技術を身に着けることである。他のエルフたちはそこまで訓練をしてこないのでこの条件を満たさないのでエルフのままだが、王族は他のエルフを守るためにも強くあれ、ということで厳しい訓練を経ているのでハイエルフへと至っているのだ。
そんなハイエルフへと至っているクリスティアでも魔力の合成は難しいのだ。少量の魔力であれば組み合わせることはそこまで難しくはなかった。しかし、魔法が発動する量まで合わせていくと途中で混ざらなくなってきてしまうのだ。
例えで言うなら塩を水に溶かそうとしているが、途中で水に溶け切らない塩が出てくる。しかし、魔法を発動させるにはその解け切らない塩もちゃんと水に溶かさないといけない、まさにそんな状態なのだ。
「いくのです!」
彼女はそう声を張り上げると両手を突き出し、魔力の合成を始めた。これは左手に土、右手に水の魔力を集め、両手の間で魔力を合成しているのだ。最初はクリスティアの体内で行っていたのだが、それでは知織がうまく合成されているのか視えなかったのだ。
なんとなくぼんやりと魔力は視えるのだが、それが土と水なのか、それ以外なのか、また混ぜた後どうなっているのか確認するのが難しかったのだ。
それならば放出した魔力で合成ができないかと知織が試し、不可能ではないことが確認できたのでクリスティアにも同じことをさせている。
「水が多い、もう少し減らせ」
「はいなのです」
「水を減らしたら土も減ったぞ。土は維持だ」
「…はい」
「また、混ざりきっていないぞ」
「むむむ…」
訓練は難航していた。うまくいっているのは低位魔法レベルでの魔力の合成だった。しかし、植物魔法は最低でも注意魔法並みの魔力が必要だ。中位並みにまで上げると、土属性魔力と水属性魔力がうまく混ざり合わないのだ。
「ぷは~~…。また、だめなのです」
彼女は大きく息を吐いて魔力の放出を止めた。
「しかし、着実に近づいているとは思うぞ」
「本当なのです!?」
「嘘はついていない」
クリスティアの魔力の合成はほんの少しずつだが成長している。おそらくこのまま練習をしていれば1月もあればうまくいくだろう。それぐらいのペースだが、これでもかなり早いのだ。知織のようなユニークスキルを持たないものならば半年かかってもできない可能性すらあったのだ。
「それならもっと頑張るのです!」
「よし、それじゃあ、次いくか」
「はいなのです!」
クリスティアが元気に返事をし、訓練を再開しようとしたところで訓練場の外から声がかかった。
「お嬢~! シオリ殿~!」
大声を出しながら訓練場へ入ってきたのはメグミだった。




