プロローグ 前編
久しぶりの新連載です。
前作については申し訳ないですが、打ち切りとさせていただきますm(__)m
作者が就活の息抜きの間に書いていたものが溜まっているので、溜まっているものがなくなるまでは毎日20時に投稿させていただきます。
(ここはどこだ? 夢の中なのか…?)
俺は気が付いたときにはもう何もない真っ暗な空間にいた。上下左右の方向感覚もわからず、ただそこに漂っているという感覚だった。さすがにこれは夢だろうと思い自分の頬を抓ってみると、思った通り痛みなどの感覚もなかった。
(痛みがない…。やはりこれは夢なのか。しかし、これはどういう状況なんだ…?)
彼―――大宮 知織はどうしてこんな空間にいるのか考えこんだ。夢だとしてもここまで意識がはっきりしているのはおかしいと思っているのだ。一番新しい記憶は昨晩自室のベッドで横になるところだった。
しばらく彼はこの状況について、思いつく限りのことを考えこんでいた。
「おーい、聞こえておるか? おそらく意識の同調はできておるはずなのじゃが…。」
真っ暗な何もない空間のどこからかそんな声が聞こえてきた。急に聞こえてきた声に知織は驚き固まっていると、
「…お主も今なら声が出せるはずなのじゃが、返事をしてもらえんかのう? 返事がないと儂悲しいじゃが…。」
「あ〜、あ〜、聞こえているか?」
不思議な年老いた男性の声が悲しそうにしているので知織は発声を試みると、しっかりと声を出すことができた。
「うむ、聞こえたぞ。お主の意識との接続はうまくいったようじゃな。いや~、うまくいって良かったわい。」
声の主は満足げにそう言っていたのだが、知織には姿を見ることもできず、何がどうなってこうなったかわからないので虚空に向かって声をあげた。
「すまないが、姿を見せてもらえないか? そして、ここがどこなのか説明してもらえないだろうか? 俺の意識ははっきりしているのに体の感覚がない、夢のようで夢でないこの空間に戸惑うばかりなんだ。」
「ふむ、そうじゃのう。少し待っておれ。」
声の主はそう言うと、知織の目の前にぼんやりと靄がかかったような姿を現し、少しずつその姿をはっきりと映し出した。
「これでどうじゃろうか。自分の姿をはっきりと映し出すのは難しいんじゃ。儂の姿というのは自分でそんなに見ることがないからはっきりとは覚えておらんのじゃ。」
知織の前に姿を現した声の主は白髪の白衣を着た老人だった。老人の特徴は右手に大きな杖を持っていること、瞳の色が黄色かったことだ。杖が気になった理由は、それはマンガやゲームに出てくるような大きな杖で現代日本の老人や足を怪我した人が持っているような体を支えるための物とは異なっていたからだ。
「姿は見えるようになったが、爺さんはいったい何者だ?」
知織は警戒心を少し抱きながらそう問いただした。彼の姿は少なくとも日本人のようではなく、また、彼の知る外国人の容貌や服装とも異なっているように見えたからだ。
「まぁそう警戒しなさんな。儂の名前は、アイシュベルト・ワイズ・メーティスじゃ。そしてこの場所はどこかと言われれば、お主の夢の中じゃ。儂が魔法でお主の意識が現実を離れる瞬間に接続をしたんじゃよ」
老人―――アイシュベルト・ワイズ・メーティスは魔法という非科学的な発言をしたので知織は困惑をしたが、彼から自己紹介をされたのでこちらも自己紹介をするべきだと思った。
「大宮 知織だ。今は中学を卒業して、高校に入学する直前で曖昧だが、一応まだ中学生のはずだ。」
「中学?高校?というのはわからんが、学生ということは学び舎で研究をしているということでいいのかのう?」
知織がした自己紹介をうまく理解できていないことからやはり日本人ではないということに確信を覚えたが、それ以上に認識に齟齬が生じていることからも外国人だとしても違和感を覚えた。
「まぁ、間違いではないが正しくもない。研究ではなくまだ学習の段階だ。先達の残した軌跡をたどっているに過ぎない。自分で何かを考えるのではなく、既に確立した内容を教わっているだけだ。」
知織はうまく説明ができそうにはないので、あえて難しい表現をして誤魔化そうとすると、
「ふむ…。まぁ、なんとなくじゃが分かったからいいわい。それよりも、儂のことはメーティスとでも呼んでくれ。お主にこうして接続していられる時間に限りはあるからのう。さっさと本題に移るべきじゃ。」
「…わかった。それでここは俺の夢の中と言ったがどういうことだ? それに先程は魔法という言葉を口にしたが、この日本、若しくは地球上でそんなことができる人々がいるのか? そして…。」
「ま、待つんじゃ。そんなに矢継ぎ早に質問をされるとこちらも困ってしまう。一つ一つ答えようとは思うが、まずは儂の説明を聞いてからにしてもらえんかのう?」
メーティスにそう言われた知織は頷くと、メーティスはゆっくりと説明を始めた。
メーティスはこの地球とは異なる世界の異なる惑星で暮らしていると説明をした。メーティスのいる向こうの世界はファンタズマと名付けられた世界らしい。
