情報収集(ぬすみぎき)
路地裏の壁にもたれてぼーっとする。
今まで読んできたネット小説の主人公たちは、街の中に転生したら、街をぶらぶら散歩したりしていた。
しかし、その後には必ずといっていいほど女の子がチンピラにいじめられていたり、冒険者ギルドを見つけてSランク冒険者になったり、いわゆる『ご都合主義』な展開が待っている。
つまり、僕が街の中を歩いたりしたら死ぬ可能性がある。
どこでご都合主義に出会うかわからないから、下手に動けない。軽く詰んだ。
とりあえず、僕は通りの人々の会話を盗み聞きすることにした。今はそれぐらいしか選択肢が思いつかないし、もしかしたら何か役に立つ話が聞けるかもしれない。
「……、あー、それにしても腹減った」
「そういえば良さげな食堂あったんだよ。一緒に行こうや」
「……、そういえば、最近森のスライム多すぎない?」
「いくらなんでも増えすぎだよね。まぁ雑魚だから別にいいんだけど」
「ねぇパパ! 次あそこ行こ!」
「すまん、ちょっと疲れてきたんだ」
とりとめのない会話。まぁ、最初から期待はしてない。
でも、スライムが大量発生してるのはちょっと気になるな。
「……やっぱりいつ見ても君は綺麗だ。愛してるよ」
「えぇ、私も。大好き! ……」
「……、おい! 今ぶつかっただろ! 謝れや!」
「ヒッ、すみません!」
「あれ? ギルドカードが無い! また再発行しに行かなきゃ……」
ギルドカードとかあるらしい。いつか僕も作ることになりそうだ。ご都合主義が起こらなければいいけど……。
「おいお前、そんなとこで何してるんだ?」
「お前だよおまえ。聞こえてるか?」
「俺の言ってることは解るか? 何か返事をしてくれ」
ぼんやりして話を聞いていたら、おっさんに肩をゆすぶられた。どうやら僕に話しかけていたようだ。
「ぅあ、聞こえてます」
「言葉は解るみたいだな。そんな所に座り込んで何をしてたんだ?」
どうやら、不審者に間違われたらしい。
「えっと、何もしてないです。ぼーっとしてました」
「……んー、黒髪黒目、見慣れない顔だな。名前はなんて言うんだ?」
職務質問された。たぶんこの人は見回りの兵士かなにかだろう。
「高旗 界人です」と言おうとしてやめる。この世界では、名前と名字どちらを先に言えばいいのだろうか。
「えっと、その……」
「……荷物も無いな、どこから来たんだ?」
「異世界」と言ったら頭のおかしい人と思われるだろうか。
「すみません、わかりません」
「……」
「……」
「もしかしてお前、記憶喪失か」
おっさんが「真実に気づいた」みたいな顔をしていたので、とりあえず頷く。
この世界の事については何も知らないし、そういう事にしておこう。
「そうか、記憶喪失か……んじゃあとりあえずギルド行くか」
「えっ」
「ギルドに行って、ギルドカードを作りに行くんだ。ギルドカードは身分証明になるからな」
早速僕はギルドカードを作りに行くことになった。
……てかちょっと待て。これ「ご都合主義」じゃないか?
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もっといい作品を目指して頑張っていきたいと思います。