そして決着
感想・ブックマーク本当にありがとうございます。
とても励みになっております。
僕を包み込んでいる水のドーム。僕は身を屈めているとはいえ、そこそこの量の水だ。すごい勢いで上に打ち上げれば、上手くいけばスライムの核を吹っ飛ばせるかもしれない。
「ぐぷぐぷじゅおぉぉぉぐぷぷ」
すぐ近くで響くスライムの音。これに触れてはいけないと僕の勘が告げる。
既に覚悟は決まっている。やるしかない!
よりダメージを与えるために、両手から水を出して、今度は少しずつドームの質量を大きくしていく。
「じゅぉぁぉおおおぐぷぐぷぐぷぷ!」
だんだん意識が朦朧としてきた。酸素が欲しい。
頑張れ自分。絶対に気を失うな。もう少しの辛抱だ。そう自分に言い聞かせ、気合いで意識を保つ。
もっと肺活量を鍛えておけばよかったという思いが頭をよぎる。が、そんなことを考えている暇など無い。大事なのは今だ。魔法に集中しよう。
次に、この水のドーム自体を巨大な水球とイメージする。
ドームの中が細かく泡立つ。なんとか制御できそうだ。
これに、全てを賭ける。
腕に魔力を込め、このドームを真上に飛ばすことを強くイメージ。
そして思いっきり魔法を発動する!
その瞬間、
水のドームは僕を包み込んだまま真上に打ちあがった。
「じゅわあああおおおああぁぉぉ!」
「ゴボっ!?」
身体が滅茶苦茶に回転し、視界が赤と青でぐちゃぐちゃになる。
パニックになって水を吸ってしまった。鼻の奥が痛い。
「じゅゎおおおざばぁぷぐぶぐぉぁ!」
この音がスライムの溶ける音なのか水の音なのかも分からない。
「ぷはぁ」
突然、息ができるようになった。
脳に酸素が届き、意識がはっきりしてくる。
あれ? でも何で……
疑問が浮かんだ時には、僕の身体はすでに下に落ちていった。
「うわ、あああああ!」
空が見える。背中から落ちるのはヤバい気がする!
嫌だ、死にたくない!
「ぐぁっ! ぁぁ……」
そこそこ強い衝撃。体の中で内蔵が跳ねた。
だが、思っていたほどの──僕がコンビニの駐車場で車と衝突した時ほどの痛みは無い。
「……ぅぁ」
数十秒ほど呼吸を整えたら、だんだん落ち着いてきた。
どうやら丁度スライムのヌメヌメが真下にあってクッション代わりになったようだ。それと、きっとあまり高い所までは打ち上げてなかったのだろう。
ん?
『スライムのヌメヌメ』?
慌てて上半身を起こし、下を見る。
脛の辺りまで赤いヌメヌメに浸かってしまっている。が、それに核は無かった。
つまり、さっきの攻撃で核を吹っ飛ばせたという事だ。
なら、どこか近くに落ちているはず!
辺りを見回す。
スライムの核は、そう遠くないところにあった。
「ぐぷぷぷ……」
サッカーボールぐらいの大きさの核。流石は突然変異、すでに表面から赤いヌメヌメが滲みだしている。再生しかけているのだろう。
だが、まだ移動はできないようだ。倒すなら今しかない!
短剣はどこかに行ってしまったが、ギルド職員のお兄さんの『素手で倒せる』という言葉を思い出した。頑張ってみよう。
核を右手で思いきり掴み、魔力を込める。
そして、水を出しながら爪を立てて、僕はスライムの核を潰した。




