ヒール草は湿布のような匂いがした
木漏れ日の森に着くまでの間、歩きながら水魔法の練習をする。
十個ほどの水球を出し、自分の周りをくるくると動かす。
そして水球の一つを口元に持ってきてすすって飲む。うん、相変わらず生ぬるい。
こうして練習をしていると自分でも魔法の制御が上手くなっているのを感じる。
もっと練習を続ければ、『水鉄砲』や『水刃』も攻撃手段として使える日も近いかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、木漏れ日の森の近くまで来た。
スライムがうろうろしているけど、今受けているのは薬草採取だ。向こうから襲ったりして来ない限りは無視で良いだろう。
さっそく森の中に入る。確か職員さんは『ヒール草は木の根元によく生えている』と言っていた。効率よくヒール草を探すには、道の外に行った方が良い気がする。
道から出て木と木の間を歩きながらヒール草を探す。
少し歩いて、ふと、木の根元に青緑色の植物が数本生えているのを見つけた。
近づいてよく観察すると、職員さんに見せてもらった絵と特徴も一致している。花のにおいを嗅いでみると、湿布のような匂いがした。確か職員さんは『独特の匂いがする』と言っていたから、これで間違いないはず。
ヒール草は全部で三本生えていた。
一番下の二枚の葉は残してそれより上を摘み取り、貰った紙袋に入れる。
よし。この調子で頑張っていこう。
~ ~ ~
あれからけっこう時間が経ったが、ヒール草はまだ紙袋の三分の一も集まっていなかった。
一応探せば色々な所に生えているのだが、まだ花が咲いていなかったり、すでに摘み取られていたりしているものが多く、これならば森の入り口付近でスライム狩りをしている方が良かったと思い始める。
しばらくトボトボと歩いていると、少し開けた場所に来た。
周りの雰囲気が変わったことに気が付き、顔を上げる。
すると、顔を上げた先には、誰かがしゃがんで何かしていた。
「……ぅわっ」
突然人に出会い、驚いて思わず声を出してしまう。
茶色の長い髪。見た感じでは、僕より少し年下の少女のようだ。少女の横には、僕が手に持っているものと同じ紙袋がある。どうやら薬草採取に来た冒険者のようだ。
僕が声を出したのに気付き、少女がこちらを振り向く。
目が合った。
「……あっ、カイトさん、ですよね? こんにちは! カイトさんもヒール草を採りに来たんですか?」
「ぁ、はい。こんにちは」
見覚えのある顔。そして、聞き覚えのある声。
その少女は、昨日ギルドで僕をパーティに誘った新人冒険者、メリーだった。
メリーちゃん再び登場。これからどうなるのか……?




