突然変異のスライム
薬草採取中に出会った、血の色をした巨大なスライム。もしこれがゲームだったら、まさに序盤のボスにぴったりな魔物だろう。
でも、この世界に転生してたった三日しか経っていない僕には早すぎる。魔法もほとんど使えない。言わばレベル一桁台だ。
やはりここは逃げるのが賢い選択。
「くぷぷ……」
スライムは僕の事を見定めているようだ。一度攻撃して、ひるんでいる間に逃げるのであれば、今がチャンスだろう。
周りに浮かせていた『大水球』を、一気にスライムにぶつける。
「はあっ!」
「ごぼっ、じゅわぁぁぁぁぁ!」
水球が当たった所が音を立てて溶け、スライムが悶えた。
そしてこの隙に僕は全力ダッシュで今まで来た道を戻る! スライムは液体状の魔物だ。ゴブリンほど足は速くないはず……
だが、
「ぐあぁっ!」
数秒ほど森を走ると、突然右脚の痛みが強くなった。『呪い』だ。思わず立ち止まってしまう。
メリーが今、僕の事を考えているんだ。
他人の思考でも『呪い』が発動するのは本当に勘弁してほしい。
「ぐぷぉ……」
後ろからスライムの声が聞こえ、振り返る。
「ひっ」
今まさに、スライムが僕に覆いかぶさろうとしていた。
ヤバいヤバいヤバい、このままだと食われる!
「ぐぷおおおぉぉぉ」
恐怖で足が動かない。もうダメだ。死を覚悟し、目をつぶる。
その瞬間、僕の頭の中に映像が浮かんできた。
元の世界にいた頃の、数々の思い出。
育ててくれた両親の顔。
一緒に遊んだ親友。
平凡な、それでも楽しかった日常。
そして、雨の中からこちらに突っ込んでくる車。
僕を異世界に転生させた『神』。
これが走馬灯というやつなのだろう。そして『神』が話し始める。
『……病院のベッドで、深い眠りについているよ』
そうだ。僕はここで死ぬわけにはいかない。
『魔王の瘴気の影響で魔物が突然変異したりしてるから、それを倒してほしいんだ』
思い出した。突然変異の魔物を倒す。これが僕の使命。
そしていつか必ず、元の世界に帰ってみせる!
前を見る。そこには今にも僕を飲み込もうとするスライムの巨体。だが、時間の流れはとてもゆっくりに感じた。
脳をフル回転させる。僕がやるしかないんだ。考えろ。どうすればこの状況を打開できるか。
迫りくるスライム。
そうだ。水魔法で「壁」を作る事ができれば……!
両手を前に突き出し、そこから大量の水を出す。
そして強く魔力を込めて、突然変異のスライムと同じくらいの大きさの分厚い壁を形作る!
よし! 間に合った!
「ぐおおおおおぉぉ」
突然変異のスライムが、水の壁に触れる。
すると、
「じゅわあああああぁぁぁあああ!」
すごい音を立てて、壁に触れた部分が溶けていった。




