プロローグ 中編
メーティスの長い説明を聞き、どういう事情で知織がこの夢の世界に呼び出されたのかある程度理解した。
「しかし、俺が適合者というのはどういうことだ? この世界に魔法という技術はない。そんな環境で生まれ育った俺にはその知識・技術はないぞ。 他の世界にならば魔法を扱う世界もあったはずだ。そちらの人物の方が適合しているのではないか?」
知織は今までの説明を聞いて、人族の適合者ならおそらく似たようなものかもしれないということでまだわかる、しかし、メーティスの適合者では魔法が優れたエルフとしての適合者でなければならないのではないかと思ったのだ。そう考えるならば相応しい人物が他にいると思ったのだ。
「確かに魔法を儂のレベルで使いこなすという条件ならば他に適した人が他の世界におるじゃろう。しかし、儂の知識の全てを引き継げるという条件ならばそうはいないのじゃ。それに、適合者じゃからといって魔力を持っていなければならないわけではない。魔力が条件となるとこの地球もそうじゃがいくつかの世界では魔力とは全く違うエネルギーを用いた発展をした世界の人たちを招くことができん。そう言った配慮もあるし、ファンタズマに来てから渡されることとなっておる魔道具を付けておれば魔法を扱える身体を得られるはずじゃ。」
メーティスの説明に一応の納得はいったものの、
「それならば、何故俺なんだ?」
知織は自分でなければならない理由を知りたかった。彼も高校生にもうすぐなるという思春期真っ盛りの年頃だからか自分が選ばれし者であるならばカッコいいと思わなくもないが、他の人ではだめだと理由をはっきりと知りたかった。
「お主個人の持つオーラや性格といったところかのう…。うまく説明できないことは申し訳ないと思うが、儂とよく似た気質を持ち、魔力のようなオーラというものがあったからとしか言えんのう。オーラは人によって異なるがお主のオーラは儂のオーラと近しいものがあったんじゃ。」
メーティスもうまく表現できないことにもどかしそうにしていたので、知織はそれ以上の追及をすることはやめた。そして、知織はおそらく個人が発している雰囲気みたいなものだろうということで納得した。あまり深く考えても答えが得られることではないので無理やりそう思い込むことにしたのだ。
「なんとなくはわかった。だが俺とメーティスはそんなに似た気質をしているのか? 俺はメーティスのことを知らないからそうだな、と言えないんだが。」
「そのことならお主の部屋を見て儂と似た気質であることには納得がいっておるわい。」
そう言うとメーティスはカッカッカと笑っていた。どうやら彼は適合者を探している際に彼の部屋もたまたま覗いていたようだった。
「そんなにか?」
「うむ。お主の部屋にはたくさんの書物や研究道具があったのう。儂の世界にはまだ本というものは存在していないが、研究記録を紙にまとめている儂からすれば親近感を覚えるほどじゃ。おそらくお主は未知なるものを求め納得のいくまで真理や答えを求め続ける、そんな知識の探究者じゃろう?」
メーティスは笑いながら知織にそう言った。知織は彼の言ったことが自分に確かに当てはまると思い頷くしかなかった。
彼は生まれつき類まれなる記憶力と理解力を有していた。そして、小学生の頃から与えられた書物はそうだが、気になる書物の多くを読んできた。そのため、教科書や参考書のような学術書の内容も暗記しているのだが、それらを読み進めていると学説によっては矛盾することが書かれていることもある。そうなるとどちらが正しいのか、その本に書かれていることを鵜呑みにしていいのかと思うようになった。
小学生で実験を行うようになってからは彼自身の手でそれが正しいのかを試すようになった。実験をするための道具は誕生日に買ってもらうか、お年玉やお小遣いを貯めて集めていた。また、ただの学生にすぎない彼は危険な薬品は取り扱うことができないのでそれらを用いる実験ができないことを残念に思っていたが、そういうものは多くの資料から仮説を立てるだけ立てて、将来的に行おうと実験をするための資料をまとめている。
また、実験によく似た料理や数字によって表される確率も実証実験を行うことで本当にそうであるかも試したりしていた。そのため、彼の料理の腕は普通の学生よりも高く、調理実習では他の学生からすごいと言われていたりもしていた。
しかし、そのような奇怪な行動が目立つので友人はかなり少なかった。また、本を読んでばかりの彼は人付き合いもそこまでうまくはなかった。けれども彼はそういうことは気にしていなかったので、そこまで不自由にはしていなかった。
彼は感情を言うものが多くの本で表されているがそれが何なのかと考えている。本に書かれていた通りの行動をしても同じように思われないこともあれば、人によって思われることが違うのだ。彼は理解できないものだということでより多くの人を観察して、感情が何なのか知りたがっていた。
人と関わるのは感情を理解してからでも遅くはないとより多くの書物を読み、作者の気持ち、それを読んだ人の感想から推測を立てていたが、まだ、確証を得られていない。
「ふむ…、確かに俺は未知なるものを求める人間だが、メーティスもそうなのか? 神より与えられた知識があるならば理解できることの方が多いのではないか?」
確かに自分は誰よりも知的欲求がある人かもしれないと納得をしませた。しかし、知織はメーティスが神より知識を与えられているならば試すまでもなく結果がわかるのではないかと思いそう尋ねたのだ。
「確かにわかるが、それは例えるならばA=Dとなることを知識として与えられておるんじゃ。その過程にあるA=B、B=C、C=D、じゃから、A=Dという過程は教えられていないんじゃ。なぜそうなるのか、結果は知っておっても過程が不明なのじゃ。儂はそれがもどかしくて本当にそうであるのか、他のものでAやBを表して代用できないのか、儂はそれを知りたかったのじゃ。じゃから、儂も他の者たちよりも知的欲求があったのじゃ。幸いにして時間も多くあったしのう。」
メーティスは何かを思い出すようにそう語った。そしてメーティスの気持ちに内心で同意できていたことからも、俺は爺さんと確かに似ているんだなと、納得をすることもできた
。