街に帰ろう
街に帰る前に、ポケットの中にスライムの魔石があるか確認する。ちゃんと10個あった。大丈夫だ。
ギルドカードもしっかりある。しかし、転んだりしたからだろう、折れ曲がった跡がついてしまっていた。お金に余裕ができたら、ギルド職員のお兄さんが言っていたカードスリーブも買いたい。
倒したゴブリンを見る。
今回僕が受けたクエストは『森のスライム討伐』だったが、ゴブリンを倒したことを報告すれば、その分の報酬も貰えるだろう。
ゴブリンの討伐証明……たぶん右耳だ。僕が今まで読んできたラノベでは大体そうだった。
僕は刃こぼれした短剣を拾い、ゴブリンの右耳を切り落とす。
思っていたほど血は出なかった。
だが、切ったところから流れる血を見て、「自分の手で生き物の命を奪った」ということを改めて実感する。
それが嬉しいわけではない。むしろ、どちらかというと気持ち悪い。
嫌な思いはできるだけしたくない。だが、魔物を殺すことにいちいち躊躇っていては、僕はいつまで経っても元の世界に帰ることはできないだろう。
元の世界に帰るには、僕にかかっている『呪い』を解くか、魔王を倒すかしないといけない。この呪いは『神』がかけたものだから、そう簡単には解呪できないはずだ。そう考えると、魔王を倒した方が早いのかもしれない。
戦闘はできるだけ避ける、が、襲ってきた魔物は倒す。これがいいだろう。
ゴブリンは、目が合っただけで襲い掛かってきた。今回は怪我で済んだが、もしかしたら死んでいた可能性もある。自分が死ぬよりは、魔物を殺して気持ち悪い思いをする方がマシだ。
ゴブリンが腰に巻いていた布を取って水魔法で洗い、二つにちぎる。
片方の布でゴブリンの右耳を包み、魔石が入っていない方のポケットに入れる。
そして、ゴブリンが使っていた短剣の刀身にもう一方の布を巻いて、短剣をベルトに挟む。
元の持ち主は死んでしまったから、僕が使っても別に問題ないだろう。それに、刃こぼれしてはいるけど、攻撃の手段は多い方がいい。
僕はゆっくりと立ち上がる。
ゴブリンに斬られた右脚の怪我は、すでに血は止まっていた。まだちょっと痛いけど、歩けないほどではない。
僕はゴブリンの死体を持ち上げる。思ったより重く、少し引きずってしまう。
そして、道から離れたところの木陰まで持っていき、上から木の葉をかぶせる。これで道の邪魔にはならないだろう。
近くに魔物がいないか見回す。ちらちらスライムがいたが、スルーしておく。
僕は街に向かって、森の道を歩き出した。
木々の隙間から空を見上げる。真上にある太陽が眩しかった。




