水魔法!
「城門」では特に大した審査も無く、割とすんなり街から出ることができた。審査があるのは街に入るときだけらしい。
「クエスト受注」の職員さんの言う通り、街を出たらすぐ目の前に森があった。
森に近づくと、ちらちらと紫色の物体が見える。あれがスライムだろう。
それにしても思っていたより数が多い。パッと見ただけで四~五匹ぐらいいるだろうか。これならすぐに十体倒せそうだ。
僕は、森に入る前に水魔法の練習をすることにした。
「水よ、出ろ」
右手を前に突き出してかっこよく言ってみたが、何も起こらない。
魔法の技名を言えばいいのか?
「水球」
やはり何も起こらない。
この世界の魔法は精霊に呼びかける感じなのだろうか。
「水の精霊よ、我に力を貸したまえ」
何も起こらない。やばいめちゃくちゃ恥ずかしい。
まずは一旦落ち着こう。僕が今まで読んできたラノベの主人公はどうやって魔法を使っていただろうか。
ベタなのは、「大気中にある魔力を掌に集める」だろうか。やってみよう。
大気中に漂う魔力の粒……
結論から言うと無理だった。
よく考えたら、僕のスキルは『魔力無限』だ。この世界では体中に魔力がある感じなのだろう。
ということは「身体中に魔力をめぐらせる」パターンか。
目を閉じて集中し、深呼吸して、身体の中に意識を向ける。
……自分の中にものすごいエネルギーがあるのが分かる。これが魔力だろうか。
これを全身にめぐらせる……ゆっくりと、ゆっくりと……
なんだか力がみなぎってきた。今ならきっと出来そうな気がする。
右手から水が出るところを強くイメージする。
「水よ、出ろ」
その時、右手が薄く青色に光り、掌から水があふれだした。
「おぉ、成功」
なんだか不思議な感覚。これが、魔法……
僕はテンションがあがって、掌から湧き出す水を飲んだ。
昨日から何も食べたり飲んだりしていないのもあって、しばらくゴクゴクと水を飲み続ける。
「っ、ぷはぁ」
魔法で出した水はなんかぬるかったし、全く味がしなかった。それでも、喉の渇きを癒すのには十分だろう。
水を止めようと意識すれば、意外と簡単に水は止まった。
昨日は「水魔法は弱い」みたいなこと思ってたけど、もし僕の適正が水魔法じゃなかったら恐らく喉が渇いて死んでしまっただろう。
もう一度水が出るところを意識する。また手が光りだし、水が出てきた。魔法の発動はもう大丈夫そうだ。
次は魔法の制御だ。スライムを倒すのにウォーターボールぐらいは使えるようになりたい。
手から出る水が球になって宙に浮かぶところを強くイメージする。
ただ水を出した時よりも手が強く光り、水が泡立つ。
あともう少し。僕は右手にもっと魔力を込める。
すると、今まで湧き出るだけだった水が、掌の少し上で球体になった。
「おぉ……!」
感動して思わず声が出る。
水の球は宙に浮いていて、ある程度動かすことができた。
僕は水球を保ったまま、ゆっくりと森の方へ歩いていく。
近くにいたスライムが僕に気付いた。
「ピギー、ギュッギュッ」
威嚇しているようだ。僕はスライムに水球を投げつけた。
「ジュワアッ」
水球をぶつけると、その部分が音を立てて溶けた。ギルド職員のお兄さんの言っていた通りだ。
僕はその後、数回ほど水球を使って、スライムを倒すことに成功した。