異世界で生きていくということ
「はあぁぁ!?」
赤髪の冒険者さんが叫ぶ。はっきり言ってうるさい。
周りを見ると、他の冒険者たちもびっくりしていた。なんかすみません。
「なんなんだよお前……金が欲しくないのか?」
いや、欲しくない訳ではない。むしろ貰えるなら受け取りたい。
だが『呪い』の基準が不明なので、できるだけ自分に都合の良い展開にはしたくないのだ。
でも赤髪の冒険者さんは『呪い』の事について知らない。なにかそれっぽい理由をつけなければ……
「あーその、僕、ズルみたいな事して自分はいい思いするのは嫌で……」
「いや、ズルじゃなくて文化みたいなやつなんだけどな」
そこまで言うのなら、そういう文化があるのは本当なんだろう。次からは突然変異の魔物を倒したら道の真ん中に置いておこうかな。
それより、これ以上時間をとって後ろに並んでいる人に迷惑をかけるのも申し訳ない。僕は備え付けてあった羽根ペンにインクをつけ、書類に「カイト・トールフラッグ」と書いた。
「うっわマジか。そんなにオレと飯行きたくない?」
「なんでそうなるんですか」
たぶん、この人は僕と一緒に食事に行きたかったのだろう。なぜ僕なのかは知らないけれど。
僕からしても、先輩の冒険者と繋がりを持っておけば、今後役に立つかもしれない。
「じゃあ一緒に食事いきます? 薬草採取の報酬で700ゴールドは入りますし、軽食的なやつなら食べれると思います」
僕がそう言った途端、冒険者さんの顔が一気に明るくなった。
「うぉよっしゃあ! 行こう行こう! すごい良い食堂知ってんだ。なんならオレが奢るぞ!」
「いえ、別に奢らなくてもいいです……」
職員のお姉さんに書類を渡す。
「では、10日経っても魔石の落とし主が現れない場合、鑑定額の半分をカイト様にお渡しします。魔石の正確な鑑定額は後日お知らせしますね」
「わかりました」
これで10日後に約3000ゴールドの収入だ。と言ってもよく分からないので、食堂に行ったらメニューをよく見て、物価を学んでおこう。
「こちらが薬草採取クエストの報酬の700ゴールドになります。ご確認ください」
職員さんから袋をもらった。中には確かに銀色の硬貨が7枚入っている。今の所持金は銀貨10枚、ちょうど1000ゴールドだ。
「はい。ありがとうございました」
僕は軽くお辞儀をして、ギルドをあとにした。
~ ~ ~
「よしそんじゃ早速行こうぜ! あー腹減った」
歩きながら大きく伸びをする冒険者さん。すると、「グゥ」とお腹の音が鳴ったのが聞こえた。思わず少し笑ってしまう。
「ふふっ」
「あっテメーやめろよ! 恥ずかしいじゃねぇか」
そう言って赤髪の冒険者さんも笑う。ふと、僕が元の世界で、友人とこんな感じのやり取りをした事を思い出した。
「あの、冒険者さん」
「なんだ? あぁ、そういやまだ名前言ってなかったな。俺としたことが。俺の名前はレイヴ。レイヴ・スティックだ」
レイヴという名前だったらしい。
「じゃあレイヴさん。その、これから色々とお世話になると思うので、よろしくおねがいします」
「おう、構わねぇぜ。お互いよろしくな!」
レイヴさんが手を差し出した。僕はそれを握り返す。
はじめはこの世界についても『呪い』についても何も分からず、困惑した。
でも今は魔法も使えるし、突然変異のスライムだって倒せた。そして隣には頼もしい冒険者の先輩もいる。
僕の戦いは、ここからだ。
(見てろよ、『神』……僕は絶対に、元の世界に戻ってみせる!)
見上げた空は雲一つなく、ただ広く、青く晴れ渡っていた。
これにて『神に「ご都合主義な展開をしたら死ぬ呪い」をかけられました』は完結です。
最後まで付き合ってくださり、本当にありがとうございました!