この説明を聞いた知織はSFチックな話で、最近流行りの異世界物のライトノベル的な話をしだしたのだと理解をした。また、それが実際にあるということで驚きと興奮を隠しきれなかった。
異世界―――ファンタズマはまだ創り出されてから3000年ほどらしいが、地球よりも少し大きな惑星らしい。そしてメーティスを含む16の魂は神により知性ある種族としてある程度惑星が環境を整えられてから創り出されたらしい。
メーティスはこちらの認識で言うならばエルフという種族に当たる種族らしい。その他にも獣人、魚人、竜人、ドワーフ、天族、魔族、人族が2人ずつ創り出された。そして、その種の祖たる彼らは子供を増やし続けてその種を繁栄させていった。
しかし、繁栄させるために必要な知識や技術というのはすぐに得られるものではなかったので、祖たる起源の種である彼らがそれぞれの神よりその知識や技術を授り、それぞれの子孫に伝えていった。そして、他種族とも知識や技術を共有していくことでファンタズマは発展していくことができた。
だがそれもそこから更に数千年の時を経れば失われていく知識や技術が多くあった。それは日本においても何もおかしい話ではないので「確かにそうだろうな。」と思って知織は聞いていたのだが、彼らの世界では起源の種が生きていたことによる弊害があったのだ。
神より創られた彼らはファンタズマの発展のために長い時を生きるように創られていた。それは彼らから生まれ増えた子孫よりも遥かに長い時だった。それぞれの種に設定されていた命の長さは異なるのだが、竜人が最長で3000年、次点の天族と魔族は2500年、そしてメーティスの種であるエルフとドワーフは2000年ほどに設定されていた。ちなみに、獣人と魚人と人は1000年らしい。子孫たちはそれぞれのその10分の1ほどが寿命らしい。
獣人・魚人・人族は他の種族よりも先に起源の命が失われてしまったために、失伝された情報が多かった。しかし、他種族にはまだ生きて失われた知識を持つ者たちがいる。
それならばどうするか? 彼らは知っている人たちから聞き出そうとした。最初の頃は情報交換も丁寧に行われていたのだが、いつからか狡賢い人が生まれ、情報に対価を求めるようになった。そのため、要求が次第に増長していくと交渉は難航していき、情報の秘匿・奪い合いが生まれた。
起源の種である彼らは他種族との争いは望まず、神より授かった知識・技術を広めて世界の発展を目指したのだが、子孫の彼らは神の言葉を聞くことができないのでそんなことは知ったものか、と自分たちが生きるのに有利な世界にしようとしてしまった。
そこで起源の種である彼らが争いの基になっているので、自らの命を断とうとした。現に断ってしまった者もいる。しかし、それで争いが収まるわけでもなければ、寧ろ知識や技術を伝えられる人がいなくなってしまったために情報の価値が高騰してしまった。
そこで彼らはそれらの知識や技術を正しく伝えられ、それぞれの種の争いを収められる人を探すことにしたのだ。そして、彼らは自分の種族だけではなくそれぞれの種族の代表者に知識や技術を伝えた。
一時はそれでうまくいっていたのだが、彼ら種族としての得意・不得意によってそれらが変化して伝えられていった。それもまた世界の在り方だろうと思い起源の種である彼らも気に留めていなかったが、再び争いが生まれた。
それは、どちらが優れ、どちらが劣っているのかということが最初の理由だった。それらの争いを止める術を彼らはもう持ち得なかった。なぜなら彼らは弟子に伝えてからは世界から姿を隠していたからだ。彼らの存在が公になっていれば彼らを探そうと各種族が躍起になってしまい、要らぬ争いが起きると危惧したからだ。
起源の種たちは神の望む発展した世界を作り出せていないことに大いに悩んでしまった。自分たちの与えられた使命を果たすことが彼らの生きる意味で、使命を果たせないこの状況が歯痒いのだ。
彼らはどうすべきか悩んでいたが、時間が迫っていた。ドワーフとエルフもそろそろ命が尽きようとしており、天・魔も残り500年のはずが自らの寿命を削って行使した術のせいでそこまで長くなかった。残るのが竜人だけになってしまうが、残った彼と彼女も他の種族の最後とともにその命を終えようとしていた。彼らは種族柄、他者への愛情が深く、孤独に耐えられないからだ。
どうしたらいいのか途方に暮れていた、そんな時、ファンタズマの創造神から神託があったのだ。
『過去・未来・他世界の者でもだれを選んでもよい。彼らに協力を仰ぎ召喚するといい。この度の争いは我々も不本意である。この世界は他の世界よりも遥かにバランスが取れている。他の世界の神も注目をしており、必要な人材を数人までなら派遣しても良いと許可を得ている。』
神託を得てから起源の種は探した。それぞれが持つ特異な能力を用いて、彼らの知識・技術を引き継ぐことが可能な器を持つ適合者を探した。
「そこで探した出した儂の適合者の候補者がお主だったというわけじゃ。」
お読みいただきありがとうございました。