お願いだ僕を助けないでくれ
「ぐぁ、あああ」
全身をハンマーで殴られるような痛み。
僕は耐え切れず、そのまま地面に倒れこむ。
水球が崩れ、ゴブリンが尻もちをついた。
「……! おい新米! クソ、こんな時に発作かよ……」
「ゴフッゴフッ、ゲギャギャ」
ゴブリンは咳き込んで水を吐き出している。
そしてしばらく赤髪の冒険者と睨みあっていたが、僕が呪いで倒れているのを見て、ニタリと笑った。
僕に向かってゆっくりと歩き出すゴブリン。
「チッ、先にゴブリンを片付けるか」
頼む。それだけはやめてくれ。
僕一人で倒さないとダメだ。『呪い』で死んでしまう。
「ぼう、けんしゃ、さん」
少し身体を動かすだけで、激痛が走る。思うように声が出せない。
「冒険者、さん、はなれて、ください……ぐぅっ」
「おい! 無理して喋るな! 安静にしてろ!」
冒険者さんが振り返って僕を見る。
その隙に、ゴブリンが僕の方へ走り出した。
「はっ、まずい!」
冒険者さんの反応が遅れる。
倒れたままの僕に跳びかかるゴブリン。
僕は激痛に耐えながら、精一杯声を振り絞って叫ぶ。
「『大水球』!」
ゴブリンの鳩尾に、全力で大水球を飛ばした。
ゴブリンが吹っ飛んだ。
「お前! 無理すんじゃねえよ! 大丈夫か?」
「はぁ、はぁ、少し下がっててください。このゴブリンは、僕一人の力で倒したいんです」
僕はふらふらと立ち上がる。右足が血まみれになっていた。
「お前、脚の怪我が……」
「やらせて下さい、お願いします」
冒険者さんが僕の右足と顔を交互に見る。
「……わかったよ。頑張れよ、新米。オレはここで見ておく」
わかってくれたようだ。
そして、冒険者さんがゴブリンを倒そうとしなくなったためだろう、『呪い』の痛みがだんだんと引いていった。怪我はまだ痛いけど、ゴブリンは倒せそうだ。
「グ、ギギギ……」
そうこうしているうちに、ゴブリンが起き上がってきた。
『大水球』をもう一度たくさん作って、ゴブリンを包み込む。
しばらくゴブリンは必死にもがいていたが、やがて動かなくなった。
水球を崩し、ゴブリンが息をしていないことを確認する。
「終わった……」
身体の力が抜け、その場に仰向けに寝転がる。
「よぅ、頑張ったな」
赤髪の冒険者さんが話しかけてきた。
「魔法が使えるってだけでも凄いのに、お前の魔力量ときたら! 将来はきっと大魔法使いになれるぜ」
「ぁ、ありがとう、ございます」
先輩冒険者に褒められた。嬉しい。
「もしこれから帰るんだったら、オレが送ってやるよ。どうする?」
「あー、大丈夫です。遠慮しておきます」
気持ちは嬉しいが、ご都合主義なので断っておく。
「本当に大丈夫か? まぁいいだろう。……おっと。オレはクエストを受けに来たんだった。それじゃああばよ! 応援してるぜ」
そう言うと、冒険者さんは森の奥へと向かっていった。
出会いも別れも、唐突な人だった。
さて、僕も街に帰るとしよう。
赤髪の冒険者は主人公の事を「新米」と呼んでイキっていますが、そこまで強いわけではありません。
先輩ヅラしていますが、冒険者としてはまだまだ初心者です。




