カイトvsゴブリン
脚に怪我を負い、僕はそのまま転んでしまう。
「いっ……!」
裾の長いズボンを着ていたこともあり、傷はあまり深くない。しかし、やっぱり痛いものは痛いし、このまま逃げてもすぐに追いつかれるだろう。血もけっこう出ている。
僕は改めてその魔物を見る。
緑色の肌、小さな背丈、尖った耳、額に角、大きな目玉。
腰にぼろ布を巻いており、右手には刃こぼれした短剣。
うん、完全にゴブリンだ。
この世界でこいつが何と呼ばれているか分からないけど、少なくとも僕の知ってる剣と魔法のファンタジー世界では、ゴブリンと言えばこのイメージだ。
「ゲギャギャ!」
ゴブリンが、転んだままの僕に切りかかる。
僕はとっさに『大水球』をゴブリンの顔に投げつけた。
「ギャッ!?」
突然顔に水をかけられ、驚くゴブリン。
その隙に傷口を水魔法で洗っておく。魔法で出した水だから、たぶん雑菌もいないだろう。
ゴブリンはしばらく手で顔を拭いていたが、やがて僕を睨みつける。
「キシャアァァ!」
そして、短剣を逆手に持ち替え、叫びながら飛びかかってきた。
「『大水球』!」
飛び上がったゴブリンに思いっきり『大水球』をぶつける。
ゴブリンが吹っ飛び、ドサリと音を立てて落ちた。
今のうちに逃げよう。そう思い、僕は左足を重心にしてよろよろと立ち上がる。
「グギギ……」
鳴き声が聞こえた。
振り返る。ゴブリンは短剣を構え、僕を睨みつけていた。僕を逃げさせてはくれないだろう。
戦うしか選択肢はない。しかし、『水鉄砲』にしても『水刃』にしても、僕の魔法にはほとんど殺傷力が無い。
少し考えた後、めんどくさいけど『大水球』で溺死させることにした。
空中に大量の『大水球』を作り、くっつけて巨大な水の球にして、ゴブリンを包み込み、閉じ込める。
「ゴボッ! ゴフゴフッ、ゴボボ」
ゴブリンが必死にもがく。水球の形が崩れてくるが、思いっきり魔力を込めて形を整える。
「ゴボゴボ……」
抵抗が弱くなってきた。あと少し……
「くっ……!」
右足の怪我が痛くて集中が途切れる。
しかし何とか持ちこたえ、水球が崩れてしまいそうなのをギリギリで保つ。
「おいおい、なんかすごい音が聞こえたから来てみれば、お前、今朝ギルドで倒れてた奴じゃねぇか」
突然僕の背後から、赤髪の若い男の人が現れた。冒険者のようだ。
「ったく、新米が森の奥まで来るもんじゃねーよ。脚も怪我してるし。ここはオレがサクッと倒してやろう」
そう言って冒険者は剣を抜いた。初心者の僕を助けに来てくれたようだ。口調は荒いけど、良い人のようだ。
だが、それは『ご都合主義』だ。
全身に、激痛が走った。




