事故に遭って転生
よろしくお願いします。
不運や幸運は、思いがけない時にやってくる。
その日は雨だったのだが、僕は友人とゲーセンに行く約束をしていて、近所のコンビニ前で待ち合わせることになっていた。
僕の方が先に待ち合わせ場所に着き、スマホを見ながらコンビニの軒下で友人を待つ。
その時『それ』は突然起こった。
高い音がして顔を上げたが、すでに遅かった。
雨でスリップした車が、すごい速さで突っ込んでくる。僕は避けることもできず、そのまま車にぶつかった。
「痛い」ではとても言い表せないような痛み。
そしてだんだん、僕の意識は遠のいていった……。
~ ~ ~
どれぐらい時間がたったのだろう。
気が付くと、白い空間にいた。しかし、病院ではないようだ。
辺りを見回しても何もない、完全なる『無』。
「こんにちは、高旗 界人くん」
中性的な声がした。振り向くと、そこにはゆらゆらした人影が立っていた。
「私は君たちの言う『神』みたいな存在だよ。まぁ、私の話を聞いてくれ」
ゆらゆらした人影が言う。とりあえず話を聞いてみよう。
「君の名前は高旗 界人、スリップした車と正面衝突した。覚えているね?」
「……ぁ、はい。覚えてます」
この展開はラノベとかで見た事がある。どうやら僕は死んでしまったらしい。
「いや、君は死んでいない。今は手術が終わって、病院のベッドで深い眠りについているよ」
深い眠り……? 昏睡状態?
「うん、そうだね。でもさ、『神』はずっと世界を管理したりして、はっきり言って退屈なんだよ。時々『暇潰し』がしたくなる」
暇潰し? 急に何の話だろう?
「そう。というわけで、君を異世界に転生させるよ」
「えっ?」
「大丈夫、君の大好きな剣と魔法のファンタジー異世界だよ」
なんか急に異世界転生することになった。いや、好きだけど。
「異世界に新しい肉体を作って、それに君の魂を入れる。ちゃんと言語もわかるようにしておくよ」
「あの、チートとかは……?」
「もちろんチート能力もあげよう。私は君が異世界で過ごすのを見て楽しむ。WIN-WINの関係ってやつだね」
チートは貰えるようだ。
剣と魔法の世界でチートが無いのは、コミュ障陰キャの僕にはさすがにキツい。
「あー、でも何の苦労もせずに無双するのを見るのはあまり面白くないな。何か『呪い』でもかけておこうかな」
ん? 今変なのが聞こえた。
「呪い?」
「そう。君の行動にちょっとした制限をかけるんだ。大丈夫、普通に生活してれば呪いは発動しないと思うよ」
なぜかすごく嫌な予感がする。
「……それで僕は異世界で何をすれば?」
「んー、簡単に言えば魔物退治かな。遥か昔に勇者が封印した『魔王』が復活しかけてて、魔王の瘴気の影響で魔物が突然変異したりしてるから、それを倒してほしいんだ」
「あの、僕は魔王を倒さなくていいんですか?」
「もうすでに新しい勇者は生まれてるから、別にしなくても良いよ」
何となくわかってきた。
「さて、私としてはそろそろ君を転生させたいんだけど、準備は良いかい?」
「あっ! 待って」
思わず大きな声を出してしまう。けど、これは大切なことだ。
「あの、元の世界に帰るにはどうすればいいですか?」
そう、僕の肉体は病院のベッドで昏睡状態だ。
僕にもう両親はいないけど、その代わりとても仲のいい友人がいる。彼にあまり迷惑をかけたくない。
「あー……、どうしようかな」
『神』が考えている。もしかして、聞かれなければ僕を元の世界に帰さないつもりだったのだろうか。
「うん、人生には目標があった方がいいよね。じゃあこうしよう。『魔王の討伐か封印』、『私がかけた呪いの解除』、これのどちらかが達成できたら、帰れることにしようかな」
「えっ」
ノルマが予想してたよりキツい。
まあ、『神』からすれば僕は『暇潰し』の道具だ。帰すつもりはないのだろう。
「それじゃあもう転生させるね。頑張って私を楽しませてね、高旗 界人くん」
「ぇ、ちょっとま、心の準備が」
また、意識が遠くなっていく。
「あ、自分の能力とかは『ステータスオープン』って言ったら見られるからね」
その言葉を聞いたあと、僕の意識は途切れた。