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カイト君はパンが食べたい


 ふらふらと街の中を歩きまわる。


 さすがに道案内看板にはパン屋の場所は書いてなかった。まぁ、この街はけっこう大きいみたいだから、全てのお店をいちいち書いていたら、看板がいくつあっても足りないだろう。


 そんなことを考えながら歩いていると、どこからかパンの香ばしい匂いがしてきた。お腹がぐぅと鳴り、口の中が唾でいっぱいになる。


 匂いがするほうへ足を速める。右脚の傷が少し痛んだが、それがほとんど気にならないくらい僕は空腹だった。


 やがて、パン屋と思われる建物が見えてきた。建物の前にはちょっとした行列ができている。


 しばらく立ち止まって様子を見ていると、建物の扉が開き、パンの入ったバスケットを抱えた客が出てきた。ここはパン屋で間違いなさそうだ。


 職員さんから貰った袋の中にちゃんとお金が入っているか確かめて、列の後ろに並ぶ。



「お前さん、見ない顔じゃのぅ。この店に来るのは初めてかえ?」


 僕の前に並んでいたおじいさんが振り向いて、話しかけてきた。

急に声をかけられて少しテンパる。


「ぁ、はい。えと、最近この街にやってきたばかりで……」


「そうかそうか。レテファの街は良いところじゃ。ゆっくりしていきなさい」

「あ、はい」


 普通に歓迎された。

あと、この街の名前はレテファの街というらしい。やっぱり情報を手に入れるには人と話すのが一番だ。コミュ障も直していきたい。



「それにしても、お前さんは運がいいの」


 おじいさんがニコニコしながら話を続ける。


「? 何の話ですか?」


「ほれ、見てみ。今日はパンが三割引きじゃ」


 おじいさんが扉の前に置いてある看板を指さす。

そこには確かに『本日限定! パン三割引き!』と書かれていた。


「あっ……」


 偶然見つけたパン屋が、運よくパンを割引している。

これはどう考えても『ご都合主義』だ。このままだと呪いが発動してしまう。



「ん? どうかしたかの?」


「……すみません、用事を思い出しました。ではさようなら」


「ふぉ? そうか。今日はお得なのに残念じゃのぅ。ここのパンは美味しいから、また来るといい」


 おじいさんが残念そうな顔をする。きっとこの人はこの店のパンが大好きなのだろう。


 早足でパン屋から離れる。ここには今度、割引をやっていない時に来るとしよう。今は別のお店を探さなければ……


 ~ ~ ~


 しばらく歩いて、ようやく別のパン屋を見つけた。

先ほどの店と比べるとこじんまりとしていて、人も少ない。これならすぐにパンが買えそうだ。


 風がパンの匂いを運び、またお腹が鳴る。


 店の前に割引の看板が無い事を確かめて、僕は店の扉を押した。

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